21 たまには三人で呑むこともある。
俺とダイア、それから刑事さんこと草壁の三人は同じ大学の出身だ。
今、俺がカードショップ“デュエリスト”をやっている街から少し離れた県内の大学に俺達は通っていた。
理由は、そこが県内で一番強いファイターが集まっていたからである。
既にダイアはプロとして活躍していたし、カードショップを開くつもりだった俺はムリに強いファイターが集まっている大学へ進学する必要はなかったのだが。
それでも、せっかく推薦がもらえるのだからと二人でその大学に進んだ。
んで、その2年後に刑事さんが進学してきたんだな。
進学する以前に、色々と刑事さんの悩みを解決したこともあって、俺と刑事さんはそれなりに親しい交友関係を築いていた。
刑事さんとダイアも馬が合ったようで、まぁこの三人で大学時代色々と行動することは多かったのだ。
そんな関係が、今も続いている。
んで、そうなるとあることが時折行われるようになる。
それがなにかといえば――まぁ、いわゆる呑み会というやつだ。
とはいえ、基本的にダイアは非常に忙しい身だ。
刑事さんも時期によっては忙しいから、なかなか会う機会はないのだけど。
偶然、三人のスケジュールが空いたタイミングがあったのだ。
まぁ、俺はといえば基本的にそれなりに暇なのだけど。
そもそも、時間に余裕を持ちたくてカードショップを開くと決めたところもある。
むしろ時間に余裕がない方が困る。
「んじゃ、乾杯」
「おう」
「ああ」
なんとなく三人でいる時は俺が音頭を取ることになっている。
集まった居酒屋で、グラスを重ねる俺達。
そこは、普段から三人で集まる時に使っている居酒屋だ。
刑事さんが常連だそうで、電話一本で個室を借りることができる。
中は、落ち着いた雰囲気の和室だ。
ちょっとお高いところなのもあって、旅館のような印象を覚えるな。
んで、そんな個室で俺はいつもどおりの私服で。
刑事さんは、コートを脱いだスーツ姿で、スーツを脱いでも相変わらず如何にもといった様子の風貌だ。
そしてダイアは、流石に個室だからかサングラスとニット帽を脱いでいる。
めちゃくちゃ特徴的な髪型がさらけ出されていた。
「それにしても……草壁はまた一段と刑事になったな……」
「逢田にそう言われると照れるな……」
「刑事になったってなんだよ、あと男相手に照れるなよ」
ダイアと刑事さんは、なんというか相性がいい。
お互いに天然なところがあって、ツッコミが必要な内容がツッコミなしで進んで会話のテンポが小気味いいからだろうか。
いや、俺が突っ込むんだけどね?
まだ酔ってないのに、その会話は何だよふたりとも。
んで、会話の内容といえば最近あった出来事だ。
基本的にこの三人の呑み会で、話の種が尽きることはない。
というのも、ダイアは言うに及ばず日本チャンプで色々と事件に巻き込まれやすい立場だ。
刑事さんだって、事件を解決する立場だから色々とネタになる事件は多い。
まぁ、中には機密とかで話せない事件も結構あるけどな。
俺だって話すことは結構ある。
他二人と比べて事件に巻き込まれることは少ないが、日常のあれやこれやを語るだけでも話題としては十分だ。
まぁ、今回は主にダイアと刑事さんの話が主軸になりそうだけどな。
「先日、イグニッション星人と俺がファイトしたのは知ってるよな」
「そりゃ当然知ってるが、そう切り出されるとダイアがおかしい人みたいに見えるな」
「おかしいのはイグニッション星人の字面であって、私のせいではない」
同意しかできない返しだった。
ともあれ。
どうやら、あの後ダイアの元に再びイグニッション星人がやってきたらしい。
「そのイグニッション星人に、“宇宙一火札武闘会”に出ないかって言われたんだ」
「ほぉ、宇宙でもイグニッションファイトの大会があるのか」
何言ってるのかさっぱりわからないようで、すごく解りやすい誘いだ。
流石に宇宙でファイトするとか、今まで聞いたこともないような話だけど。
まぁでも、イグニッション星人が存在する以上、開催されていてもおかしくはあるまい。
いやおかしいだろ。
「じゃあダイア、宇宙に行くのか?」
「宇宙に行くのはこれで二度目だな。前は月でファイトしたんだったか」
「……人生で二度も宇宙に行くファイターなんて、そうそういないと思うぜ」
そういえばそうでしたね。
高校時代に宇宙でファイトしてましたね、ダイア。
刑事さんは初耳だからか、流石に驚いた様子で突っ込んだけど。
「正直、受けてもいいと思っている」
「そうなのか?」
「ああ、移動はイグニッション星人の宇宙船を使わせてもらえるそうだし、滞在中の面倒も見てくれるそうだ」
至れり尽くせりだな。
まぁ、でも気持ちはわからなくもない。
あのイグニッション星人とのファイトは、相当な死闘だったからな。
それにイグニッション星人が惚れ込んでもおかしくはないだろう。
「ただ……二つほど問題がある」
