第33話 最強への道


 ギーゼラとの模擬戦を行った翌日の放課後。

 流れでギーゼラに指導することが決まり、早速今日の放課後から指導を行うことになった。

 何故か昨日同様にクラウディアもおり、俺の目の前にはクラウディアとギーゼラというタイプの違う絶世の美女が二人並んでいる。


「今日からご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

「別に敬語じゃなくていいぞ。ギーゼラに敬語を使われるとムズムズするからな」

「そうなのか……? エリアスがそう言うなら敬語は使わずにいかせてもらう」

「そうしてくれると助かる。一応同じクラスだし、敬語で接されると変な誤解も生まれるだろうしな」


 指導というよりかは、あくまでもゲームでは最強とされていた育成方法を教えるといっただけだしな。

 やる気があれば必ずものにできるだろうし、ギーゼラが今の状態からどう強くなっていくのか本当に楽しみなのだが……クラウディアが上目遣いで俺を見ているのがずっと気になっている。


「それでずっと気になっていたんだが……。クラウディアはなんでそっち側に立っているんだ?」

「あの、私も指導してもらってもよろしいですか? 昨日の戦いを見て、私も強くなりたいと思いまして……駄目でしょうか?」


 自分の可愛さが分かっているかのような破壊力抜群のお願い。

 こんな表情でお願いされたら――どんな男だろうが断れる訳がない。


「もちろん構わない……が、俺はクラウディアのことを何も知らないからな。俺がギーゼラに指導している間に、得意な武器や戦闘スタイルをまとめておいてくれるか?」

「はい! エリアス様、ありがとうございます! 分かりやすいようにまとめておきますね!」


 ギーゼラの指導法は分かるんだが、クラウディアはさっぱり分からない。

 戦闘スタイルを聞き、エンゼルチャームを貸して指導するのがベストか?


 それか……エンゼルチャームを拾ったように、育成を行う際に必要なものを集めて回ってもいいかもしれない。

 くっそ。俺自身の鍛錬もしたいし、これから始まる二人への指導。

 それからアイテム集めと……時間がいくらあっても足らない。


 一番無駄なのは午前中の座学なのだが、学校も学校で卒業はしておきたいからな。

 頭を掻いてどう時間を捻出するか考えていると、ギーゼラが心配そうに寄ってきた。


「エリアス、大丈夫か? 私の指導はそんなに難しいのか?」

「いや、別のことを考えていただけだ。ギーゼラへの指導法はもう考えてある」

「一体何をすれば私は強くなる? 強くなるためなら何でもやるつもり」

「ギーゼラにやってもらうのは――魔法の練習だ」

「へ? ま、魔法……?」


 何でもやると言ったばかりなのに、魔法が必要と告げた瞬間にギーゼラは表情を思い切り歪めた。

 『インドラファンタジー』でもそうだったが、ギーゼラはゴリゴリの近接タイプ。


 魔法職には一切向いていないステータスをしているが、魔力だけは何故か高いのだ。

 ただ攻撃魔力も回復魔力も全く伸びないため、魔法を覚えさせても糞の役にも立たないのだが……補助魔法だけは別。


 自身に補助魔法をかけて戦うというのが、ギーゼラが一番強いとされていた戦い方。

 その補助魔法を覚えさせるのが非常に大変なのだが、その大変さに見合う強さが手に入るため俺は絶対に習得させていた。


「ああ、魔法だ。ギーゼラは魔法を使うことはできるのか?」

「一切使えない。一度覚えようとしたが、指導してくれた先生も匙を投げたぐらいには才能がないし……私が一番嫌なのが魔法の練習」


 絶対にやりたくないという強い意思を感じる。

 ゲームでも相当大変だったが、この世界ではギーゼラ本人の意思もあるから余計に骨が折れそうだな。


「俺が丁寧に教えるからやってみよう。……まぁどうしても嫌というなら、無理にやれとは言わないが」

「……嫌だって言った場合は、他の指導をしてくれるのか?」

「しない」

「……なら、選択の余地はないじゃないか!」


 ギーゼラは怒った様子で頬を膨らませた。

 俺と同じくらい背が高くて圧があるのだが、こういう表情をすると一気に可愛くなる。


「やるかやらないかはギーゼラが決めていいってことだ。ギーゼラには素質があると思っているが、本人にやる気がなければ強くなりようがないからな」

「…………分かった。魔法の練習をすればいいんだろ」

「理解してくれたなら良かった。始める前に色々と聞きたいんだが、ギーゼラは魔力を出すことはできるか?」

「無理だ。魔力というものがいまいち分かっていない」


 その段階か。

 俺も一切分からなかったが、デイゼンに魔力を流してもらって理解することができた。

 デイゼンにやってもらったことを試して、まずはギーゼラに魔力というものがどういうものか理解してもらおう。


「なら、俺が魔力を流す。それを肌で感じて理解してみてくれ。いくぞ」

「――ひあゃっ! きゅ、急に手を掴むな! 馬鹿者!」

「あ、いや……すまない」


 手を握り、魔力を流そうとしたのだが、ギーゼラは女の子のような変な叫び声を上げた。

 いや女の子なんだが、まさかそんな反応をするとは思っていなかった。

 俺がキモい故の反応の可能性を考えてしまい、少し落ち込んでしまう。


「い、いや、事前に言ってくれたら構わない。ほ、ほら続きをしてくれ」

「じゃ、じゃあ手を握らせてもらう」


 ギーゼラに許可を取り、合わせた手を包み込むように握り――俺は魔力を流した。

 気まずい空気感が漂っているが、考えないようにして魔力を流すことだけに集中する。


「おおっ。温かいのが体の周りを纏っている」

「それが魔力だ。自分からも発することができるんだが、まだ難しいか?」

「う、うーん……。まだ分からないな」


 エンゼルチャームを身に着けていないからか、すぐにものにすることはできなかった様子。

 貸してもいいのだが、エンゼルチャームは指導法も定まっていないクラウディアに貸す予定だからな。

 ギーゼラには自力で覚えてもらうしかない。


「もう一度魔力を纏わせる。その後は自分で少し試してみてくれ。この繰り返しで徐々に魔力の感覚というのを掴んでほしい」

「分かった。……エリアスは教えるのが上手いな。数ヶ月くらい魔法の指導をしてもらったが、エリアスの数分の指導が一番魔力について分かった気がする」

「俺ではなくて、俺の師匠が凄いんだと思う。それじゃまた手を握るぞ」

「ど、どうぞ」


 毎回変な空気になりつつもギーゼラの手を握り、もう一度魔力を流す。

 それにしても……やはりデイゼンの指導はかなり分かりやすかったんだな。


 家に帰ったらデイゼンに指導法を聞くとして、今は魔力を流すことに集中する。

 ギーゼラが何か掴んでくれればいいのだが、初日で魔力操作をマスターするのはまず難しいだろう。

 苦手なことをさせているのだから、気長に指導していくとしようか。

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