中二ロリ系最強キャラ、翠蓮の場合
この世に神がいるとしたら、その神は人とファイトが好きで好きで仕方がないのだろう。
我、大地の化身たる翠蓮は生まれた時より、世界を守るという使命を持って、特別な一族の当主として生まれた。
母より受け継いだ世界を守るための剣、「秘密闇札対策機関」――闇札機関の盟主として。
しかし、世界を守るという使命は、一筋縄では行かないものだった。
なにせ、この世界には事件が多すぎるのだ。
毎日どこかしらで、悪魔のカードに関する事件が起きる世界。
ふざけてるのか? 治安悪すぎるだろ。
我、毎日大忙しである。
これでも、普段は年相応に学校に通う身だ。
ただでさえ足りない時間が、学校に吸われているということでもあるのだが。
これも母のお言葉、「人として生きることを第一とするべし」。
実際、それはとても大事なことだ。
我のような特別な存在――才能に恵まれたファイターは、どうしたって普通の生活というのは難しい。
我であれば、生まれた時から闇札機関の盟主となることが定められていたように。
他にも例を上げるならば、我のクラスメイトであるネッカはその典型だろう。
彼には、大いなる運命が伴っている。
何れはかの逢田トウマのように、この国を代表するファイターになる素質を持っているからだ。
そんな素質を持った人間が、普通の人間として生活することは不可能と言っていい。
事実、ネッカはこれまで幾度となくダークファイターに関わっている。
これからも、誰かを守るために彼は戦いに身を投じるだろう。
世界は、危うい均衡によって保たれている。
常に多くの事件が起き、それを無数の強き善なるファイターが阻むことによって。
危うい、あまりにも危うい。
そのような世界、果たして正常と言えるだろうか。
否、決して否である。
我は思う、世界とは退屈で善いのだ。
退屈であればあるほど、それは平和であるということなのだ。
だから、何れ我は闇札機関の盟主として、この世界の危機という暗雲を払わねばならない。
そう、思っていた。
だが、我は奴に出会った。
出会ってしまった。
天の民。
カードショップ“デュエリスト”の店長にして、世界の守護者。
棚札ミツル――神の使いだ。
我が天の民に出会ったのは、少し前のこと。
その頃の我は、使命感に駆られていた。
組織を受け継ぎ、盟主となったものとして。
世界を正さねばならないという使命感に。
だから、なんというか――無茶をしていたのだ。
結果、我は倒れた。
疲労によってだ。
仮にもまだ幼子といえるこの身体、ムリに耐えられるものではなかった。
あの時の我は、そもそも学校など無駄な時間と思っていたし、その時間を闇札機関に当てるべきだと本気で思っていた。
だから、倒れてしまったのだろう。
“あの”カードショップの前で。
「おい君、大丈夫か?」
そう、声をかけられたのを覚えている。
その時見上げた奴の顔は――あまりにも地味で、どこにでもいる普通の青年のようだったと記憶している。
それから、天の民に我は助けられた。
二階の居住スペースを貸してもらい、そこに住んでいる瞳の民――エレアに世話をしてもらった。
もとより、家には使用人を多数抱えている身、世話されることには慣れている。
しかし、もしかしたらその時が初めてだったかもしれない。
世話を、温かいと思ったのは。
それから、天の民との交流は始まった。
我は奴を単なる普通のショップ店長としか思っていなかったから、その頃は店の民と呼んでいたのだったな。
まぁ、実際には大いなる見誤りだったわけだが。
しばらくして、そのショップにクラスメイトである焔の民――ネッカが通い詰めていることに気がついて。
他にも、王の民――ダイアを始めとして多くの強者があのショップに通っていると知った。
我も、その一人というわけだ。
しかしどうしてだ? なにゆえあの男の元に、これほどの強者が集うのか。
どころか、瞳の民は普通の人間ですらない。
モンスターだというのだから、驚きだ。
我の配下にもモンスターの配下がいるが、配下以外の人間タイプのモンスターを目にしたのは初めてのこと。
そして、我の配下は明らかにモンスター然とした異質さがある。
本来、人型モンスターとはその異質さから、強者が見れば一目で人型モンスターと見抜けるものなのだ。
いや、アヤツの場合身長2メートル超えの美女だ。異質さとかそれ以前の問題だな?
