25 最強キャラは出し惜しみされてこそ
ヤトちゃんからダークファイターが出没し始めたと聞いて、こうなるだろうなぁという気はしていたが。
案の定、うちの店にダークファイターが押しかけてきた。
夜遅く、寝静まった闇の中、カードショップ“デュエリスト”の前にそいつはいた。
いち早くその存在を察知してくれたエレアからは、
『じゃあ、私は配信があるので陰ながら応援してますね』
とのメッセージが。
いや、ダークファイターがいるのに配信してる場合じゃないでしょ!
と思ったものの、まぁエレアだし……ということで早速ダークファイターを退治することにした。
「キーヒヒヒヒヒヒ! 貴様が“デュエリスト”の店長だなぁ!?」
「ええい、お前らはそういう言動しかできんのか」
俺の店を襲撃してくるダークファイターは、半数がチンピラ雑魚みたいな言動をする。
こないだと一緒だな。
残り半数はやたら偉そうな言動をしてくる。
もし仮に、そいつが本当に偉いんだとしたら、こんな地方都市のカードショップを直々に襲撃するんじゃない、と言いたいね。
それはそれとして。
チンピラタイプは、ぶっちゃけ八割が本当にチンピラなのでそこまで警戒するには値しない。
さっさと倒してしまおう、ということでファイトを開始した。
結果――
「これで終わりだ、<アークロード・ミカエル>で攻撃!」
「ぐえー!」
即殺だった。
なんなら<ゴッド・デクラレイション>を使うまでもなかった。
何だよこいつ、初手で出した雑魚モンスターを破壊して普通に攻撃したらワンキルできたぞ?
どうも、モンスターが戦闘破壊された時に効果を発揮する気配を感じたのだが。
今どき戦闘破壊で効果を発動するモンスターって、遅すぎない?
「くそ、俺がやられても! 次なる刺客がお前たちを――――!」
「たちって誰だよ、ここにいるのは俺一人だよ」
かくして、ダークファイターは闇に飲まれた。
悪魔のカードは……手元に残らないタイプみたいだな。
手元に残れば効果を確認することもできたのだが、本当に何がなんだかわからないまま終わってしまった。
まぁ、たまにはこれくらい楽に終わるダークファイトがあってもいいのだ。
ただ問題はここからだ。
俺がダークファイターを倒すと、時折遅れてやってくるエージェントが現れる。
前回襲われた時に現れた、ヤトちゃんなんかが典型例だ。
そういう時、大抵そのエージェントは悩みを抱えていて。
俺はその相談に乗ったりするわけだが。
さて、果たして今日は現れるだろうか。
現れるとして、果たしてどこの組織の人間だろうか。
一番ありえるのは闇札機関だ、ヤトちゃんから闇札機関が今回のダークファイターの一件に介入すると言っていたからな。
次点はネオカードポリス。
まぁ、そもそもこの地方都市を守護するエージェント機関はその二つだというのがあるのだが。
ともあれ。
「そこまでだ!」
どうやら現れたようだ。
俺はさっそく、声の聞こえる方向に振り向くと――
「見つけたぞ、悪逆の徒よ。今ここに、大地の化身たる我が正義の鉄槌を下してくれる!」
「ってレンさんじゃん」
「ぬあーーー! 天の民!」
ぬあーって何だよ。
何でそんな嫌そうな顔をするんだよ。
っていうか今の、メチャクチャ変な声だったなおい。
普段から特徴的な声色してるけどさ。
というわけで、現れたのは闇札機関最強のエージェントにして盟主、翠蓮ことレンさんだった。
金髪のゴスロリ小学生、不遜な態度がよく似合う顔立ちをしているが、今日ばかりは複雑そうな目で俺を睨んでいる。
よりにもよって……というか、先程叩き潰した雑魚を相手にするにはあまりにオーバーパワーなエージェントである。
「それを言ったら貴様もだろうがー!」
「何で人の考えが読めるんだよ」
「顔に書いてあるわ、馬鹿者!」
ペチン、力の入っていない平手打ちを膝に受けた。
いや、本人的には全力なのかもしれないが。
「それで、我の敵はどこにいる。悪魔のカードの出現反応に駆けつけたのだぞ、どこだ!」
「あー、もう倒したよ」
「もう!? 反応が出たの三分前なのに!?」
いやだって、あまりにも弱くて瞬殺だったから。
というか、最強エージェントが三分で現場に急行するんじゃない。
あと、その三分って俺がファイトを始めたタイミングだったりしない?
