ラノベ系主人公、夜刀神の場合
私は夜刀神。
秘密闇札対策機関、通称闇札機関のエージェントである。
夜刀神というのはコードネームだから、本名ではないのだけど。
個人的には、結構かっこよくて気に入っている。
闇札機関のような“機関”と呼ばれる組織は、イグニッションファイトに関する様々な事件を解決する組織だ。
有名なところだと「ネオ・カードポリス」や「特殊点火事件対策室(通称特火室)」などは世間でも知られている。
その組織は大小さまざまな物があり、国に認められているものとそうでないものがある。
私の所属する闇札機関は後者。
ただ、国に存在は認知されていて、公的な組織とも連携して動くときもあるのでそこまで怪しい組織ではない。
まぁ、エージェントに学生が多くて、事件現場に行くとネオポリスの人とかに苦い顔をされたりはするけど。
それでも私達だってエージェント、事件を解決したいという意思は本物だ。
私がエージェントになったのは今から少し前のこと。
「ハウンド」の事件に姉さんと一緒に巻き込まれてしまったのだ。
そこで姉さんは私を守るためにファイトして、負けてしまった。
更には私までダークファイトさせられそうになった時、闇札機関の人が助けてくれたのだ。
そこで聞いたのは、姉さんが闇札機関のエージェントだったという事実。
両親がいなくて、バイトをしながらイグニッションファイトもして、私の面倒まで見てくれた姉さん。
そんな姉さんがまさか、裏では悪魔のカードを巡って戦っていたなんて。
私は情けない気持ちになった。
私がのほほんと暮らす裏で、姉さんがそんなにも頑張っていたなんて。
だから、私が闇札機関のエージェントになって、姉さんを取り戻したいと思うのは当然の成り行きだった。
もちろん闇札機関の人はそれに反対したけれど。
私は実力で、闇札機関の試験を突破。
エージェントとなった。
試験を初見で突破したのは機関始まって以来初だと騒がれもしたけれど。
結局のところ、私は未熟な少女でしかない。
上司や他のエージェントのみんなに迷惑をかけながら、必死にハウンドと戦う日々。
姉さんのイグニッションファイト全国大会がすぐそこまで迫っている。
それまでに姉さんを助けないと、そんな焦りから、私は少しずつ疲れてしまっていたのだろう。
そんな時だった、ハウンドの幹部と遭遇し敗北しかけたのは。
上司がなんとか助けてくれたけど、私は一度休んだほうがいいと言われてしまった。
でも、私にできることなんてエージェントとして活動すること以外にない。
その日は休みだったけれど、近くで市民がハウンドに襲われたと聞いて、私は真夜中に現場へ急行した。
そこで出会ったのが、カードショップ“デュエリスト”の店長、棚札ミツルさんだった。
カードショップ“デュエリスト”。
この街にはカードショップがいくつかあるけれど、一番繁盛している店がどこかと聞かれたらみな、声を揃えてデュエリストだと言うだろう。
実際、最新式の「イグニッションフィールド」があったり。
カードの品揃えが街で一番よかったり。
値段が良心的だったりと、優良店には違いない。
私は、あまり利用したことはなかったけど。
そしてもう一つ。
デュエリストの店長といえば、界隈で知らない人間はいない。
この街で“店長”とだけ呼ばれたら、彼のことを指す場合がほとんどだ。
若くしてカードショップの店長をしているのもそうだけど、その実力はまさに本物。
トッププロレベルとすら言われている。
というか、彼の友人にプロリーグの現チャンピオンがいるそうだから、実際そのくらい強くても不思議じゃない。
そして、そんな強さを持つ彼には、秘密がある。
誰も彼が、大きな事件に関わっているのを見たことがないのだ。
普通、アレだけ強かったら、何かしら事件に関わって世界の一つでも救っていて不思議ではない。
なのにそういう話を一度も聞かないものだから、よっぽど彼には深い秘密があるのだろう、と誰もが思っている。
