第19話 バームモアの森

 

 悪役の俺にできることは悪役に徹することだろう。

 100対0で俺が悪くなれば、クラウディアにもクラウディアの家族にもデメリットは生じないはず。


「俺が100%悪い理由を作ることができれば、クラウディアは一切責められることなく、婚約解消ができるはずだ」

「ですが、エリアス様はそれでよろしいのですか?」

「別に構わない。元から嫌われているし、今更誰に嫌われようと大して変わらない」


 好感度がマイナスに振り切っているからこそできるムーブだろう。

 せっかく上げた使用人たちの好感度も下がってしまうだろうが、師匠の三人とエルゼだけは下がらないだろうから、全然耐えることができる。


「あ、あの…………ほ、本当にエリアス様なのでしょうか? 見た目も随分とお変わりになられましたし、以前までのエリアス様とは別のお方と話しているようにか思えなくて」

「本当にエリアスだ。身も心も入れ替えた……いや、入れ替えている最中ってところだな。とにかく二人で案を出し合ってどうするか決めよう。許嫁と言っても、結婚を行うのはまだまだ先だろ?」

「恐らくですが、まだ先だと思います」

「なら、じっくりと話し合って綿密に決めていこう。クラウディアがこの屋敷に顔を出した時は、お互いに考えたアイデアを出し合っていく。それでこれだというアイデアが出たら、その案を実行するための作戦を立てる。そして作戦を立てることができたら――いよいよ実行に移す」

「多分思ってはいけないことだと思うのですが……何だか少し面白そうですね」

「大丈夫だ。俺も少し面白そうだと思っている」


 そう伝えると、クラウディアは初めて純粋な笑顔を俺に向けてくれた。

 やはり仮面のような作られた笑顔ではなく、本心からの笑顔の方が何倍も可愛い。


 せっかくの美貌に生まれたからには、クラウディアにはこれからも心の底から笑ってほしいし、なんとしてでも俺との婚約解消を果たそう。

 そう気合いを入れたところで――部屋の扉が叩かれた。


 ちょっと遅かったが、どうやらエルゼが蜂蜜印のクッキーを持ってくれたらしい。

 話も一つ決まったところだし、二人でクッキーをつまみながら今日から早速アイデアを考えていくとしようか。




※     ※     ※     ※




 クラウディアと会った翌日。

 今日はグレンダールから一番近い森である『バームモアの森』にやってきていた。


 ちなみに街から出るのは今回が初めて。

 三人の師匠に週休二日にすることを伝えたところ、コルネリアがこの森に行きたいと言い出したのだ。


 どうやら植物についての知識も教えたいとのことで、このバームモアの森に連れてきてくれたのだが……この森で採取できる植物の知識は既に持っている。

 まぁゲームにはなかった植物もあるかもしれないし、単純にバームモアの森に来てみたかったということもあって、かなりワクワクしているし楽しみではあるけどな。


「ここがバームモアの森か。コルネリアはよく来るのか?」

「月に一度くらいは来ますね。良い薬草が採取できますので、回復術士にとってはありがたい森なんです」

「話を聞いた時からずっと疑問に思っていたんだが、回復魔法を使うのになんで薬草を集めるんだ?」


 【ヒール】の魔法で事足りるし、薬草を使う場面がないように思える。

 実際にコルネリアが薬草を使っているところは、ゲームでも一度も見たことがない。


「薬草は色々と便利なんですよ! 傷が塞がっていく過程を見ることで、回復魔法を使う際のイメージをしやすくなるますし、薬草を使った上で回復魔法を行うことで効果も上がります」

「へー。重ね掛けの効果があるのか」


 その情報は知らなかった。

 『インドラファンタジー』ではそんなことはなかったからな。


 『インドラファンタジー』で最高の薬草と言われている世界樹の葉を使った上で、最高の回復魔法である【フルヒールティアラル】を使ったら、体の欠損とかも元通りにできたりもするのだろうか。

 色々とやってみたいことが思い浮かんでくる。


「バームモアの森では薬草だけでなく、毒消し草や麻痺消し草、風邪を引いた時に使用するシックハーブも採れますし……。なんと言っても魔力を回復できる魔力草も採取できるんです! エリアス様は魔力草って知ってますか? 魔力ポーションにも作るときにも使うんですが――」


 いつになく饒舌に語っているコルネリア。

 特に魔力草の説明は熱が籠っており、俺が興味津々で相槌を打つと、リアルに十分ほど語ってくれた。


 回復魔法を教えてくれる時よりも楽しそうだし、本当は植物学者とか錬金術士とかになりたかったのかもしれない。

 そんなコルネリアの話を聞きながら歩いていると、いつの間にかに森の中心部まで辿り着いてしまった。


「――あっ。もう目的地についてしまいました。すみません……私の話ばかりしてしまって」

「いや、興味深い話が聞けたし面白かった。ここが目的地というと、この近くに薬草とかが生えているのか?」

「あの大きな樹の根元に魔力草が生えてまして、あそこの草がいっぱい生えているのは全て薬草です!」


 これも『インドラファンタジー』とは違うな。

 『インドラファンタジー』では、バームモアの森の中にある洞窟の中に様々な種類の植物が自生しており、その洞窟が採取ポイントだった。


 その洞窟の奥では、『輝き茸』という珍しいキノコが採取でき、その輝き茸の効果はステータスの魅力を上昇させるというもの。

 “モテること”が目標である俺は機会があれば採取しようと狙っていたのだが、洞窟自体がない可能性が出てきてしまった。


 そもそも『インドラファンタジー』において、魅力のステータスはほとんど死にステータスであり、あまり意識したことがなかったのがここに来て響いてしまっている。

 輝き茸以外の魅力上昇アイテムは、『麗しの蜜』ぐらいしか覚えていない。

 敵を魅了させる技の確率上昇や、戦闘時たまに魅了状態にさせるというだけで、魅力のステータスは本当に使えなかったもんなぁ……。


「なぁ、コルネリア。バームモアの森に洞窟はないのか?」

「……へ? 洞窟ですか? ちょっと私は存じ上げないですね」

「やっぱりそうか」

「何か気になることでもあるんですか?」

「大したことではないんだが、バームモアの森の洞窟には様々な植物が生えているって噂話をしていたのを聞いてな。ちょっと気になったんだが、まぁ噂は噂ってことか」

「初めて聞く話ですね。……気になるようでしたら、少し森を調べてみますか?」

「コルネリアは大丈夫なのか? この後の用事とか」

「私は大丈夫ですよ。暗くなってしまうと怖いので、タイムリミットは夕方までですが」

「時間的に二時間ちょっとか。コルネリアがいいなら探したい。付き合ってくれるか?」

「もちろんです。私もそんな洞窟があるなら行ってみたいので!」


 こうして、本来の目的であった植物採取を中断し、洞窟探しを行うこととなった。

 ウキウキだったコルネリアには悪いが、どうしても輝き茸がこのバームモアの森にあるのか気になってしまった。

 洞窟を見つけることができれば植物採取も行えるだろうし、絶対に探し出すとしよう。

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