第7話 下着姿


 楽しかった魔法の練習はあっという間に終わってしまった。

 これだけ楽しいとティファニーの指導がより億劫になりそうだが、魔法は楽しいということが分かっただけで明日も頑張ることが出来る。


 デイゼンとの関係も比較的良好だったと思うし、コルメリアとも上手く付き合っていきたいところ。

 回復魔法ということで期待しつつ、俺は呼び出されているコルメリアの自室へと向かった。


 お腹を満たすべく糖質の少ないささみと野菜だけを食べ、コルメリアの自室の前についた。

 指導のためとはいえ、女性の私室に入るのは緊張する。


 昨日のティファニーの部屋は、家具がほとんど置かれていない生活感のない部屋だった。

 雰囲気的にコルメリアはちゃんとした部屋のように思えるし……俺は大きく深呼吸をしてからノックをする。


「エリアス様ですね。ど、どうぞお入りください」

「失礼します。――って、ええ!? な、なんでそんな格好をしているんだ!?」


 コルメリアの部屋はやけに薄暗かったのだが、下着姿になっているコルメリアの姿はハッキリと見えた。

 意味が全く分からず、素っ頓狂な声を上げてしまったのだが、すぐに昨日のティファニーとの会話を思い出した。


 エリアスはティファニーにだけ体の関係を迫っていたのではなく、コルメリアにも体の関係を迫っていたと考えるのが自然。

 そして下着姿ということは……既に何度か体を重ねていた?


「なんでと言われましても……そういうことではないのですか?」

「そ、そういうこと? コルメリアは嫌ではないのか?」

「私の意思は関係なく、エリアス様のご命令とあればお聞き致します」


 両手を軽く広げて目を瞑っているコルメリア。

 あまりにもなダイナマイトボディで、一気に下腹部が熱くなっていくのが分かった。


 コルメリアはいいと言っているんだし、ここでいかないのは逆に失礼なんじゃないのか?

 モテるというのが目標だった訳だし、これは最大のチャンス。


 コルネリアのあまりにもエロいその姿にそこまで思考してしまったのだが、よく見れば指先が震えているのが分かった。

 ……冷静になれ。ここでいってしまったら、エリアスとやっていることは変わらない。


 そもそもこんな醜い容姿の男に抱かれたいと思う女性はいない。

 権力を使って抱くことは“モテ”ではない! 

 自分をそう戒め、コルメリアに優しく声をかける。


「酷い勘違いしているようだが、体を求めて指導のお願いをしたんじゃない。本当に回復魔法の指導をしてもらいたくてお願いしたんだ」

「……………………へ? ほ、本当に指導をしてもらいたくて? それは本当なのですか?」

「ああ、こんな嘘はつかない」

「それは――す、すいません! とんだ勘違いをしてしまいました!!」


 顔を真っ赤にさせ、近くにあった毛布で体を隠したコルメリア。

 耳まで赤くなっているのが、薄暗い部屋の中でもよく分かる。


「いや、俺の普段の行いが悪かったせいだ。それじゃ外に出ているから、準備が整ったら呼んでくれ。改めて魔法の指導をしてほしい」

「わ、分かりました。本当に申し訳ございませんでした!」


 俺は一度部屋から退出し、コルメリアの準備が整うのを待つ。

 その間に抱きにいかなかった後悔の念が押し寄せてきたのだが、あれで抱いてしまったらエリアスと同じ。

 何度もそう自分に言い聞かせていると、か細い声で準備が整ったというコルメリアの声が聞こえてきた。


「それじゃ入らせてもらう」

「は、はい……」


 部屋の中は明るくなっており、コルメリアはいつものシスター服に身を包んでいた。

 顔は依然として真っ赤なままだが、俺は触れずに改めて指導のお願いをする。


「色々と勘違いさせてしまったが、改めて回復魔法の指導をしてもらっても大丈夫か?」

「もちろんです。お恥ずかしい姿をお見せして申し訳ございません。しっかりとご指導させて頂きます」

「よろしくお願いします。それと……指導中は普段の口調で構わない。教えてもらっている以上はコルメリアの方が上の立場だからな」


 デイゼンにもした提案を行ったのだが、ふるふると首を横に振った。

 遠慮しているわけとかではなく、本当に今の状態で進めたいようだ。


「まぁ無理強いするつもりはない。敬語のままでいいなら敬語でお願いする」

「分かりました。……それではまず初歩的な回復魔法からお教え致しますね」


 大爆発ボディで三十代ということもあって、てっきりお姉さまキャラなのかと思っていたが、この気まずい感じ的にも想像以上にうぶなことが分かる。

 ティファニーが想像を越える強気な性格だっただけに、めちゃくちゃ可愛く思えてしまう。


「エリアス様は魔法を扱えるのですか?」

「ああ、ついさっきデイゼンから教えてもらった」

「それでしたら、【ヒール】詠唱の言葉をお教え致しますので唱えてみましょうか。回復魔法は普通の魔法とは違い、傷を治すというイメージが大事になります」

「多分だが、詠唱はなくても大丈夫なはず」


 俺はコルメリアのアドバイスに習い、回復させるイメージを持って魔法を唱えた。


「【ヒール】」


 その次の瞬間、ティファニーに散々痛めつけられた時にできた傷が徐々に塞がっていくのが分かった。


「……え。ええ!! いきなり回復魔法を成功!? それもほぼ無詠唱ですよ!」

「デイゼンも驚いていたが、そんなに珍しいことなのか?」

「そ、それはもちろんです! ただでさえ、回復魔法は傷が治っていくところを何度も何度も見て、ようやく習得できる魔法なんですから! エリアス様は天才なのかもしれません!」


 気まずい空気から一転、跳び跳ねて喜んでいるコルメリア。

 跳ねると胸がとんでもないことになって、目の遣り場に困るからやめてほしいのだが……。

 

 攻撃魔法に引き続き、回復魔法も問題なく扱えて良かった。

 これもアニメや漫画、ドラマなんかでイメージしやすいからかもしれない。

 なんにせよ、魔法系統はしっかりと習得できると分かって一安心だな。


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