だが、それに関して、深掘りはしないのが鉄則だ。
彼は既に、1つの事件を終えている。
そんな彼が事件について語ろうとしないなら、こちらからそれを聞くべきではないのだ。
だから彼の秘密は、今も秘密のままになっている。
時折、その“謎”のベールをめくろうとする人が現れるそうだけど。
謎は謎のままにしておいた方が神秘的だと、私は思った。
私が彼と出会った時、彼は「ハウンド」の刺客を撃退して、ハウンドが敗れた際に落とす悪魔のカードを手にしていた。
彼には話さなかったけれど、「ハウンド」に襲われて生き残った市民は彼が初めてだ。
「ハウンド」の悪魔のカードは非常に厄介で、初見殺し性能が非常に高い。
だから、どれだけ実力があってもその実力を発揮しきれずに負けてしまうことが多いのだが。
流石は実力者、悪魔のカードを苦も無く倒してしまうなんて、すごい。
そうして翌日、私は彼と実際にファイトした。
私のような未熟者が、彼に勝てるわけないと思っていたけれど、実際にはかなりいい勝負になって。
最終的に惜しくも負けてしまったけれど、私は少しだけ自分に自信を持つことができた。
何より、彼は私が忘れていたファイトの楽しみを思い出させてくれたのである。
彼が最後に言っていた、姉さんと二人でデュエリストを訪れるという約束を果たさないと。
心からそう誓った。
――それから。
私は幹部と再戦し、これを撃破。
その後も私の仲間たちが幹部を倒し、ハウンドを追い詰めた。
しかし、そんな時なんと姉さんがハウンドの最高幹部として現れたのだ。
どうやら姉さんはハウンドの黒幕に操られてしまっていたようで、そんな姉さんと私の上司――闇札機関最強のファイターが激突した。
結果は、上司の敗北。
ハウンドの初見殺しがひどかったというのもあったけれど、操られた姉さんは強かった。
最終的に上司は私に姉さんを救うよう託して、魂を連れ去られてしまう。
そこからは激動だった。
ピンチに陥った闇札機関、連れ去られた人たちが洗脳されて敵になったり。
その中に上司がいて、姉さんとともに強大な敵として立ちはだかったり。
瓦解しかけた闇札機関をなんとかまとめ上げて、反撃を開始したり。
結論から言えば、私たちは勝利した。
逆転の切り札となったのは、姉さんのカードだった。
実は私達が襲撃された時、姉さんはハウンドが奪おうとしていたレアカードを所持していなかったのだ。
それに気がついた私は、家にあった姉さんのカードと私へのメッセージを見つける。
メッセージに励まされながら、デッキを組み直した私を中心に、最終決戦が始まった。
私は幹部の一人と、姉さん、そしてハウンドの黒幕を倒して事件にケリをつけることができた。
我ながら、新人とは思えない大戦果である。
まぁ最終的に無茶しすぎて、正気に戻った姉さんが助けに来てくれなかったら本当に魂を持っていかれるところだったけれど。
そのせいで姉さんを泣かせてしまったりしたけれど。
私達は、無事に勝利して日常へ戻ることができたのだ。
もちろん、後始末やらそもそも特殊な経緯でエージェントになった私の今後とか、色々と考えなきゃいけないことはあるけれど。
その日、私と姉さんはカードショップ“デュエリスト”の前にやってきていた。
週末ということもあって、店はとても繁盛している。
そんな店に、姉さんと二人で入っていって――
「おや、いらっしゃい」
そうやって、何気なく私達に挨拶してくれる店主に、私は思わず涙がこらえきれなくなる。
あの時、彼が私にファイトの楽しみを思い出させてくれなかったら、私は姉さんが助けに来てくれるまで、自我を保てなかったかもしれない。
ついでに、姉さんの部屋からレアカードを見つけた時、一緒にこの店のレシートも出てきた。
何にしても店長には頭が上がらないな……と思うのだった。
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