62 貴様にそれを教えた奴に伝えろ。
「マジカルファイターとのファイトを――」
「――楽しんでる……ですか?」
俺の言葉に、レンさんとエレアが首を傾げる。
楽しんでいる。
文字通りの意味だ。
「デビラスキングにとって、封印が破られ外の世界に干渉することの間できることって、マジカルファイターとファイトすることしかないだろ?」
「う、む……? まぁ、そうなるのか」
「前にアロマさんに聞いたが、デビラスってのはデビラスキングの一部を切り離して作られた存在らしい」
すなわち、復活したデビラスキングはデビラスを生み出して、外の世界に送り出す。
そこに現れたマジカルファイターとデビラスを通してファイトすること。
それがデビラスキングの唯一の楽しみだとしたら?
「デビラスキングは、マジカルファイターを倒さないと外の世界に干渉することができないなら、マジカルファイターを倒すための方法を考えるのは当然のことだろ?」
「まぁ、そうなりますね」
「……ファイターにとって、ファイトとそのためにデッキを構築する時間っていうのは、最も幸福な時間だよ」
断言する。
そのことを、この場にいる誰もが否定できないことは解りきっているからだ。
とはいえ、それはあくまでファイターの話。
「だが、ダークファイターは悪に堕ちた人間か、もしくは悪として生み出された自然現象だ。そんな状態のファイターが、ファイトを楽しめるものか?」
「普通なら、そうだな。――でも、デビラスキングは当初の執着を失っている」
それは、デビラスキングの「世界をめちゃくちゃにする」というくびきから解き放たれているということだ。
なら、その状態のデビラスキングにはファイトを楽しむ余裕が生まれているかもしれないよな?
「う、うーん。めんどくさいツンデレかなにかですか?」
「マジカルファイターと共闘する機会があったら、そうなるかもな」
「劇場版展開! それならもう、デビラスキングなんてやらなくてもいいじゃないですかー!」
確かに、デビラスキングが改心して純粋にファイトを楽しむ善良なファイターになっていたなら、そうだろう。
でも、それだけじゃないんだ。
「と、ここまで俺は自分の考えを語ったけど、俺はそれだけが正解じゃないと思う」
「どういうことだ、天の民よ」
「レンさん……もとい、アリスさんの答えや、エレアの答えだって正しいってことだよ」
俺がそう言うとレンさんがうー、と威嚇してくる。
しかし、そうやって威嚇するのはやめたほうがいいぞ。
エレアがレンさんの威嚇に目を輝かせてるからな。
「人もダークファイターも、答えを一つしか持たないような単純な生き物じゃない。デビラスキングもそうだ」
「役割を遂行する責務を全うし、役割を放棄することを恐れ、そして……役割の中に楽しみを見出している、といったところむぎゅっ」
「レンさんが可愛いのが悪いんですよ!」
あ、レンさんがエレアに抱きつかれた。
「ま、何にしても……答えは一つじゃないってところがポイントだろうな」
「むぎゅぎゅーっ! 天の民! 嫁が暴れているぞ、助けろ!」
「ま、まだ嫁じゃないですよっ!」
「それは俺にどういう反応を求めてるんだよ!」
やいのやいの。
概ね話したいことを話し終わったからか、そこからはどんどん話題が脱線していった。
ネッカ少年やクロー少年が店にやってきたり、他にもお客さんがやってきて。
静かだった俺の店は、通常営業に移っていく。
アロマさん達は、朝早くから出発したそうだ。
そろそろ、戦いは終わっている頃だろうか――
日常に追われながら、俺はそう考えるのだった。
□□□□□
『――答えが一つではない、か』
アロマは、デビラスキングに考えを伝えた。
デビラスキングがファイトを楽しんでいるということ、デビラスキングが今の状態を維持している理由がそれだけではないこと。
奇しくも同時刻、エレアやレンにデビラスキングの考えを語っていた店長の内容と一致する。
それは、同時刻に考えを語ったことこそ偶然だが、店長とアロマの考えが一致したことは偶然ではない。
もとより、二人の思考の出発点は、以前店長が口にした言葉だ。
本来の目的を果たせず、ただ復活と封印を繰り返すだけのデビラスキングが何を考えているのか。
そのうえで、二人が全く同じ考えに至った理由は――
「師匠店長様が言い淀んだ時、ピンと来ましたわ。師匠店長様には自分なりの考えがある……と。なら、わたくしが師匠店長様ならどう考えるかを考えればいいんですの」
アロマは、自分をここまで導いてくれた先達を思い出しながら、そういった。
あの、誰もが認めるファイターの導き手。
彼ならば、デビラスキングにすらふさわしい言葉を投げかけるのだろう……と。
「いかがでしょう、デビラスキング」
『ク…………』
デビラスキングは、一瞬だけ沈黙する。
そこでアロマと視線が交錯し、“なにか”を瞳の奥に感じ取ったのだろう。
口を、開いた。
『ハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハ! 面白い戯言を宣うものだ、今代のマジカルファイターよ!』
デビラスキングは、アロマの言葉を肯定も否定もしなかった。
する必要がなかったからだ。
そもそもデビラスキングに、自分の考えを明かす理由はない。
何より、答えが一つではないとアロマ自身が言った以上、それをデビラスキングが自分自身で確定させるのは野暮というものだ。
『――名を名乗れ、その名、覚えてやろう』
「アロマ。……アロマ・ユースティアですわ」
『いいだろう、アロマ・ユースティア。貴様の名に免じて、その戯言を許す』
「光栄ですわね」
そう言って、アロマは軽く笑みを浮かべる。
「それと……忘れてはいけない要因がもう一つ」
『ほう、何だ?』
「貴方が――悪魔のカードを所持しているという事実ですわ」
アロマは、この考えを抱くに至った核心を語る。
この世界の古い伝承に、こんなものがある。
世界に回避できない災厄が訪れた時、神は天の御遣いを伴って、使者をこの世界に遣わせる。
使者はこの世界を慈しみ、この世界を脅かす災厄を許さない。
使者は、この世界の人々が乗り越えることができる厄災を、人々への試練とした。
その試練の証こそが、悪魔のカードである……と。
アロマは店長の考えを自分なりに模倣すると決めた時に、ふと彼の使用するカードに関して気になった。
調べた結果、この伝承が見つかったのだ。
当然、アロマはそれが店長のことだとピンと来た。
「貴方が生まれた世界は、わたくし達が生まれた世界ではない。アウちゃんのようなモンスターが生まれる異界ですの。異界の住人は、悪魔のカードを持たない。だというのに貴方はそれを持っている」
『……』
「そのカード、一体どこで手に入れたんですの?」
デビラスキングは何も答えなかった。
しかし、カードを持っている時点でデビラスキングの行動は世界を滅ぼすものではなく、人々に対する試練だと“彼”が認めたようなもの。
だからこそ、アロマは自分の考えに疑問を抱かないのだ。
彼が選んだのならば、きっとそれは正しいことなのだ、と。
『――業腹だ』
「……」
『それは、吾輩を下に見ているのと同じこと。上から目線に、吾輩を赦すなどと!』
デビラスキングは、吠えた。
力強くアロマを睨みつけ、その奥にいるアロマの背中を押した誰かをも睨みつける。
語る言葉は怒りに満ちている。
だが、どこかその口調には歓びが見える。
それは――デビラスキングの中に、一つの目標が見つかったことを如実に表していた。
『貴様の背を押した者に伝えろ!』
それと同時に、アロマの体が封印の外へ押し出され始める。
デビラスキングの威圧が、アロマの魂を外へ押し出そうとしているのだ。
同時に、外からアリス達がアロマを引っ張り出そうとしている。
『我が名はデビラスキング! この世界に混沌をもたらすデビラスの王! 我こそが、この世界を手中に収めるに相応しき器!』
そして――
『いずれ貴様に勝利するものの名だ!』
そう、高らかに宣言した。
アロマもその言葉を聞いて、不敵に笑みをうかべる。
「どうやら……貴方の答えが見つかったようですわね。目指すべき……答えが」
『知ったような口を利くな、アロマ・ユースティア! 貴様もいまだ道半ば、吾輩を見下す資格などない!』
「ええ、ええ……そうですわね! でしたら、わたくしから伝えるべき言葉は一つだけ」
そう言って、アロマは胸に手を当てる。
その言葉は、アロマの人生においてもっとも嬉しかった言葉。
アロマが、ここまで進み続けようと心に決めた、彼の言葉だ。
「貴方とのファイト、わたくしはとても楽しかったですわ。――デビラスキング」
その言葉に、デビラスキングは返事をせず。
『クハハハハハハハハッ! ハハハハハハハハハ――――!!』
高笑いのみで返す。
同時にアロマの体が封印の外へとはじき出され――
かくして、アロマ・ユースティアとその仲間たちの、マジカルファイターとしての戦いは終わりを告げた。
□□□□□
なお、言うまでもないが。
店長があの時言い淀んだことで、アロマはデビラスキングの抱える感情に答えを出してしまった。
本来ならデビラスキングがマジカルファイターとの戦いの中に楽しみを見出していることを理解するだけだったのだが。
デビラスキングが悪魔のカードを所持している理由まで、アロマは知ってしまった。
結果、案の定バグが発生するのである。
といっても、直接店長が手を加えたわけではないので、全てが台無しになるわけではない。
だが、今後アロマ編セカンドシーズンが始まった時、セカンドシーズンの黒幕の野望が、黒幕すら制御できない方向へ転がっていく事となるのだが――
それはまた、別のお話。
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