14 前作主人公なのに精霊見えないんですかぁー?

 カードに宿ったモンスターの姿をした人でない存在。

 いわゆるカードの精霊。

 この世界では、基本的にただモンスターとだけ呼ばれる存在だ。

 彼らには二つの種類が存在する。


 一つはエレアのように、人と同じ姿をしていて、人と同じように生活するタイプ。

 彼らはそもそも、言ってしまえば“異世界の人類”だ。

 イグニッションファイトのモンスターは、基本的に外の世界からやってきたと言われている。

 その根拠が彼らであり、彼らは普通の人間と同じように子供を作ったりできるにもかかわらずモンスターである。

 なぜかと言えば、彼らのカードがこの世界に存在するから。


 <帝国の尖兵 エクレルール>はエレアと全く同じ姿をしている。

 まぁ、今のエレアは私服の上にエプロンを身に着けたカードショップ店員の姿がデフォルトなのだが。

 何にせよ、人でありながらカードが存在すれば、それはモンスターである。

 何なら、この世界に生まれた人間のカードも存在するかもしれない、俺は今のところ見たことはないが。


 そしてもう一つが、一般的にイメージされる“精霊”タイプだ。

 つまり、カードに憑依して普通の人の目には映らない存在。

 こういったモンスターに共通する特徴は“人型ではない”という点だ。

 猫とか、犬とか、ドラゴンとか、ミノタウロスとか。

 そんな感じの人ではないモンスターは精霊タイプのモンスターになる。

 個人的にミソなのは、最後のミノタウロスだな。

 ミノタウロスは二足歩行で人に近い肉体をしているがひと目見て人ではない姿をしている。


 下世話な話だが、人と同じように生活するタイプとそうでないタイプの見分け方は簡単。

 この世界の人間と子供を作れるか、だ。

 そして、案外そうやって人間タイプのモンスターとこの世界の人間がくっついて子を為す事例はそこそこある。


 まぁ、今はそれに関しては関係ない。

 俺が話をしたいのは後者――精霊タイプのモンスターだ。


「――だめだぁー! 今日のダイア兄ちゃん強すぎる!」

「むむむ……普段と同じレンタルデッキを使っているはずなのだが……」


 ふと、店の一角でそんな声が聞こえてきた。

 一人は熱血少年のネッカ、もう一人は不審者ルックの日本チャンプことダイアだ。

 彼らは今、店のテーブルを使ってフリーファイトをしている。

 しかし強すぎるとは、どういうことだ?

 今日のダイアは、<バニシオン>ではないレンタルデッキを使っているはずだが。


 みたいなことを考えつつ作業をしていると――


「店長ー、来てますよ」

「来てる?」


 エレアが、そんなことをいい出した。


「モンスター」


 そう言って、指さした先。

 そこは何も無い店の片隅だ。

 だが、エレアが“来ている”と言った以上。

 そこにはいるのだろう、彼らが。


「ちょっと待ってろ」


 そう言って、俺は意識を集中させる。

 しばらく心の内なる声に耳を傾けるように、集中を続けると。

 そこに、一体のモンスターの姿が見えた。


 うっすらと、半透明の姿をした翼の生えた猫である。


「いた、あいつ……<マテリアル・ケットシー>か」

「みたいですねー……いや、よく一瞬でカードの名前出てきましたね?」


 なぜかエレアにドン引きされる。

 いや、確かによくよく考えれば無数にあるカードの中から、一発で眼の前のモンスターがどのカードのモンスターか当てるのはおかしい技能だが。

 今回は普通に推理できる範囲だ。


「いや、ダイアがやたらデッキと相性がいいってことは、今ダイアが使ってるデッキのモンスターが店に来てるってことだろ? で、今ダイアが使ってるマテリアルデッキの猫っていったらケットシーしかいないんだよ」

