20 なんか全部わかってる感じの中二系ロリ

 散々話題になっているが、闇札機関の最強ファイター、ヤトちゃんこと夜刀神と、その姉白月の上司。

 名前を翠蓮という。

 俺にとっては、ヤトちゃんと出会う以前からの知り合いだ。

 何なら店の常連でもある。

 あまり顔は出さないけど。


 そんな翠蓮。

 これがまた、キャラの濃いうちの常連の中でも特に変なやつなのだ。

 というのも――



「今宵! 翠蓮は天の民の元へ降臨した! 喜べ民よ! 大地の化身たる翠蓮はここにいる!」



 店に入って、少女は開口一番そう宣言した。

 金髪の、少女だ

 背丈はネッカ少年等とさほど変わらない。

 衣服を黒いゴスロリで統一した少女は、その口に残虐さすら感じさせる笑みを浮かべている。

 片目を眼帯で覆った少女は、その言動も相まってその個性を存分に発揮している。


 すなわち、中二病だ!


 初めて会ったときは、あまりにもコッテコテなその姿に思わず絶句したものである。

 とはいえ、その実力は本物だ。

 条件さえ合えば俺やダイアと対等にファイトできる、といえばなんとなく想像してもらえるだろう。

 まぁそりゃ、組織の最強キャラポジションなんだから、それくらいはできないと困るのだけど。

 それはそれとして。


「レンさん。今は昼だし、後コードネームそんな大っぴらに口にしてどうするんだ」

「構わん。所詮コードネームなど仮の名、知られたところで仔細なし」

「その割には、いつもコードネームの方を名乗ってるけど……後、結局天の民ってなんなんだ?」


 天の民、というのは俺のことらしい。

 基本的に彼女は他人を◯◯の民、と呼ぶがそのほとんどは相手の特徴を捉えたものだ。

 ダイアなら王の民、エレアだったら瞳の民。

 後者はわかりにくいけど、偵察兵として人より“視力”に優れる点をさしているのだろう。


「天と店のダブルミーニングだ。我ながら洒落た名前だな、うんうん」

「店はともかく、天の方はどこから来たんだよ……とりあえず、いらっしゃい。今日は何のようだ?」

「無論決まっている……天の民の地にて催される宴に、我も参加するのだ!」

「ああはい、ショップ大会に参加するのね、じゃあ名前をこれに書いて」


 うむ、と元気よく頷いて、レンさんは紙に名前を書いた。

 「翠蓮」、いややっぱこれダメだと思うんだけど……まぁいいかいつものことだし。

 それと、レンさんの本名は「レン」だ。

 レンに自分のデッキと関連のある文字「翠」を入れて「翠蓮」。

 これ、ヤトちゃんとかハクさんも同じ感じらしい。

 つまり、ヤトちゃんとハクさんの本名は、やっぱり「ヤト」と「ハク」なわけだな。


「さて、今日の我の贄となるのはどこのどいつらだ……? 大会が始まる前に、一つ味見をしてやろう」

「味見て……」


 そう言って、レンさんはフリー卓の方へと向かっていく。

 今日の参加者は――まだ開始前なので、集まりきっていない。

 たまに見かけるお客が数人と……見知ったところだと、少しめずらしいやつが参加していた。


「おお、刑事の民ではないか! 久しいな!」

「うお! レンのお嬢か……まさかこの店で出会うとは」


 刑事さんこと草壁。

 ネオカードポリスのエージェントだ。

 つまるところ、レンと刑事さんは同業である。

 片や秘匿組織、片や公的組織という違いはあるものの。

 やはり面識があるようだ。


 ただ、基本的に刑事さんもレンさんも、あまり店にはやってこない。

 単純に忙しいからだ。

 特に大会に参加する刑事さんなんて稀も稀。

 レアカードよりレアかもしれない。


 しかしそれも、ある意味でこの二人がここで出会う運命だったからかもしれない。

 この世界にはカードに関わる運命力が実在する。

 それが、こういった形で作用してもおかしくはない。


「ふむ……刑事の民と戦える機会など滅多に無い、どうだ、一つファイトしてみないか?」

「大会はまだ始まらねぇし、そもそも俺もファイトの腕試しに来てるから構わねぇが……」


 そんな運命的な出会いを果たした(語弊のある言い方)二人だが。

 刑事さんの方は、そのファイトに乗り気じゃないようだ。

 まぁ、気持ちは解る。


「ふ……我が怖いのか?」

「怖いか怖くねぇかで言ったら、怖いに決まってるだろうよ。この街で一番強いファイターの一人だぞ?」

「ふん! 聞いて呆れるな!」


 レン――翠蓮はこの街で最も強いファイターと言っても過言ではない。

 というか、世界で戦えるほどの実力を有している。

 対して刑事さんは、それなりに手練れとはいえそれに追いつけるほどじゃない。

 だから気後れするのもムリはないのだが……


「それが刑事のすることか? 刑事とは、ハードボイルドに事件を解決し、夜の酒場で酒を呑みながら煙草をふかすものだろう。お前のような軟弱者が、果たして刑事を名乗れるのか?」

