29 二人きりのデュエリスト。店長VSエレア(中編)
少し、勿体ぶるが。
――三つ目の答えを、口にする前に。
俺も、エレアに質問をすることにした。
「なぁ、エレア」
「なんですか?」
「どうしてエレアは、自分がモンスターだと周囲に話さないんだ?」
その言葉に、一瞬エレアの手が止まる。
そのまま、思考を巡らせつつエレアの手がカードに触れる。
偵察兵としてマルチタスク技能を有するエレアのことだ、ここからの展開と俺の質問を同時に思考しているのだろう。
「店長の三つ目の答えはお預けですか」
「俺も答えたんだ、エレアだって答えてくれてもいいだろ?」
「そうですねー」
やがて、考えが纏まったのだろう。
よし、と一言だけこぼしてから続けてカードをプレイしていく。
「私の理由は……やっぱりこれも三つあります」
「何だよ、似た者同士か?」
「かもしれません」
<帝国革命の御旗>展開後の「帝国」デッキは非常に制圧力が高い。
それまでが高い打点を誇る攻撃的なデッキだった分、かなり防御力の高いデッキと言えるだろう。
二つの全く異なる動きを両立させうるのが、この世界のファイターの運命力ってやつだな。
「一つは……正直、明かす理由がないからです」
「まぁ、明かしたところで、驚かれこそすれ排除されることもないだろうしな」
モンスターの中には、超常的な力を操るモンスターもいる。
エレアだって、全力で武装すればこの世界の軍人相手に無双できる能力がある。
そのうえで、トップクラスのファイターはそんな超常的な力をものともしない。
というより、最終的な解決方法をイグニッションファイトに持ち込む能力が高い。
口八丁だったり、作戦だったり、純粋に武力で対抗できたり。
そうすると、別にモンスターだからって周囲から排他的な態度を取られることはほとんど無いのだ。
「というより、モンスターであるって公言して、オトクなサービスとか受けられますか? 受けられませんよ」
「ああ、そういう」
もっと俗な理由だった。
まぁエレアらしいといえば、らしい。
「もちろん、モンスターだから何かと不利益なことはありますし、それに対して受けられるサポートもありますけど。それって別にモンスターであることを公言する必要はないですしね」
「実際、公言してないエレアもサポートを受けられたわけだしな」
具体的には、刑事さんが色々と便宜を図ってくれたり。
戸籍とか、保護者とか、その他諸々。
手続きをしてくれたのはあの人だ。
「というわけで、ドーン! <帝国革命の
話をしながら、エレアは「帝国革命」モンスターのエースを呼び出した。
「帝国」には機械兵みたいな存在がいるそうだが、それを開拓用の重機に転用した――巨大ロボ。
それが、「帝国革命」後のエースモンスターである。
そのまま、<開拓工兵>と俺の<アークロード・ミカエル>が激突。
<帝国革命の御旗>の効果は、展開補助と打点補助だ。
そんな<御旗>の効果で、俺の<アークロード・ミカエル>は突破されてしまった。
とはいえそれで俺が敗北するわけではない。
決着を付けきれないまま、エレアがターンエンドする。
「俺のターンだ」
<アークロード・ミカエル>が敗れれば、次に俺が呼び出すエースは決まっている。
他人の空似シリーズでないかぎり、呼び出すのはこいつしかいない。
「そろそろ決めに行くぞ、<
現れたのは、無数の羽を伴ったひし形の水晶。
俺の「古式天使」モンスターは大型になればなるほど人型に近づいていくが、その最終エースは原点回帰のひし形……ペンダントによくありそうなデザインの水晶だ。
まぁ、仰々しい水晶の羽を大量に生やしているが。
「でましたね、メタトロン。今日こそは突破してやります」
「エレア相手に、アークロードの段階で押し切られて負けたことはあるが……メタトロンまでもつれ込んで負けたことはない。今日もそれは同じことだ」
激突する双方の最終エース。
とはいえ、「帝国革命」モンスターは無効化効果が多い。
特に「開拓工兵」は、発動したエフェクトを複数回妨害する効果がある。
代わりに、強制発動で使うと弱体化する遊戯王でいうところのウーサやライダーみたいな効果だな。
そこを、<御旗>の打点補助で補えるのが強いんだが。
ともかく。
そんな<開拓工兵>を含めた妨害で、1ターンで仕留めきることは不可能になった。
<開拓工兵>は倒せるが、ターンをエレアに渡すことになるな。
そうなればおそらく……エレアの新しい切り札が出てくるだろう。
「それで、2つ目の理由でしたね」
「ああ、どんな理由だ?」
激突するエースモンスター同士。
俺がカウンターエフェクトで<エクス・メタトロン>をサポート。
少しだけ俺のほうが打点を上回り、<開拓工兵>は突破された。
「2つ目は……隠してるつもりがないから、です」
俺がカウンターエフェクトを一枚セットして、ターンを終わらせる。
そして、エレアのターン。
エレアは再びモンスターを展開する。
「確かに私はモンスターで、この世界の人間じゃありません。でも、そこまで私とこの世界の人々は違うものじゃないと思います」
「まぁ実際、エレアは今普通の人間としてこの世界に馴染んでるからな」
「馴染みすぎ……かもしれないですけどね」
かもしれないどころじゃない。
何なら、この世界のどんな人間よりもエレアは人間くさいかもしれない。
もしかしたら、前世の記憶という特別なものを持っている俺のほうが、人間らしくないかも知れないな。
まぁ、今更そんなことで悩むつもりもないけれど。
「……さぁ、行きますよ。ここからは、店長も一度だって目にしたことのない未知の領域です」
「楽しみにしようじゃないか」
「ではまずは……セメタリーよりこのカードをサモンします!」
イグニスボードから、カードを一枚天高く掲げ、エレアは宣言する。