「ああ、そういえばそうでしたね。……でも、もしそういう材料がなくても店長ならモンスターのカード名当てそうな気がするのは気のせいですか?」

「き、気のせいだろ」


 昔、実際にエレアが言う通りのことを酒の席でやってダイアや刑事さんにドン引きされたことがあるんだよ。

 思わずトラウマが刺激されてしまった。


「私、二人に教えてきますね」

「任せる」


 ぶっちゃけ言っても言わなくてもいいからな。

 この世界のカードショップには、こうして時折精霊タイプのモンスターが訪れることがある。

 カードがいっぱいあって、その中に自分のカードが存在するからだ。

 精霊タイプのモンスターは、本能的に自分の所有者を求める傾向がある。

 そんな所有者を見つけるのに、カードショップはうってつけというわけ。

 ただ、ウチの<マテリアル>デッキはレンタルデッキだ、人の手に渡ることはないだろう。

 そうなると、あの<ケットシー>もそのうち店を出ていくはずである。


 なんというかアレだ。

 今回は御縁がなかったということで。

 うっ(前世の記憶を思い出す)。


「え、モンスターがいるのか!?」

「ああ、気付いてなかったんですね……」


 なんて会話が聞こえてくる。

 ネッカ少年が、驚いた様子で店内を見渡している。

 そして、どうやらちょうどネッカ少年から死角になっていたらしい<ケットシー>を見つけた。


「いる! それでダイア兄ちゃんが普段より強かったのか!」


 指さして叫ぶと、<ケットシー>は退屈そうにあくびをしてその場を離れた。

 なんかこっちに来たな……言っておくけど、俺と君はそこまでカード相性よくないからな?


 ともあれ、カードショップにモンスターがいると、そのモンスターが入ったデッキの相性が格段によくなる。

 今のように普段はそのデッキと相性のよくないダイアが、彼の本来のデッキより少し劣る程度の相性を獲得できてしまうくらい。

 まぁ、普通ならレンタルデッキなんて店にそう置いてないし問題ないんだけど。

 今回はたまたま、そういう事故みたいなことがおきてしまったんだな。


「……一応言っておくと、私は本来のデッキなら更に強いからな?」

「解ってるよ! でもなんかこう、兄ちゃんの本来の実力じゃないから悔しいんだよ!」


 そこは負けず嫌いなネッカ少年らしい考え方。

 それと、言い訳をし始めるダイアも大分負けず嫌いだ。

 流石主人公ズ。


「あ、ケットシーちゃんが店長の頭の上に。きゃわわですよ、これ」

「いつの時代の言葉だよそれ」


 なんて言いながら上を見上げるが、頭の上にいるせいで何も見えない。

 見えるのはしっぽくらいだ、うっすらと半透明の。


「しかし……いると言われても、私にはさっぱり見えないな……モンスター」

「え!? 兄ちゃん見えないのか!? てっきりダイア兄ちゃんみたいな強いファイターなら見えるもんだと……」

「そうでもないぞ……プロファイターでも見えるファイターはそこまで多くない」


 目を凝らして、俺の頭の上を凝視するものの、何も見えないと肩を竦めるダイア。

 なんとこいつ、主人公のくせに精霊が見えない。

 いやまぁ、精霊が見えない主人公も普通にいるけど、見えているネッカ少年からしてみると意外なんだろう。


 ちなみに、プロファイターの精霊タイプ視認率は統計によると三割だそうだ。

 これがエージェントになると、逆に七割くらいになる。

 つまり合計すると半々くらい。

 これは強いファイターの話だ、人類の中だと二割くらいが見えるんじゃないだろうか。


「というか、一番おかしいのは店長だ! 奴も本来ならモンスターは見えないタイプのファイターのはずだ!」

「え!? 店長見えてるじゃん!」

「見えてるっていうか……集中すると見えるようになるんだよ」


 これは、俺の転生者特典なのかしらないが。

 俺は本来なら精霊タイプのモンスターは見えない。

 だが、ある時意識を集中させると、半透明の状態で見ることができるようになると気付いた。

 この状態は数時間ほどで解除され、再びモンスターを見るにはまた集中しなくてはならない。

 後、俺は半透明に見えているが、普通にモンスターを見れる人間にはモンスターは鮮明に映るらしい。

 ちなみにエレアはそもそも自分がモンスターなので、無条件に見れるタイプだ。


「それはなんというかアレですね……神様が店長を贔屓してるんですよ」

「なにそれ……」


 転生者だから、普通にありそうなのやめろ!


「でも、実際には店長にモンスターを見る能力はないわけで。だから神様はその都度、店長に能力を与えてるわけです」

「いや、だったらなんなんだ?」

「能力を与えるたびに、神様がめっちゃ疲れてそうだな……って」


 ああうん、だったらその……ごめんなさい。

 いやでも見えたほうが何かと便利だから、これからも頼りますけどね?

 なんて考えている俺の上で、呆れた様子で半透明のケットシーがあくびをしながら寝転がるのだった。

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