「……ほう、言ってくれるじゃないか」

「事実を事実として口にしたまでだ。ふふん、我のような素晴らしき大地の化身の前に、怖気づくのが刑事のやることだというなら、認識を改めるまで」


 流石に、常に刑事ロールプレイを続けている生粋のプロ刑事は、今の言葉は聞き捨てならないようだ。

 まぁそもファイターなんて生き物は、ちょっと挑発してやればすぐファイトを始める戦闘狂ばかりなのだが。


「いいぞ、やってやろうじゃないか、レンのお嬢」

「かかってくるがいい、刑事の民。……天の民よ!」

「ん、俺か?」


 話を横から聞き流していた俺に、突然レンさんが声を掛ける。


「あのフィールド、今は空いているな?」

「そうだな、まだ客も来始めたばかりだから、待ち時間はないぞ」

「では、フィールドを使ってファイトだ。軟弱たる刑事の民に、我が指導を与えてやろう!」


 斯くして、フィールドを使ってファイトをすることになった。

 律儀にフィールドの使用料金を支払ってくれる二人から、代金を受け取りつつ。

 俺はファイトの行く末を見守る。



「イグニッション!」



 二人の掛け声とともにファイトは始まった。



 □□□□□



「ぐえー!」


 そして数分後、レンさんは敗北した。

 案の定だった。


「勝負あったな」

「お、おう……俺は勝ったのか?」


 困惑しているのは、勝利した刑事さんである。

 なんというか、手応えがなさすぎるという感じだ。

 まぁ、ムリもない。


「実をいうと、レンさんの強さは限定的なものだ」

「そうなのか?」


 俺が解説する。

 レンさんはこう、自爆に巻き込まれて倒された人みたいな感じで地面に横たわっていて。

 ちょうどやってきたエレアによって回収されていった。

 あれ、着せ替え人形にでもするつもりか? 顔やばかったけど。

 で、そのレンさんだが。


「レンさんが強いのは、ダークファイトをする時だけなんだよ」

「あー……テンションに応じて、強さが変動するタイプってことか」


 リアルでのレンさんと関わりのなかった刑事さんは知らないだろうが、レンさんはダークファイト以外だとそこまで強くない。

 せいぜい、ネッカ少年達と同じくらいだ。

 十分強いけど、ネッカやクローとなら刑事さんもいい勝負できるんだぞ?


 そして、その原因は刑事さんの言う通り、テンションによって強さが変動すること。

 ファイターというのは、その場のテンションとかで持っている運命力が変化し強さもそれに合わせて変化するのだ。

 具体的には、俺が雑魚相手のダークファイトだと封殺戦法を取るが、表のファイトだとその封殺戦法がうまく使えない、みたいな。

 レンさんはその極致みたいな存在である。


「……じゃあ、なんであんな自信満々にファイトを挑んできたんだ?」

「そういう性格だから……としか」


 なんかこう、調子にのって失敗するタイプなんだよ、普段のレンさんって。

 闇札機関でシリアスしてる時は、無敵みたいなムーブするのに。

 それと同じムーブをして、理解らせが発生するのが日常生活のレンさんである。

 変な人だ……


 ああそういえば、多分これも刑事さんは知らないよな。

 表のレンさんとほとんど関わりないなら。

 と思って、俺が口を開いた時。



「っしゃ、とうちゃーく」



 熱血少年のネッカが、勢いよく店に入ってきた。


「いらっしゃい、元気そうだな」

「俺はいつだって元気だぜ、店長! ってうお! 刑事さんだ!? こんなところで珍しいな」

「ネッカの坊主じゃねぇか、またあぶねぇことはしてないだろうな?」

「し、してないしてない!」


 で、俺に挨拶したらそのまま刑事さんと話を始めるネッカ少年。

 色々と事件に首を突っ込むネッカと刑事さんは顔見知りらしい。

 まぁ、お互いこの街の強いファイターだからな、そういうこともあるだろう。


 で、そんなネッカ少年が店の中を見渡すと――店の隅でエレアに髪型をいじられていたレンさんを見つけた。

 楽しそうだな、あっちは。


「あ、レンじゃん」

「む! 熱血の民! 奇遇だな、休日に出会うなど!」

「そりゃ、この店に来たら俺と会うのは普通だろ、ホームだぜ、ここが俺の」


 髪型をいじられつつ、髪を梳かれるのが気持ちいいのだろう、猫みたいに目を細めていたレンさんにネッカ少年が挨拶をする。

 こちらもまた、顔見知りだ。


「なんだ、坊主もレンのお嬢と知り合いなのか」

「ん? 当たり前だろ――」


 そう問いかけた刑事さんに、ネッカ少年が――



「レンは、クラスメイトだからな」



 答える。

 え? と刑事さんが疑問符を浮かべてこちらを見た。

 そう、そうなのだ。

 この少女――レンは、明らかに只者ではないのだが、見た目は実年齢と一致しているのである。


 すなわち、小学生。

 ネッカ少年と同じく、この街の小学校に通う少女であった。

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