第23話 輝き茸


 バームモアの森に入った日から、あっという間に二ヶ月が経過した。

 週休二日にしたことで自由な時間が増えると思っていたのだが特に増えることはなく、休みの日の一日はクラウディアと過ごし……。

 もう一日はバームモアの森に行くか、師匠三人の内の誰かと過ごすことが多い。

 

 俺はこれまでと忙しさがあまり変わらない中、師匠達は自由に使える日ができたことで妙な動きを見せており、各々俺を他国の学校に入れようと画策していた様子。

 結局クラウディアの助けもあり、俺は他国の学校に行くことなく、ドラグヴィア帝国内の貴族学校に通うこととなった。


 本当は学校なんか行きたくないのだが、他国に行かされるよりは何倍もマシ。

 元勇者パーティの一人であるローゼルも中々に危険な人物という認識だし、グルーダ法国のニコラスは近づきたくないほどヤバい人間。


 ニコラスと関わっていいことが一つもないのは、『インドラファンタジー』をやり込んだ俺には分かっている。

 唯一、聖王国の騎士学校だけは何も知らないけど……強烈に嫌な感じがあるし、近寄らないに越したことはない。


 結果として、エリアスが虐められていたとされる貴族学校に復学することになったのだが、まぁ今の俺なら何とかやれるだろう。

 それに貴族学校さえ卒業すれば、今度こそ自由な時間が与えられるはず。


 オールカルソン家自体は俺が関与しない限り、エリアスの兄が継ぐはずだからな。

 『インドラファンタジー』では、エリアスが無理やり継ごうとして街の人達も巻き込む家庭争議に発展するのだが、俺はオールカルソン家には全く興味がないから争いにはならない。


 それに……貴族学校には女性との出会いもあるだろうからな。

 エルゼの話によれば、ドラグヴィア帝国内の優秀な貴族の子供達が通う学校らしく、野外実習として魔物を討伐するだけでなく、ダンジョン攻略なんかも授業の一環として組み込まれているらしい。


 普通に楽しそうだし、婚約解消を切っ掛けに仲良くなったクラウディアも通っている。

 元いじめられっ子の復学は浮きそうだが、多分クラウディアが話しかけぐらいはしてくれると思っている。


 とにかく新学期が始まる二週間後までにやっておくのは……もちろん輝き茸の採取。

 少しでも魅力のステータスを伸ばしておきたいため、俺は一人で部屋を抜け出し、バームモアの森へ向かった。


 コルネリアと一緒に来てから、バームモアの森には一人で三度ほど足を運んでいる。

 ただ例の洞窟までは辿り着けておらず、秘密の花園に未だいるキメラケルベロスと戯れるだけで時間が過ぎてしまっている状況。


 今日こそは例の洞窟に向かうべく、キメラケルベロスに食べさせるための餌を用意した。

 この餌を食べている間にサクッと探索を行い、輝き茸を採取したいと考えている。


 ついでに薬草などの植物も採取し、コルネリアに渡して調べてもらいたい。

 そんなことを考えながらバームモアの森を進んで行き、道を完璧に覚えたということもあって、あっという間に秘密の花園に到着。


 そして色とりどりの花の中で鎮座している――キメラケルベロスの姿が見えた。

 三つ首全てが俺を見るなり喜びを露わにし、尻尾をブンブンと振っている。


 この姿を見る限りでは、魔物というよりは大型犬にしか見えない。

 ……まぁ全長四メートル近いから、犬と呼ぶにはあまりにもデカすぎるし見た目が怖すぎるが。


「大人しくしていたか? お前の飼い主はまだ来ないのか」

「……ハァハァ! アウッ!」


 遊んでくれと言わんばかりに、俺の下に駆け寄ってきたキメラケルベロス。

 土魔法で泥人形を作り、その泥人形と戦わせることで遊ばせていたんだが、今日は遊ぶ時間がない。


 俺は背負ってきたリュックから、大きな肉の塊を三つ取り出す。

 一つの首に一つずつということで、牛、豚、鳥の三種の肉塊を持ってきた。

 首ごとに好みが違うだろうという考えから三種の肉を持ってきたんだが、別にそこまでの気遣いはいらなかったかもしれない。


「今日はご飯を持ってきたぞ。これを食べて大人しくしていてくれ」

「――バウッ! アウッアウッ!」

「どうだ? 美味いか?」

「ガウッ! アウッ!」


 興味津々のキメラケルベロスに肉をあげ、美味しそうにかぶりついているのを少し眺めてから、俺は秘密の花園を抜けて例の洞窟を目指した。

 ――おおっ! やっぱりあったか。


 隠れた位置にあるため見つけづらいが、輝き茸が自生している例の洞窟を見つけた。

 早速【ファイアボール】を唱え、明かり代わりにしながら洞窟の中に入る。


 どういう仕組みなのか全く分からないが、ゲームと同じように様々な植物が洞窟内に生えており、とりあえず一種類ずつ全ての植物を採取していく。

 どんな植物かは後でコルネリアに確認してもらうとして、今は採取した植物を袋に詰めてからリュックに入れていく。


 秘密の花園すら見つけにくい場所にある上に、この洞窟は更に分かりづらい場所にあるからな。

 番犬のようにキメラケルベロスも秘密の花園に鎮座しているし、この洞窟に辿り着く人はほぼゼロなだけあって、めちゃくちゃ美味しい穴場となっている。


 ウキウキで自生していた植物を全て採取してから、いよいよ目的の輝き茸の採取に向かう。

 生えているか少し心配だったが……洞窟の奥には無数の光り輝くキノコが生えていた。


 【ファイアーボール】での明かりがいらないほど、輝き茸によって洞窟内は光り輝いており、俺は全て採りきらないようにだけ注意しながら、輝き茸の採取に成功した。

 このキノコを食べれば、魅力のステータスが上昇するはず。


 この体にどう反映されるのか分からないが、肌艶が良くなったりするのだろうか?

 それとエンゼルチャームが適用されるのかも気になるところだが、経験値二倍だしステータス直上げ系は効果はなさそうだな。


 とりあえず自室に戻ってから色々と試すとして、これで今回の目的は達成した。

 採取した輝き茸は全部で三十本。


 また生えてくるまでは採取できないが、これだけ採取すれば二週間後の新学期までには体に変化が起きているはず。

 使用後の体の変化を想像しながら、俺は洞窟を後にした。


 洞窟を出たところにはキメラケルベロスが待っており、俺が洞窟から出るなり頭を擦りつけてきた。

 恐ろしすぎる見た目だが、こうも懐いてくれると可愛く見えてくる。


「どうした? そんなに肉が美味かったのか?」

「あうー! バウッ!」

「そうか、そうか。また時間がある時は持ってきてやるからな」


 どうにかして屋敷で飼えないか頭を回転させるが、キメラケルベロスは流石に大きすぎるよな。

 両親や使用人達の反感を買うだろうし、ただでさえ悪名高いオールカルソン家がこんな化け物のような魔物を飼い出したら、街の中でとんでもない噂が立ってしまう。


 できれば近くで置いてあげたい気持ちはあるが、しばらくはバームモアの森で我慢してもらおう。

 それから俺は少しの間キメラケルベロスと遊んだ後、俺は屋敷に戻って輝き茸を美味しく食べる方法を探るために色々と模索したのだった。

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