63 大人たちのお疲れ様回
「では、お集まり頂き感謝です」
「ああ、つってもダイアもシズカさんもいないが……」
「逢田トウマはそもそも呼んでないです」
ダイア……不憫なやつ!
まぁ、俺が呼ぶことになってるだけなんだけど。
そして予定が合わなかっただけなんだけど。
さて、何をしているかと言えば呑み会である。
アロマさん達が無事にデビラスキングを封印し、勝利したことの。
まぁ、肝心のアロマさん達がいないのだが。
もっと言えば、呼ぼうとしたメンバーのうち、シズカさんは予定が合わず欠席。
ダイアも予定が合わず欠席。
まぁ、そんな色々と残念な呑み会なのだが……
「ほほほほほほんじちゅはおひがりゃもよきゅっ!」
「……彼女は何を言ってるです?」
「溶けてないだけ、頑張ってる方だと思うぞ」
参加者の一人であるエレアが、それはもうテンパっていた。
なにせここにはエレアにとって最推しファイターの一人であるアリスさんがいる。
冷静に振る舞えるわけがない。
じゃあ不参加でいいのでは、と思うのだが。
どうも俺とアリスさんを二人きりにしたくない心理が働いているらしく。
こうして、色々無理を押して参加しているわけだ。
「まぁ、彼女のことは気にしないでくれ。酒を入れればすぐにこうも言ってられなくなる」
「酔いやすいってことじゃないです? 貴方、彼女の面倒ちゃんと見切れるんですよね?」
「晩酌に付き合ったことはあるからな、問題ない」
ぶっちゃけ、今はこんな感じだがエレアは酔いやすい。
酔えば色々タガが外れて、逆にいつも通りに振る舞えるようになるだろう。
普段の経験から、エレアは緊張してるときは酒を入れたほうが楽なのは理解している。
だから、そこまで問題はないだろうと思っていたのだが。
「――どおして、どおして私はアロマの予定を確認してなかったんれす?」
「わかりますよぉ、ひっく。慢心しちゃうんれすよねぇ、きっと大丈夫らって……うひひ」
アリスさんもお酒がダメだった――――
酒にダメな小柄な成人が二人いた。
どうして……。
いや、なんというかアレだ。
アリスさんは自信満々に自分はお酒で失敗しないと宣って……失礼、豪語していた。
それがこの有り様である。
シズカさんは何していたんだ、こういうのはきっとシズカさんが普段は面倒みていたんだろうに。
……面倒見が良すぎて、アリスさんに無駄な自信がついてしまっていた?
それを解ったうえで、俺なら大丈夫だろうとシズカさんはアリスさんを任せた?
ありそうだ……とてもありそうだ!
「ありょまぁ……ありょまぁ……れす」
「えへへ……アリスちゃんはかわいいですねぇ……」
さて、酔いつぶれてるちびっこ成人二人はさておいて。
ちょうどアリスさんが言及しているので、なぜお疲れ様会なのに主役がいないかと言えば、予定がブッキングしたからだ。
アリスさんは、そりゃあ忙しい人である。
謎のフードの女性としてアロマさんをサポートする傍ら、ユースティア家の当主としての仕事やプロファイターとしての仕事を両立させていた。
が、それでもアロマさんのサポートはプライベートなことである。
それに傾倒するということは、他の仕事を滞らせているということだ。
もちろん、アリスさんは優秀なので他人に迷惑をかけたりしないが、それはそれとして後回しになっている仕事は多い。
そのせいで、取れる時間は更に少ない。
呑み会なんてやってる時間は、今日この夜を除いてなかったのである。
そしてその日は、アロマさんが友人――マジカルファイターとして仲良くなった少女――とパジャマパーティをする日だったらしい。
アロマさんの予定を確保していなかったアリスさんは、無事にアロマさんとお疲れ様会をすることができず。
パジャマパーティに混ざろうにも、アロマさんの「どうしてもアウちゃんと二人で色々お話がしたいんです」というお願いを受けてはそうもいかない。
かくして予定は変更され、急遽大人だけの呑み会が始まったわけだが。
「ううー、もういっぱーいれす」
「わたひもくらさーい。えへへーアリスちゃーん」
ご覧の有様である。
どうしたもんかな……これ。
最悪二人まとめて店の居住スペースに放り込むか。
翌朝アリスさんと同衾したことに気付いたエレアが大変なことになりそうだが、いい薬である。
「てんちょーも一緒にのみましょうよぉ。うへへ、うへへへへ」
「これ以上呑んで、俺まで酔えるか」
そう言いながら、俺はすでに飲み物をアルコールの入っていないものに切り替えて、つまみを楽しむ態勢に入っている。
俺は基本的にそこまで酒で酔うタイプではないが、特別強いってわけでもないのでこれ以上酒を入れるわけにはいかない。
「むぅ……エレアさんと店長は仲がいいれす」
「そうなんれすよー、えへへ、ねんごろってやつですねぇ」
「わたひにも、わたひにも出会いが欲しいれす……!」
何を言っているんだろうこの二人は。
懇ろってなんだ、懇ろって。
「アリスちゃんは、おつきあいひてる人とかいないんですか?」
「いないれす……彼氏いないれきイコールねんれいれす……!」
世界有数の有名人のプライベートが詳らかにされている……!
