第10話 剣の指導
コルネリアから教えてもらった回復魔法を使い、何とか動ける状態にする。
剣術を教えてくれるとなったら、いつまでも倒れていられないからな。
「なんだ。もう起きられるのか?」
「剣を教えてくれると聞いたらいつまでも座っていられない。早く教えてほしい」
ティファニーの気が変わらない内に剣術の指導をしてもらい、明日以降も剣術の指導を組み込んでもらう。
目をギンギンにさせながらそう頼むと、ティファニー少し嬉しそうに頷いた。
「分かった。まずは剣術の型を見せる。私と同じように剣を振ってみろ」
渡された木剣を構え、まずはティファニーの動きを見る。
型というものがよく分からなかったが、どうやらティファニーがいつも行っているもののようだ。
これならば毎日食い入るように見ていたし、頭の中で反芻済みの動き。
エンゼルチャームもあるため、すぐに真似できるようになるはずだ。
「――シッ! ……っと、こんなもんだな。真似してやってみろ」
「分かりました。それではいきます」
ティファニーに宣言してから、俺は剣を振り上げてから勢いよく振り下ろした。
ティファニーの動きをイメージして剣を振ったのだが、予想していた以上にズレが生じている。
そもそもの速度が違いすぎるし、自分の体を思い通りに動かすというのは改めて難しい。
思っていた通りの動きができなかったため、首を捻りながら何度も何度もティファニーの動きに近づけながら剣を振っていく。
――微妙に遅いんだよな。
――今度はタイミングが遅い。
――次はバランスが崩れた。
傍から見たら、ただ同じ動作を繰り出しているだけでつまらなそうにも見えるだろうが、無心になって理想に近づけていく作業というのは面白い。
ただひたすらティファニーの振りを追い求め、剣を振り続け――いったぁ!
頭を思い切り引っ叩かれたことで意識が外に向き、俺はティファニーが真横に立っていたことに今初めて気がついた。
「おい、エリアス。何度も呼んでいただろ!」
「すみません! 集中していて本当に聞こえませんでした!」
「やはり集中していたのか。……意外とセンスはありそ――」
「え、えーっと、それでどうしたんでしょうか?」
「いや、何でもない。ちゃんと意識しながら振っているかの確認をしただけだ。さっさと剣を振れ」
理不尽に怒られた気もしないが……気を取り直して剣を振っていくとしよう。
そこからは途中で呼び止められることもなく、ひたすらに剣を振り続けることができた。
ある程度剣を振ってみて分かったことは、剣を振り下ろす際に重要なのは腕の力ではなく、意外にも足腰の力ということ。
剣の動きばかりに注視したせいで腕ばかりに目がいっていたが、ティファニーは何よりも踏み込みを大事にしていることに自分も剣を振ってみて気がつくことができた。
嫌がらせでランニングと腹筋orスクワットをさせていた訳ではなく、ランニングは基礎体力+体重を落とす目的。
腹筋は腹回りの肉を落とすためで、スクワットは足腰を鍛えるためだったというのが分かる。
悪魔だ何だのとぶーぶー文句を言っていた過去の自分を反省しつつ、俺は踏み込みに意識して剣を振る。
――良い。大分良くなってきた。
やはりエンゼルチャームの獲得経験値二倍の効果は大きいのか、一度振る度に理想に近づいていく。
そしてとうとう――自分のイメージしていた動きと現実の動きが一致した。
速度は圧倒的に劣るが、踏み込みから振り下ろすまでバッチリ決まった。
正直舐めていたが……剣も魔法に負けず劣らず面白いな。
「師匠。どうでしたか?」
「…………あ、ああ。ま、まあまあ良かったんじゃないか? とりあえずみっともないから顔を洗ってこい」
そう言われて顔に手を当てると、自分でも驚くくらいの量の汗が噴き出ていた。
びっしょびしょになっても気づかないほど、集中していた事実に衝撃を受ける。
「すみません! すぐに顔を洗ってきます!」
急いで近くの井戸まで顔を洗いに行くため、木剣を地面に置こうとしたのだが……その時に手から大量の血が出ていることに気づく。
そして血が出ていることを自覚してから、初めて両手に激痛が走った。
体感は十分ぐらいの感覚だったのだが、どれくらいの時間剣を振っていたのだろうか。
ここまで集中力を発揮したことがなかったし、これもエンゼルチャームの効果だったりしそうだ。
皮がずる剥けとなっている両手の傷を治しつつ、俺は井戸へと向かう。
そして全身から被るように水を浴び、その間にも回復魔法をかけていたお陰で、手の傷はしっかり塞がっていた。
回復魔法を習得してから、剣の指導に入ったのは流れとして完璧だったな。
さっきの感覚を忘れないよう、すぐに剣を振るべく俺はティファニーの下に走って戻る。
「お待たせいたしました! 気を取り直して剣を振ってもいいでしょうか!」
「いや、今日はもう止めておいた方がいい」
ティファニーから止めてくるなんて初めてのことだったため、両目を開けて凝視してしまう。
てっきりさっきの振りを続けるように言ってくると思ったんだけどな。
「師匠、どうしてでしょうか? 俺はまだ剣を振りたいです!」
「いや、単純にもう時間だ。気づいていないのかもしれないが、もう昼だぞ」
そこで初めて上を向き、日の位置を確認したのだが……確かに日は真上に来ていた。
つまり、俺は四時間くらいぶっ通しで剣を振っていたのか。
道理で両手の皮がずる剥けになっていたり、走った時に全身の筋肉が痛いと思った。
体感は本当に三十分程だったし、エンゼルチャームの効果は想像以上だな。
「全く気づいていなかったです! それじゃ続きは明日また指導お願いいします!」
「……ああ。考えておく」
悪魔的な笑顔でもいいから見たかったのだが、今日は終始真面目な顔だったのが少し引っかかりつつも……。
地獄だったティファニーの指導も、剣の指導が始まったことで楽しいに変わったのは本当に大きい。
俺はデイゼンから魔法を教えてもらうため、昨日までと違って笑みを浮かべながら書斎室へと向かった。
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