まぁ、他にも異質さの例外はあるがな。
だが瞳の民にはそれがない――彼女は、まるで普通の少女のようにこの世界で生きていた。
それを成したのが天の民であることは、彼女の態度から言うまでもないことである。
まぁ、天の民はまったく気がついていないようであるがな! ふん、乙女心に対してだけは鈍亀のような男だ!
話を戻すと、我が初めて会った時“普通の人間”としか思わなかった奴にこそ、周囲に人を集めるなにかがあるらしい。
我には、それがさっぱり理解らなかった。
奴は強い、だが、大いなる闇と対峙したことがないという。
せいぜい、日常的に現れる悪魔のカードの使い手を時折対処する程度。
そのような、凡庸な人間のどこにそのような素質があるのか。
――天の民の本質を知ったのは、とある敵を追い詰めている時のことだった。
そのファイターはあまりにも強敵で、闇札機関のエージェントでは歯が立たなかった。
我以外に、奴を倒せるエージェントはいない。
ネオカードポリスにも、それは不可能だろう。
可能だとすれば、王の民くらいなもの。
しかしその王の民も、あいにくと大事な大会の最中。
頼るわけには行かない。
結果我は独断で専行し、その敵を倒そうとして――敗北した。
完敗だった、手も足も出なかった。
相手が強かったのもそうだが、我とその敵はあまりにも相性が悪すぎたのだ。
どころか、その敵の狙いは我であった。
最強を自負するエージェントでありながら、己の使命に囚われた脆弱なその当時の我は、敵にとって“器”として最適だったのだ。
奴は最初から、我を乗っ取るためにおびき寄せたのだ。
そのことに気付いたのは、全てが終わった後だった。
我のワガママな、使命という言葉で飾られた子供の無茶が、多くの人に迷惑をかけるのだ。
何しろ、奴は“悪魔のカード”ではない。
もしも洗脳された我がファイトの末に誰かを手にかけてしまったら。
取り返しがつかなくなる。
全て、我のせいだ。
そう自覚しながら、我は奴に乗っ取られる直前。
「レンさん、大丈夫か?」
――天の民の言葉を、聞いた。
気がつけば、全てが終わった後だった。
我を追い詰めた敵は、天の民によって退治されていた。
それも天の民曰く、“大したことがなかった”とのこと。
何だそれは、いくら天の民が本気を出せば王の民くらい強かったとしても。
我だって、ダークファイトにおいては天の民を凌駕するくらい強くなるのだぞ?
明らかにおかしいと感じた我は、調査の末ある事実にたどり着いた。
それは、神が天から遣わした救い手の伝説。
天の民が操る、「古式聖天使」の伝承だった。
そう、天の民は天からこの世界を守るために遣わされたのだ。
全ては、悪魔のカードという安全弁を伴わない災厄を阻むため。
そしてその事実は、瞳の民――彼の側に立つ者が肯定してくれた。
「う、うん。レンさんはすごいですね。そのとおりですよ。ところで――」
「何だ、瞳の民よ」
「レンさんは、本当に店長のファイトを見てないんですね?」
「ああ、見ていない」
なぜか、そう答えたら瞳の民はひどく安心した様子だったが。
とにかく、それから我の考え方は大きく変わった。
この世界の悪は、あるべきものとして存在する悪なのだ。
それが悪魔のカードという安全弁によって守られている限り、天の神が許した試練でしかないのだ。
ならば、我はその試練に挑めばいい。
大地の化身として、神が望む試練を乗り越えるファイトを続けるのだ。
もし、試練から逸脱する悪がこの世にはびころうとした時、それを止めるための存在がいるのだから。
ああ、しかし。
あまりにも惜しいことをした。
神の使いとしての天の民のファイト、一度は目にしてみたかった。
きっと、壮麗で素晴らしい、熱いファイトなのだろうな――――
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