召喚条件は……フィールドに<御旗>がある場合ってところか。
「どうせそのカウンターエフェクト、<ゴッド・デクラレイション>なのでしょう。ですが<ゴッド・デクラレイション>には欠点がある。それはモンスターのエフェクトを無効化できないということ」
「なら、<エクス・メタトロン>の効果を使えばいい」
<エクス・メタトロン>の効果は三つ。
そのうち一つは、効果破壊耐性。
もう一つは戦闘に関する効果。
そして最後の一つが……相手のカードの効果とサモンを無効にして“手札に戻す”効果。
破壊はしない。
さながら、相手に一度静止を促して、新しい道を進ませるかのような効果だ……とダイアが言っていた。
「このカードのサモンを行うエフェクトは手札かセメタリーから発動します。しかも発動回数に制限なし!」
「……<エクス・メタトロン>の効果じゃ意味がないってことか」
「その通り。では、ご登場願いましょう!」
エレアの宣言とともに、フィールドに展開された「帝国」モンスターが光を帯びて消える。
召喚の際に「帝国」モンスターをセメタリーに送る必要があるのか。
「来てください、<帝国革命の開拓者>!」
<開拓者>とは、またド直球な。
現れたのはフードを被った顔の見えない青年。
しかしそれは……
「……なんか、どっかで見たことあるな?」
「そうでしょう、そうでしょう。この特徴的な前髪、私ひと目見て気に入っちゃいました」
なんか、エレアが目をキラキラさせている。
サモンしただけでも嬉しいみたいな。
これはあれだ、推しを眺めるオタクの目だ。
……非常に複雑だな。
「帝国革命の開拓者はサモンした時にフィールドの全ての<帝国>モンスターをセメタリーに送り、送った数だけ攻撃力を上げます。その後、セメタリーから<帝国>モンスターを手札に加えます」
「そこまでの効果を全て一気に処理することで、<エクス・メタトロン>の効果をすり抜けるってことか」
最初のサモン効果から、セメタリーのカードを手札に戻すところまでが一連の流れ。
そうなれば、サモンを許した時点でその後の効果も無効化できない。
よくできたカードだ。
「<帝国革命の開拓者>は、フィールドに<帝国>モンスターがサモンされた場合、次のターンが終わるまで、フィールド上に<帝国>モンスターがいないファイターは、あらゆるエフェクトを発動することができません!」
「何?」
「条件を満たした場合に自動的に発動する永続エフェクトです。<メタトロン>もすり抜けますよ!」
「やりたい放題じゃないか」
とんでもない制圧カードだ。
最終エースでなければ許されない効果……発動条件がややこしいから、ギリギリ許されるか許されないかってところだな。
「そして私は、このターン通常のサモンを一度も行っていない。故に、先ほど手札に加えたこのカードをサモンできます」
「まさか……」
「ええ、そうです。来てください、私! <帝国の尖兵 エクレルール>!」
フィールドに、二人目のエレアが現れようとしている。
流石にこれを止めないと、俺の敗北は確定だ。
だが、止めてしまえば通常のサモンはターンに就き一回だけなので、負けることはない。
「<エクス・メタトロン>のエフェクトでそのサモンを無効、手札に戻ってもらうぞ」
「おや、そっちで良かったのですか? では<エクレルール>は手札に戻ります」
「これで、通常のサモンは使い切った。もう<帝国>モンスターは呼び出せないだろう?」
「……ふ」
そこで、エレアは笑みを浮かべた。
まさか……いやでもしかし、わざわざどんなモンスターをセメタリーから手札に戻してもよかったのに。
わざわざ<エクレルール>をエレアは選んだ。
そのことに、何かしらの意味があったのだとしたら。
「――それはどうかな? ……です」
<帝国革命の開拓者>は見せたかったものではない。
「店長から、どうして正体を隠すのか聞かれた時。店長は私の意図を読んだんじゃないかと思いましたよ」
「そんなツモリは……残念ながらなかったな」
「よかったです。改めて、私の2つ目の答えは……」
隠しているつもりがない。
ということは、エレアはあくまで自然体でエレアとして振る舞っているということだ。
エレアは変わった。
<エクレルール>はまさに、鋭い刃のような少女だ。
偵察兵として、帝国の尖兵として。
そう“あろう”としている少女だ。
そんなエレアが、今ではオタクで、穏やかな性格の……普通の少女になった。
俺の店の……店員になったんだ。
だが、だとしても。
エレアはエレアの中で変化したつもりがない。
だったらそれは――
「このカードは、<エクレルール>を手札かフィールドからセメタリーへ送ることで、手札かセメタリーからサモンできます!」
「……モンスターエフェクト! <ゴッド・デクラレイション>をこいつもすり抜けるのか!」
「先に<ゴッド・デクラレイション>を使っておくべきでしたね! さぁ、行きますよ!」
エレアが、一体のモンスターを呼び出す。
「<
かくして少女は現れる。
可愛らしいエレアによく似合う衣服と、エプロン。
その背中には、水晶の翼が浮かんでいる。
「大古式聖天使」によく見られる特徴だ。
「私は、変わりません。今も、昔も……これからも! 私はエクレルールであり、エレアです!」
他者の使うモンスターに酷似したタイプの「大古式聖天使」は――共通してある効果を持つ。
「このカードのカード名は、<帝国の尖兵 エクレルール>としても扱います!」
これで、<帝国革命の開拓者>の効果発動条件は満たされた。
そしてエレアは――
「故に私は、私と<
高らかに、そう宣言するのだ。
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