第2話 ゲームの知識
グレンダールの街は、俺が記憶している『インドラファンタジー』のグレンダールの街とそっくりそのままだった。
大好きなゲームの世界が、自分の目の前に広がっているという感動でゆっくりと街を巡りたい感情が湧いてくるが、今はそんな悠長なことをしている時間はない。
酒場の地下、武器屋の屋上、井戸の中、宿屋のクローゼット、細い裏路地の奥。
今のところはゲームの知識そのままにアイテムが存在しており、それを盗むように回収することができている。
そして、グレンダールで拾うことのできるアイテムで最高のアイテムといえば――今いるグレンダール地下水道にあるアイテム。
ゲームではクリア後にしか入ることのできない場所であり、最後の鍵と呼ばれるアイテムがないと、ここに入るための扉を開けることができない。
ただ、今俺がいるのはゲームの世界であってゲームではない。
鍵を開けずとも無理やり壁をよじ登ればいけるだろという思いは、『インドラファンタジー』をプレイしていた時からずっと感じていた。
そして先ほど窓から抜け出ることができた通り、ゲームではできなかった動きが可能なのは実証済み。
この太った体でよじ登れるのかだけが不安だが、扉に足を掛ければ越えることができるはず。
覚悟を決めた俺は扉に張り付き、ハンドル部分に足を引っかけて無理やりよじ登った。
思い切りジャンプをし、つっかえる腹を体を捻じったことで何とか扉を越えることに成功。
「――いってぇ。この体、流石に不便すぎるだろ」
よじ登れはしたが、思わず愚痴がこぼれてしまうほどあまりにも動かしづらい体。
歩いているだけでも息が切れたし、窓から外に出た時や今のように扉をよじ登っただけで大量の汗が噴き出ている。
ここは剣と魔法の世界で、一歩街を出たら魔物が跋扈しているというのに、平和な日本でほとんど運動もしていなかったサラリーマンの俺の体よりも動けないというのは相当ヤバい。
ゲームでは戦わなかっただけで、実力を隠し持っている可能性もあるのではと思っていたが、能力判別をする前から戦うことのできない体ということは判明した。
ただ強くはなりたいし、何のスキルを持っているのか単純に気になるため、グレンダール地下水道のアイテムを回収したら、教会に行って能力判別はするつもりだけどな。
ポケットに入っていたハンカチで汗を拭いながら、薄暗い地下水道を慎重に進んで行く。
ちなみにグレンダール地下水道の最奥には何故か禁獣が封印されていて、主人公が近づくと封印から解き放たれて戦闘になる。
いずれはこの禁獣も倒してみたいと思っているが、今の状態ではどう足掻いても勝つことができないため、禁獣の眠っている部屋の前に置いてあるアイテムの回収だけを行う。
道中に魔物がいないことをありがたく思いながら、俺は禁獣が眠っている部屋の前までたどり着くことができた。
薄暗い中、何とも言えない色合いの魔法陣が扉に描かれており、絶対にこの扉を開けてはならないと本能が叫んでいる。
扉を見た瞬間から近づきたくすらないのだが、そんな本能に抗い摺り足で一つ手前の部屋を調べた。
「――あった! エンゼルチャームだ!」
例の如く、木の箱のようなものを見つけ、その箱から取り出したのがこのエンゼルチャーム。
取得経験値を二倍にするという化け物じみた性能をしている装備品であり、クリア後のコンテンツである禁獣と戦うための救済措置のようなアイテムとなっている。
この世界での経験値がどういう感じで振り分けられるのか分からないが、単純に全ての習得が二倍の速度になるとしたら、いくらポンコツのエリアスでもきっと強くなれるはずだ。
胸が高鳴っていくのを感じつつも、とりあえずここから出ることを優先しよう。
チート級のアイテムであることは間違いないが、伝説の剣や伝説の防具を手に入れたとかではない。
さっきまでと強さ自体に変化があった訳ではないため、慢心は一切せず胸の高鳴りを抑えることを意識しながらグレンダール地下水道を後にした。
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