67 これが答えのラストファイト! 店長VSアロマ ④
アロマさんとの出会いを経て、こうして俺はそのラストファイトの相手に選ばれるほど事件に関わることとなる。
それは、俺のこの世界における人生において、とても貴重な経験だ。
別に、他人の事件に関われないわけではない。
直接事件を解決することができないだけで、アドバイスを送ったりすることはある。
ネッカ少年の事件に関しては、そこそこ関わっている方だろうしな。
本来なら、ヤトちゃんのこともそうなるはずだったのだが……色々おかしなことになってしまった。
今後ヤトちゃんの運命がどうなるかは、はっきり言って誰にも解らない。
……話を戻そう。
そう、初めての経験というわけではない。
ただ……ラストファイトの相手に選ばれるほど、密接に関わったのは初めてだ。
アロマさんの憧れとなり、向かう先を示し、更には状況を打開するための切り札すら俺が手渡して。
そして最後には、全てを解決して戻ってきてくれた。
そんな彼女に対し、俺がかけられる言葉はなんだ?
どんな言葉がふさわしい?
決して彼女にとって部外者ではなく、けれども同時に戦いを見届けたわけではない立場の人間が。
彼女に送るべき、言葉は何だ?
そう考えた時、俺はあることを思い出した。
俺が彼女にかけるべき言葉。
それを教えてくれたのは、奇しくもここ最近あった、もう一つの出会いだった。
「さぁ続きだ、カードを回収するといい」
「……<庭園>を手札に加えますわ」
<茨天使>と<セントプリマ>が並び合う。
これで、状況は整った。
<セントプリマ>はサモンされたばかりでまだバトルができる。
アロマさんの手札は一枚、彼女が無効にできるエフェクトは一つだけだ。
「……お嬢様」
「ああ、そうだな。この攻防で決着がつくだろう」
観客たちも、ここが最後のやり取りになると理解している。
緊張が高まる中……俺は口を開く。
俺は、今回のファイトに至るまでの事を思い出す。
そして視線が――メカシィの方を向いた。
「アロマさんは……最強って言葉を意識した事があるか?」
最強。
それは、メカシィが作られた研究所の研究テーマである。
「最強……ですの?」
「アロマさんにとって……最強ってなんだ?」
「それは……もちろん、師匠店長様ですわ! 第三回ファイトカップでの師匠店長様のファイト、わたくし絶対に忘れませんもの!」
高らかにアロマさんが宣言する。
「……その店長に勝ったのが私なのだが」
「今いいところだから黙ってるです」
なんか外野から聞こえてくるが、ともかく。
確かに俺はあの大会でダイアに負けている。
それでもアロマさんが俺を最強だと声高に主張するのは、そこに憧れが混じっているからだろう。
「あの日刻みつけられた師匠店長様のファイト以上に、わたくしが求める最強はございません」
「そうだな……けれども、最強ってのはとても難しい概念だ。なぜなら、人によって最強のファイターが誰かという問いの答えが違うからだ」
たとえば、アロマさんなら俺が最強だとたった今答えたばかり。
ヤトちゃんならば、いずれ自分が最強になりたいと答えるだろう。
そしてダイアに問いかければ、自分こそが最強だと確信を持って宣言するはずだ。
だから、最強の問いは人によって答えが違う。
だとすれば、最強とは何か。
その問いに、明確なたった一つの答えを求めることは不可能なのではないか?
「……店長。ピガガピー」
メカシィが、こちらをどこか不安そうに見上げる。
メカシィは、最強とは何か……その問いの答えを求めて作られた。
しかし、もし仮に、その問いに答えがないのだとすれば。
それは、とても残酷なことではないだろうか。
「……いいえ、いいえ! 違いますわ! きっと、その問いには答えがございます! だって、わたくしはこんなにも――師匠店長様の強さを確信しているのですから!」
「ああ……あるさ。答えはある」
俺は、頷いた。
そして、宣言する。
「<セントプリマ>で、<茨天使>を攻撃!」
「攻撃力は同じ。ですが<茨天使>は、自身がフィールドを離れる時にも手札を捨てることが可能。その場合相手モンスターが破壊されれば、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与えますの!」
<番人>の頃からあった手札を捨てることで破壊を免れる効果。
それが<茨天使>にもあるようだ。
<茨天使>の場合は、フィールドから離れる時……つまり、バウンス等の方法で除去しようとしても無効化できるという違いはあるが。
今は、戦闘による相打ち狙いだから関係ない。
「この状況で、俺は<セントプリマ>のエフェクトを発動する!」
「……それは!」
「さぁ、このエフェクトを無効にするか、しないか。選んでもらおう!」
それは究極の選択だ。
エフェクトを無効にしなければ、エフェクトの効果によって<茨天使>がフィールドから取り除かれてしまうかもしれない。
<セントプリマ>が<茨天使>の類似モンスターである以上、その効果は似通っている可能性が高い。
例えば、「相手モンスターのエフェクトを無効にして破壊する」とか。
しかし、もしもこの効果がブラフの場合、<茨天使>は相打ちとなりアロマさんは切り札を失う。
「わたくしは……わたくしは!」
「さぁ……どうする?」
「く……っ! <茨天使>のエフェクト発動!」
アロマさんは、先に発動した<セントプリマ>のエフェクト無効を選択したようだ。
茨が<セントプリマ>に巻き付き、爆発が起きる。
「まぁ、そうするしかないよな。そしてそれは大正解だ。<セントプリマ>は相手モンスターのエフェクトを無効にして破壊する効果がある。もちろん、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果も、だ」
「……ですがそれを無効にした以上、今度はこちらのエフェクトが師匠店長様にトドメをさしますわ!」
