7 カードゲーム第一な世界でのカードゲット方法
この世界には無数のカードが存在している。
その種類が膨大すぎるという話は前にしたが、じゃあどうやってファイターはカードを集めているのだろうか。
方法はいくつかある。
一つはパックを買ったり、ストレージを漁る方法。
つまり前世と同じ方法だ。
コレに関しては特に言うことはない。
ただ、この世界は人とカードの相性があるので、パックを剥くと相性の良いカードに偏ったりする。
ストレージは流石に人の手が入ってるので、そういうことはないけど。
もう一つは拾ったり、譲られたりする。
カードは拾った。
じゃないけれど、この世界には割とそこら中にカードが落ちていたりする。
落ちる原因は、ファイターがカードを捨てたから――じゃない。
いつの間にか落ちているのだ。
そういうカードは、見つけたら見つけた人間のものにしていいという法律がある。
中には、そういうカードを集めてショップに売って生計を立てている人間もいるな。
ちなみにもし同時に複数の人間が同じカードを見つけた場合はファイトで所有権を決めること、という法律もあるぞ。
譲られる……に関しては特に言うことはない、文字通りの意味だ。
最後は、作ったりいつの間にかデッキに加わっている、だ。
カードは創造するもの。
じゃないけれど、ファイターという人種は気軽にカードを作りがちだ。
中には、いつの間にか所有している場合もあったりして、何かと謎の多い入手経路である。
ちなみに俺はといえば、基礎となる「
物心がついた直後なので、両親がお祝いにくれたカードの中に混じっていたんだろう。
そして今は――
□□□□□
カードショップ“デュエリスト”。
その広い店内で、お客がストレージを漁ったりフリーファイトをしたりしている。
中央のフィールドが未使用で、そのことからも分かる通り今はまだ人が少ない時間帯だ。
「店長、買い取りをお願いしたいのだけど」
「いらっしゃい、ヤトちゃん。またずいぶん持ち込んだね」
「ええと……まぁ色々あって」
俺は今、カードの買い取りをしている。
相手はヤトちゃん――夜刀神だ。
ハンドルネーム「ヤトちゃん」、闇札機関は秘密組織なんだけど、いいんだろうかこれ……
というか、自分からちゃん付けしているせいで、俺もヤトちゃんと呼ばざるを得なくて少し恥ずかしい。
エレアとかなら、気軽に呼べるのにな……
事件が解決して以来、こうして俺の店に常連客としてやってきている。
お姉さんも無事に救出できて、全国大会には無事間に合ったそうだ。
まぁ、そのお姉さんが前にたまたま入荷したレアカードを即金で購入してったお嬢さんだったとは思わなかったけど。
「ただ、悪いことじゃないわよ? いろいろっていうのも、お祝いみたいなもので」
「ああ、なるほど。組織に本格的に所属することになったんだ」
俺が組織と口にだして、ヤトちゃんはびっくりして周囲を見渡す。
けど、この位置から俺達の会話が周囲に聞こえないのは、俺自身が一番解っていることだ。
エレアも今日は非番で、確かさっき動画サイトで生配信やってたから店舗に降りてくることもないだろう。
で、闇札機関に所属したということで、お祝いに色々カードを貰ったんだろう。
多分、先輩たちが持て余してた使わないカードとか。
もちろんそういうのはヤトちゃんも使わないので、売り払うしか無い。
体よく売り払ってもらうために押し付けたな?
「それで今日は、休み?」
「学校が休みで、組織も非番よ。だからまぁ、せっかくだしと思って」
休みだからか、ヤトちゃんは私服姿だ。
黒髪ポニテの、中学生にしては大人っぽい体格の少女。
その衣服は、なんとびっくり黒を基調としたパンクファッションである。
もっとこう、腕にシルバー巻くとかさ! っていいそうだ。
とはいえ、少女らしい可愛らしさを残したガーリーさもあり、よく似合っていると言えた。
少なくとも、ピアスとかはつけてない。
「んじゃあ買い取り査定するから、少し待っててくれ」
「……少し疑問なんだけど、ストレージのカードって売れるの?」
俺がカードを査定する間、ヤトちゃんはそれを眺めつつ聞いてくる。
もともと前世でもストレージのカードっていうのはそう売れるものじゃない。
その分数十枚で十円程度の相場で買い取りつつ、一枚二十円とかで売るわけだけど。
この世界では、輪をかけてストレージのカードは売れない。
買っても相性がよくないカードだと、単純に損だからだ。
もっと言えば、前世とこの世界のカードショップの収入源は大分異なる。
この世界でのショップの主な収入は、様々だ。
フィールドの使用料とかな。
あれ、一回500円かかる。
これは全国的な相場であり規定だ。
なにせ大抵の店はフィールドをレンタルしてるからな、俺の場合は自分で買い取ったものだから自由に使えるし、使用料も取る必要はないが。
そうするとダンピングになってしまうので、取らないわけにはいかない。
話はそれたが、ストレージのカードの必要性は単純だ。
存在することに意味があるのだ。
これはカードショップとて同じこと、カードを手に入れる手段としてカードショップは無視できない比率を占める。
それがなくなってしまったら、多くの人が困ってしまう。
「存在することに意味がある、か。エージェント機関も同じよね」
「まぁ、流石に大分数多いな……とは傍から見てて思うけど」
話をしながら査定を進める。
大抵は、大した値段にはならない普通のカードだ。
若干<ゴッド・デクラレイション>が多い気がするのは、どういう運命力なんだ?