「ほぉ、なんだそりゃ。何の問題もないように見えるが」
「一つは……チーム戦なんだ。私以外のメンバーは、私が選ぶようイグニッション星人から言われている」
ふむ、チーム戦。
この世界にはそもそも「プロチーム」というものが存在する。
プロ野球チームのようなものだが、ダイアは特定のチームには所属していない。
スポンサーのいないフリーのプロファイターだからな。
チームってのは、プロファイターのスポンサー企業が作るもんだし。
「そのメンバーとして……ミツル、君が加わってみる気はないか?」
「俺……? まぁ、変な陰謀とかないなら、俺も参加はできるんだろうが」
「俺ぁ無理だな。流石に店長や逢田ほど強くねぇからよ」
挑むなら最高のメンバーで……ダイアがそう考えるのも解る。
その中に俺が含まれているというのは、光栄の極みだ。
そのうえで……受けるかどうかは、この場では答えられないな。
「ああ、今すぐ答えを出す必要はない。店のこととかあるだろうしな」
「なら助かる」
「それに……もう一つ問題があって」
「もう一つ?」
そう言いながら、ダイアは酒を口に含みつつ。
「イグニッション星人は時間感覚が人間と違ってな……開催、十年後なんだ」
端的に言った。
「十年後か……」
「そりゃあ……まぁ、今すぐ答えを出すものでもないな」
その頃には、俺も三十後半のおっさんである。
果たして……その頃に宇宙へ繰り出す情熱を見いだせるかどうかは……正直わからんな。
で、話は一旦そこで終わって。
次に語りだしたのは刑事さんだった。
「ここ最近、“ハウンド”っつーダークファイター組織が壊滅してから、珍しくダークファイターが出てきてねぇんだよ」
「ああ、レンさんのところが壊滅させたっていう」
ダイアが、そんな相槌をうつ。
「一応、レンのお嬢のところは秘匿組織なんだから、明言はさけてくれよな」
「すまない。しかし、ダークファイターが出てないならいいことだと私は思うが?」
「それはそうなんだがな……」
といいつつ、なんだか歯切れの悪い刑事さんだ。
ダークファイターなんていないに越したことはない。
ただ、あまりにも現れないものだから不安になるというのも感覚としては解る。
自分たちの与りしれないところで、何か大きな陰謀が働いてるんじゃないか、と。
「とはいえ、それならレンさんが動きを見せるだろ。そうじゃない以上は、平和と判断するしかないんじゃないか?」
「ま、そうなんだけどな……ああそうだ、その代わりといっちゃ何だが」
俺の言葉に、刑事さんが頷く。
今のところ様子見という結論しか出ない以上、この話はあくまで前フリだろう。
「最近、辻ファイターが増えてるな」
「ほう、興味があるな」
それに関心を示すのはダイアだ。
なんたって、辻ファイターというのは在野のファイターであることが多い。
中には名の知れていない、強者も混じっていることだろう。
「一番有名なのは、風太郎ってサムライのファイターだな。秘境出身で、ここ最近武者修行ってやつをしてるらしい」
「彼なら知ってるぞ、三回ほどファイトした。強いファイターだ」
「ほう、それはいいなぁ!」
その言葉に、目を輝かせるダイア。
そういえば風太郎も、ダイアとファイトしたいと言っていたな。
今度、場をセッティングするとしよう。
「後は――」
と、そこでちらりと刑事さんがダイアを見た。
疑問符を浮かべるダイアに対し――
「身長百九十越え、筋肉ムキムキマッチョマンのサングラスとニット帽の不審者。自称タイヤキング」
そう、端的に刑事さんは言ったのだ。
ちょっと待てや。
「……少しお手洗いに行ってくる」
「おいちょっと待てダイア」
タイヤキングってなんだよ。
ダイヤから濁点抜いて、キングと合わせたのかよ。
もういっそバレバレなんだから、ダイヤキングって名乗れよ。
色々言いたいことはあるが……
「どうしてお前が名を連ねてるんだよ、ダイア」
「誤解だ! 私はファイトを挑まれた側だ! ファイトしたのも一回だけだ!」
「だがよぉ大将、タイヤキングって名乗ったんだろう?」
「……そういう流れになっただけだ!」
刑事さんと、二人がかりでダイアに詰め寄る。
なんのかんのと言い訳しているが、ダイアの実力と見た目のインパクトはやはりすごい。
たった一回のファイトで、ここまで話題になってしまうなんて。
それはそれとして……
「お前はもう少し、最強ファイターとしての自覚を持てダイア」
「なっ……君にだけは言われたくないぞ、ミツル!」
やいのやいの、酒が入っているからか俺達の喧騒は更に騒がしくなっていく。
最終的にその言い争いはファイトに発展し――
俺が勝った。
「だから言ったのだ……君にだけは言われたくない……と」
そう負け惜しみを零すダイアに、けれども俺も何も言い返せなくなるのだった。
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