俺は二人の話を肴にしつつ、二人がやばい状態にならないかを見張ることに専念した。
聞くべきではないのだろうが、流石に聞かないわけにもいかないしな。
ならいっそ肴にしてしまおうと、開き直ることにしたのだ。
あ、この唐揚げ美味い。
「そもそもユースティアの当主である以上、相手にも家格というものが必要れす」
「ひゃあ、お嬢様ですよぉ」
「まぁ、でもぶっちゃけわたひが好きになった相手なら、家格はどうでもいいんれす」
一瞬で矛盾するんだが、どういうことだよおい。
「なぜなら……わたひは男を見る目があるのれす。そういうわたひが見初めた相手なら、家格なんて後からどうとでもなるれす!」
「おおー」
ほんとかなぁ……。
まぁ、家格がどうとでもなるというのは事実だろう。
なにせ今の時代、事件は世界のそこら中でおきている。
アリスさんが認めるようなファイターなら、当然それを解決するだろう。
事件を解決し、名を挙げれば家格みたいなものはあとから付いてくるというわけだ。
んでまぁ身持ちが固いのは事実なんだろうな、と先ほどの宣言を思い出して考える。
いやでも、逆にハードルが高すぎてシズカさんと同じ道をたどってないか?
「シズカも言っていたれす。彼氏は自分にふさわしい男でないとダメだと……れす!」
シズカさんの入れ知恵だった……!
あの人、自分の仲間を増やそうとしてないよな!?
「それ、見つからなかったら大変じゃないですか?」
「まぁ、最悪ダメならこれだと思った子供を養子にするれす。アロマとか」
アロマさんなら、確かにアリスさんの跡を継げるだろうけど……年齢そこまで違わないから意味ないような気もするぞ。
「ちなみに、アリスちゃんの好みって?」
「うーん、れす」
相変わらず、俺が聞いちゃいけないような会話が続いているなぁ。
まぁ、今のうちに楽しんで、後で聞かなかったことにして全てを忘れればいい。
エレアは酔いすぎると記憶が残らないタイプだ。
アリスさんも同じタイプなら、今日のこの会話は俺が忘れてしまえば永遠に闇に葬られることとなるだろう。
「ちょっと年上がいいれす」
「うんうん」
「頼りになる大人、って感じの人がいいれす」
「なるほどぉ」
「人を教え導いて、迷っている人の背中を押してくれる人がいいれす」
「うーん?」
うーん?
首を傾げるエレア。
俺も内心、引っ掛かりを覚える。
「後は当然、私くらいファイトが強くいないとだめれす」
「条件が厳しすぎますよぉ! ……あれ?」
ふと、エレアの視線がこっちに向いた。
「……つまり店長のことでは?」
うん?
「はっ、そういえばそうれす」
「……そうなるのか?」
まぁ、頼りになる大人かどうかはともかく、人を教え導いたり背中を押すことは多いな。
でもそれは店長だからだ、カードショップ店長は人々の規範にならないといけない。
この世界の常識である。
「う、うーーーーー!」
とか考えていると、エレアがすごい声を出しながら寄ってきた。
「だめでーす! 私は店長のでーす! あげませんー!」
「ちょ、エレア!?」
言ってることが支離滅裂だぞ!?
本人的には「エレアが店長のもの」であってるんだろうけど。
そのせいで本来言うべき台詞と噛み合ってない。
というか、エレアの性分は酔ってても変わらないのか……難儀だな……!
「いやまぁ、流石にそれを見て取ろうとは思わないれす」
「ほっ……」
「店長もエレアさんもうらやましいれす」
そう言いながら、アリスさんはメニュー表を開いて。
「私の切ない初恋の失恋を慰めるれす! もういっぱい!」
「絶対そんなこと思ってないよな!?」
更に酒を入れようとするのだった。
なお、この呑み会の記憶をエレアもアリスさんも覚えていなかった。
よかった……主に二人の名誉のために。
まぁエレアはアリスさんがリビングで寝ていることに気付いて灰と化したのだが……流石にそれは知らん。
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