第31話 周囲の変化


 学校に着くなり呼び出され、俺はローゼルと共に先生にめちゃくちゃ怒られた。

 馬車でクラウディアとの幸せなひとときがあったから、ギリギリプラスではあるものの本当に納得がいかない。

 モヤモヤしつつ、ローゼルと一緒に教室へと戻りながら、昨日のことを尋ねることにした。


「おい、昨日のは何だったんだ? お前のせいで俺まで怒られる羽目になったんだぞ」

「昨日も言った通り、エリアスを負かしたかっただけよ。大人しくやられていれば、怒られることはなかったわ」

「あんなの直撃したら、一ヶ月は眠ることにな――」


 そこまで言い掛けて、ローゼルが国宝にも認定されているほどの回復術士であることを思い出した。

 あの超級魔法を俺に食らわせた上で、完治させるまでがローゼルの狙いだったのか。


 誰に見せるための魔法だったのかはさっぱり分からないが、それを俺に止められた形になったわけだ。

 そのことに昨日気づいていれば、大人しく魔法を受けることも……いやいや。

 例え完治すると分かっていても、あの魔法は絶対に食らいたくない。

 

「なにか策があったのか知らないが、魔法なら魔法で勝負を挑んでこい。俺はいつでも受けて立つ」

「もう敵わないと分かったから、挑むことはしないわよ。…………ただ確実にあなたは私が育て上げる。ふふふ」

「ん? 何か言ったか?」

「いいえ。何も」


 そこからはお互いに何も発さず、教室までやってきた。

 部屋の扉を開けるなり、クラス全員の視線を一斉に浴びる。


 居心地の悪さを感じながらも席に着くと、昨日はずっと机に伏して寝ていたギーゼラも俺を見ていることに気がついた。

 認知されたことは嬉しいが……どうも好戦的な視線に感じるな。


「エリアスさん! 昨日は凄かったですね! いやぁ……あんなに強かったなんて知りませんでしたよ!」


 手をこねながら近づいてきたのは――まさかのアレック。

 昨日との態度の違いっぷりに驚くが、この掌返しも貴族特有のものといえばそうなのかもしれない。


「昨日とは随分態度が違うな」

「それはもう本当に申し訳ございませんでした! ほら、お前たちも謝れ!」

「「すみませんでした!」」


 アレックの取り巻き二人も俺に謝罪をし、ペコペコとしてきた。

 この態度の変化も含めてムカつきはするものの、主にいじめられたのは俺の前のエリアス。

 今後ちょっかいをかけてこなくなることを考えれば、許しておくのが吉だろう。


「分かった。許すがもう俺に付きまとわないでくれ」

「そんなそんな! これからは仲良くしてください!」

「嫌だ。俺に付きまとうな」

「あ、あーしも色々と教えてほしいなぁーって……。昨日のあの魔法のこととか!」

「嫌だ」


 断固として突っぱねたのだが、アレック一行は一切引こうとしてこない。

 いじめの標的にされるよりも厄介なことになった気がするが、取り巻きが自然とできてしまうのは悪役貴族の定めなのかもしれない。


 午前の座学を終え、俺はアレック達から逃げるようにクラウディアと昼食を取りに学食へと向かった。

 貴族学校なだけあって、学食は種類豊富で豪華な上に全て無料。


 まぁ無料といっても、その分の高額な学費を支払っているんだろうが。

 とにかくなにも気にすることなく、好きな料理を食べられるというのは嬉しい。


 クラウディアはパスタセット。

 俺はステーキセットを頼み、楽しく昼食を食べていると――スラッとした筋肉質の美人。


 ギーゼラが俺を見下ろす形で真横に立ってきた。

 無言なのが色々と恐ろしく、ギーゼラに気がついたクラウディアが俺を守るように両手を広げて前に立ち塞がってくれた。


「エリアス様に何か用ですか?」

「……ああ。そのエリアスに用がある。私と模擬戦をしよう。昨日は中断になってしまったからな」


 やはり朝から好戦的な目を向けられていたと思っていたが、気のせいじゃなかったか。

 ギーゼラと戦うのは望むところだし、ぼっこぼこに打ち負かした上で師匠になりたいぐらい。

 俺はギーゼラの最適な育成方法を知っているからな。

 

「だ、駄目です! エリアス様をいじめるというのであれば……私がお相手致します」

「いじめる? お前は何を言っているんだ?」


 昨日のトーナメントのことを知らないクラウディアは、盛大に勘違いをしている。

 守ってくれるのは嬉しいが、クラウディアを巻き込みたくはない。


「クラウディア、大丈夫だ。この人はギーゼラといって、昨日の実技の訓練で戦う予定だった人。俺をいじめようとしている訳じゃない」

「そ、そうだったのですね! つい勘違いをしてしまいました。ギーゼラさん、申し訳ございません」

「別に構わない。それよりも……エリアス。私の名前を覚えていたんだな」

「それはもちろん。戦う可能性が高かったし、クラスの中じゃギーゼラが一番強いからな」

「ふふ、やはりエリアスとは一戦交えたい。今日の放課後にでもどうだ?」

「もちろん構わないぞ」

「それじゃ決まりだな。放課後によろしく頼む」


 ギーゼラはニヒルに笑ってから、学食から去って行った。

 まさかギーゼラの方から絡んでくるとは思ってなかったな。


 好きだったキャラと話ができた嬉しさ半分、関わって大丈夫だったのかという不安半分。

 もうどちらにせよ絡んでしまったわけだし、ここからは何も考えずにギーゼラと絡んでいくつもりだが。


「え、エリアス様……! 大丈夫なのですか? あのお方、相当強いと有名な人ですよ? お断りなさるなら私が代わりにお断りしてきます!」

「心配してくれてありがとう。……ただ大丈夫だ。俺は意外と強いからな。放課後だし、クラウディアも見に来るか?」

「エリアス様が戦っているところは見てみたいですが、本当に大丈夫なのですか?」

「ああ、本当に大丈夫だ。気を取り直してご飯を食べよう」


 心配そうに見つめているクラウディアに大丈夫と言い聞かせつつ、昼食を再び食べ始めた。

 実際にギーゼラとの模擬戦で、俺が負けることはまずありえない。


 戦い方や技からスキルまで完璧に把握しているからな。

 少しズルいかもしれないが、ゲームの知識を利用して圧勝するつもりだ。

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