と、俺は不意に手を止める。
「ん、これは……ヤトちゃん、このカード知ってる?」
「え、どれどれ? ……知らないカードだわ。おかしいわね、ココに持ってくる前、一度全部確認したはずなんだけど」
見つけたのは、ヤトちゃんすら知らないカードだった。
それは、どういうわけかヤトちゃんの持ち込んだカードに“紛れ込んでいた”カード。
「でもこれ、あれよね。店長の使う……」
「ああ、古式聖天使モンスターだ」
正式名称を、<
いわゆる、俺の他人のそら似古式聖天使モンスターの一種だ。
「なんでまた私の持ち込んだカードに紛れ込んでるの……」
「たまにあるんだよ、こういうの。だから見つけたら俺が私費で買い取るようにしてる。結構高値がつくぞ?」
「いいの?」
「まぁ、仮にも今この世界で一枚しかないカードだからな。どうしたってそれくらいはする」
――そう。
俺がカードを手に入れる手段は、これだ。
もっぱら買い取りの中に俺と相性の良いカードが紛れ込んでいるのである。
昔はカードを拾ったり、他人から譲られたりもしたのだが。
ショップを開いてから、俺がカードを入手する方法はこれ一択である。
聞くところによると、他のショップ店長もそうらしい。
中には、それを買い取るために金欠で大変な店長もいるそうだ。
結構店長も大変な商売である。
「にしても……何で私のカードからでてきたのかしら。このノースゼファー・サムライって、私と全然関係ないように見えるんだけど……」
「正直、関係はないぞ。マジで色んなところから紛れ込むからな」
誰のカードに紛れ込むかは、まったく関係がない。
だが、このカード自体には意味があるだろう。
というか、アレだ。
サムライという時点で、いつぞやの謎サムライを思い出すな?
もっと言えば、あのサムライは「北風」モンスターを主軸にしたデッキを組んでいた。
ノースゼファー、北のそよ風でサムライ、関係がないわけがない。
というか、効果にきっちり「このカードのカード名は北風としても扱う」って書いてある。
このように、他人のそら似シリーズは、カード名を何として扱うかである程度関係する所有者を推測できる。
パストエンド・ドラゴンにも「バトルエンドとしても扱う」って感じで書いてあるしな。
「というわけで、査定でたぞ」
「ありがとう、どんなもんかし……ら……?」
で、査定が終わったので内容をヤトちゃんにみてもらう。
帰ってきた反応は……困惑だった。
「あの、店長、これなにかおかしく……」
「おかしくないぞ、正規の値段だ。まぁ、ほぼほぼノースゼファー・サムライの値段だが」
わなわなと震えるヤトちゃん。
やがて、その絶叫が店内に響き渡った。
「買い取り百万超えるじゃない!?」
視線が一斉にこちらへ向く。
それに、俺が問題ないと伝えると皆すぐにファイトやストレージ漁りに戻った。
民度の高いお客様だ。
それはそれとして、ヤトちゃんはどうやらレアカードの買い取りを経験したことがないらしい。
「でも、レアカードってのは基本こんなもんだぞ、この売買が結構ショップの売上として比重が高いんだ」
カードショップの売上は、実のところレアカードの売買が大部分を占める。
骨董品店みたいな感じなんだ、この世界のカードショップって。
かくいう俺の店も、そんな感じだ。
「ね、姉さんに相談してくるわ!」
「ああ、行ってらっしゃい」
そう言って、ヤトちゃんはスマホを取り出しつつ店の外へ駆け出していった。
しかし、そうか。
ヤトちゃんはこれが初めてのレアカードの売買なら、あのことは知らないのか。
ヤトちゃんのお姉さんが買っていった例のレアカード、数千万するんだけど。
聞いた話だと、俺の店のレシートが一緒に棚の中に入っていたそうなのだけど。
多分、見たらヤトちゃんが卒倒すると思って、お姉さんが敢えてレシートから値段の部分を切り離したんだろう。
そんなヤトちゃんのお姉さんのレアカードは現在、ヤトちゃんのデッキの中に入っている。
大切にしてやってください。
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