多分それ以前は、ダークファイターが弱すぎて反応をキャッチできなかったんだろう。
「うるさいうるさい! 我ってばなかなか現場に出る機会がなくて、鬱憤が溜まっていたのだ。それで、偶然にも近くで反応があったから、喜んで駆けつけたというのに!」
「反応のあった場所が、俺の店の前だった時点で察するべきだったな」
「ぬあー!」
さっきからぬあぬあ忙しないレンさんである。
まぁ、気持ちは理解らないでもない。
俺だって、裏の事件に関われない体質のおかげで色々と歯がゆい思いをすることだってあった。
今となっては、もう気にしても仕方のないことではあるのだが。
そしてレンさんも、なかなか思うように実力を発揮する場がないのだろう。
組織の最強ファイターとして、自分が負けたら後が無いというのもある。
後進の育成のために、敢えて自分で道を切り開いてはならない時もある。
後単純に、本人の言う通り鬱憤が溜まっているというのもあるだろうな。
「まぁまぁ、レンさん。最強ファイターは、出し惜しみされてこその最強だ。そういう意味で、今回は幸運だったということで」
「倒したのが天の民でなければその通りだな! だが許さーん! 我の獲物を横取りしおってからに! 今ここで成敗してくれる!」
「何で俺が成敗されなきゃならないんだよ」
言いながら、レンさんがイグニスボードを構えた。
これアレだな? 単純にファイトがしたいだけだな?
そういうことなら、受けない理由はない。
俺も再びイグニスボードを構え――
「イグニッション!」
ファイトを開始した。
そして――
「ぐえー」
レンさんは瞬殺された。
あまりにも鮮やかなワンキルであった。
自画自賛。
「手札が事故ったのだー!」
「よっぽどやる気がから回ってたんだな……」
レンさんは強い。
“型にはまった時”のレンさんはまさしく無敵。
それが具体的にどういう時かと言えば、“誰かを守る時”だ。
この言動で、人々のために戦う時は誰にも負けないくらい強くなるとか、あざとさの化身か?
ともあれ、逆にそうでない時はほとんど実力を発揮できない。
今回みたいにだ。
本当に、ムラッ気のある人だと俺は思う。
そのムラっ気のせいで、守るべき相手と戦ったりすると実力を発揮しきれなかったりするのだが。
闇落ちしたハクさんとのファイトの時とか。
それがまだ若くて未熟だからなのか、本人の気質でずっとこうなのかはまだ解らないが。
前者であることを祈りたい。
「むぅ! 我と天の民は相性が悪すぎる!」
「俺が闇落ちとかしたら、お互い全力で戦えるのかね」
「天の民が闇落ちなんてするわけないだろ! 馬鹿にするな!」
それは褒めてるのか? バカにしてるのか?
いやまぁ、多分褒めてるんだろう。
……褒めてるんだよな?
ともかく、俺とレンさんはすこぶる相性が悪い。
というか基本俺がレンさんに対して圧倒的に強い。
ダークファイトでしか本領を発揮できないというのは、なかなか日常的には枷になりやすいな。
「この鬱憤は、ダークファイター共にぶつけてやる……絶対に許さん、絶対に許さんぞダークファイター……!」
「かわいそうな飛び火だが、ダークファイターという時点で救いはないな……」
なんか、他人事決め込んでたら殺してやるぞ……って言われたところてんを思い出すような流れだ。
ぬんともかんとも。
「しかし、やはり悔しい。負けたのが悔しいぞ!」
「だったら、もう一回やるか?」
「む……」
少し、考える様子をレンさんが見せる。
ファイターとして、挑まれたファイトに魅力を感じないファイターはいない。
とはいえ、レンさんには勝算がないのだろう。
だからしばらく考え込んで、結果――
「覚えてろーーーーっ!」
すごい勢いで逃げ出していくのだった。
なお、例のダークファイト集団は、怒りに身を任せたレンさん主導のもと数日の内に殲滅されたらしい。
いやぁ、一般市民としてはエージェントたちの活躍には頭が上がらないな、うん!
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