これで、<セントプリマ>が破壊されればバーンダメージにより俺は敗北する。
「……ああ、そうだな。だが俺は……負けられない。この場所では絶対にだ!」
その宣言とともに煙が晴れーー
<エクス・メタトロン>が飛び出してくる。
「な――! なぜですの!?」
「<茨姫騎士>が破壊時に<茨天使>を呼び出すように、<セントプリマ>は自分以外の<古式聖天使>モンスターをセメタリーからサモンできる」
「……なるほど。ですがそれでは、破壊されたことによるダメージを無視できませんわ!」
アロマさんが宣言する。
俺は頷いたうえで、一枚のカードを指し示した。
<茨天使>のエフェクトと同時に発動したカウンターエフェクトだ。
「――<譲れない場所>。セメタリーのこのカードと、フィールドのモンスター一体をデッキに戻すことで発動。以後このターン、俺のモンスターはエフェクトを無効化されない」
「な――! <茨天使>のもう一つのエフェクトが!」
アロマさんが驚愕する。
<茨天使>にはもう一つの効果があったようだ。
しかし、<譲れない場所>で<エクス・メタトロン>が効果を無効化されなくなったことで、それを妨害できるようになった……ということか。
加えて、俺は<セントプリマ>を破壊される前にデッキへ戻した。
これで<茨天使>のバーンダメージも発生しない。
「これでは……!」
「……アロマさん。この世界には無数の最強があって、それらの答えは一つ一つ違う。けれども、同時にそれらの最強にはある一つの共通点がある」
それこそが、最強という問いに対する答えなのだ。
アロマさんがこちらを正面から見据える。
俺の答えを、待っている。
だから俺は、それを口にする。
「――それは、憧れだ」
憧れ。
それは多くのファイターの出発点。
アロマさんは俺という存在に憧れて、最強を目指した。
ネッカ少年は、自分こそが最強だと信じて疑わず、最強になった自分にあこがれて、それを目指している。
そして、メカシィもまた。
あのカード生成実験の時、メカシィはメカシィにとっての最強――研究所の所長と副所長のファイトを食い入るように見つめていた。
「だからきっと、人は最強という存在に、これからもずっと憧れ続けるんだ」
「……でしたら、師匠店長様にとっての最強とは……憧れとは、何だったんですの?」
「それは――」
俺は、周囲を見渡す。
エレアが俺を応援してくれている。
皆がファイトの行く末に固唾をのんでいる。
そして眼の前に、俺と死闘を繰り広げるアロマさんがいる。
なら、答えは最初から決まっているだろう。
「当然――この店だ」
こういう店を作りたいと思った。
カードゲームが全ての世界に生まれ変わって、そんな世界で生きてきて。
この世界は、俺の憧れた――俺が生きたいと思うような世界だった。
だからきっと、この世界に対する憧れが、この世界で強くなりたいと思った俺の出発点で。
そして俺はその終着点に。
自分だけの世界を作りたいと思った。
そんな俺が作り上げた店。
カードショップ「デュエリスト」。
ここが俺の憧れで、そしてここでファイトする俺は、かつて俺の憧れた最強の俺でなくちゃならない。
そんな、俺の譲れない場所。
「だから俺はこれからも、この店の最強でありつづけるんだから!」
その言葉に、アロマさんは納得したように笑みを浮かべた。
同時に俺も、笑みを浮かべて宣言する。
「……理解しましたわ、それこそが師匠店長様ということですのね! ――<茨天使>!」
「ああ、いくぞ! これで決めろ、<メタトロン>!」
<茨天使>と<メタトロン>が激突し、<メタトロン>が勝利する。
勝ったのは――俺だった。
□□□□□
誰からともなく、拍手が起こる。
最初に俺達のもとに駆け寄ってきたのはアウローラさんとアリスさん。
決着の余波で倒れたアロマさんを、抱え起こしていた。
次にエレアがやってきて……その後にネッカ少年とクロー少年だ。
「すげー! 店長もアロマの姉ちゃんも強かった! 俺もファイトしてくれ!」
「ずるいぞネッカ、俺もファイトする」
やいのやいの。
みな楽しそうに、アロマさんとファイトしたがったり、ファイトの感想を口にしている。
俺とエレアが、それを横から眺めるのだ。
おいそこの不審者、ネッカやクローにまぎれてアロマさんにファイトをねだるんじゃない。
「お疲れさまでした、店長」
「ああ。流石に、こういうファイトは疲れるな」
「まさか勝っちゃうなんて、大人げないんじゃないですか?」
「と言ってもなぁ。最後にアロマさんが全力で俺を倒すことを選んだ以上、俺もそれに応えなくちゃならん」
結果として俺が勝ったのなら、それは時の運というものだ。
それにほら、ラストファイトで主人公が負ける時だってあるしな。
ゼアルの一期とか。
「それにしても……最強でありつづける、ですかぁ」
「なんだ、アロマさんもそうだけど含みがある言い方だな?」
「ふふふ、何でもありませんよ。店長のそういうところが、私は素敵だと思うんです」
くそこいつ、そういう気恥ずかしいことを言っておけばごまかせると思って。
まぁ実際、ごまかされてしまうんだけど。
「さて、店長。一つ聞かせてもらってもいいですか?」
「何だ?」
「こうして、一人のいたいけな少女をプロファイターの道へ導いたわけですが、印象にのこったことはありますか?」
いたいけって。
色々言いたいことはあるが、エレアの質問への答えは明白だ。
「ここのファイターは血気盛んすぎるです。アロマを気遣うです」
「いいえアリスお姉様、気遣いは無用ですわ! 全員まとめてかかってきてくださいまし――!」
アロマさんのもとへ集まった、うちの常連たち。
それに対して、全員と戦うことを選んだアロマさんを見て、俺は一言。
「――全部、だな」
そう、端的に応えるのだった。
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