転生した先は醜悪な悪役貴族。二度目の人生はモテるために全力を尽くす

岡本剛也

第1話 醜悪な悪役貴族


 容姿最底。性格最悪。実力皆無。

 負の三拍子が揃っている悪役貴族、エリアス・オールカルソン。


 エリアスは『インドラファンタジー』に出てくる中ボスであり、自分では一切戦わず部下に戦わせるというボスらしからぬ行動を取るキャラクター。

 自分の部下に背後から突き刺されて死ぬという壮絶な最期を迎えることになるのだが、エリアスの行いを考えたら同情できる余地は少しもない。


 俺がなぜ、急にそんなゲームの悪役貴族の振り返りなんかしたのかと言うと……転生してしまったのだ。

 部下に殺される最後を迎えるエリアス・オールカルソンに。


 前世はどこにでもいる、ゲームが趣味の普通の社会人だった。

 死んだのは事故に巻き込まれたからであり、目を瞑れば俺に突っ込んできたプ〇ウスをいつでも思い出すことができる。


「ただ転生と言ったら普通は勇者とかだろ……」


 心の底から落ち込み、何気なく視線を落とした時に視界に入ったのは、まん丸な手と爆発するのではと思うほど膨れ上がった腹。

 やけに浅黒い肌で、確実に日本人である俺の体ではない事実を鏡で確認する度に思い知らされる。


「俺の転生先が本当に『インドラファンタジー』のエリアスなら、このままじゃ俺は主人公と対峙した時に部下に殺される。でも、まだ主人公がやってくる前までは時間があるはずだ」


 まだ転生したばかりであり、何がなんだか分かっていないが、流石に猶予は残されているはず。

 例え最低最悪の悪役貴族だとはいえ二度目の人生が与えられ、俺の大好きな『インドラファンタジー』の中に入ることができたんだ。


 ゲームのエリアスがどうなろうとどうでも良かったが、俺が入った以上はハッピーエンドを迎えたい。

 絶対にゲームで起こったような悲劇は起こさせず、そして……やっぱりモテたい。とにかくモテたい。


 前世では碌に恋愛なんかしてこなかったし、俺が死に際に強く思ったことは彼女が欲しかった――だ。

 その夢を達成するためにも、俺はとにかくモテるために全力を尽くす。


 ……ただ、モテるためにはまず自分の命を守ることが最優先。

 まずは周囲の反感を買わないこと。ゲームのエリアスは周囲の反感を買ったことで部下に刺し殺されているからな。

 

 既に反感を買ってしまっているなら少しでも良い立ち振る舞いをし、身も心も生まれ変わったということを理解してもらう。

 ストーリー通りなら主人公も倒しに来るだろうが、部下に裏切られさえしなければ何とかなる。

 

 俺の頭の中にはゲームの知識があるからな。

 ただ、エリアスがどれくらいの能力を持っているのかは、『インドラファンタジー』をやりこんだ俺でも分からない。


 中ボスに設定されていた訳だし弱くはないはずなのだが、ゲーム本編では部下に戦わせるだけで、エリアス本人とは一度も戦うことがないまま終わってしまったしな。

 本当にヘイトキャラとして、プレイヤーをスカッとさせるだけの存在という記憶しかない。


 俺はそんな役回りは御免だし、死なないためにもモテるためにも、この世界にいるはずのゲームの主人公だった勇者を楽々追い返せるぐらいの力を身につけてやる。


 そうするためにまずやるべきことは……。

 俺はそこまで思考し、視線を下に落として爆発しそうな腹を見た。


 まずはこの醜すぎる体からどうにかしないといけないな。

 強くなるためにも、モテるためにもこの体では絶対に駄目。


 あまりにも太っているだけで、顔をよく見れば一つ一つのパーツ自体は悪くない気がするし、痩せるだけで他からの印象もかなりよくなるはず。

 とりあえず……最初にやるべきことはエリアスについてを調べることと、今俺がいるであろう『グレンダールの街』の探索。

 この二つを調べ終えてから、本格的にダイエットを始めて強くなるための努力を行う。


 エリアスの部下とはゲームで散々戦ったし、一人一人が強いことを知っている。

 背中から突き刺した女騎士の部下だけはちょっと怖いが、ヘイトを集めさえしなければ大丈夫なはずだ。

 大福のようにまん丸なほっぺたを叩いて気合いを入れ、俺はグレンダールの街に出てみることに決めた。


「…………外出するのって許可とかいるのか?」


 ドアノブに手を掛けたところで、ふとそんな感想が出てくる。

 仮にも貴族の息子だし、勝手に出歩くのはまずい気がしてきた。


 ただ、これから街で行おうとしているのは、あまりにもゲームの知識を使った作業のようなもの。

 誰かについて来られたくないし、ひっそりと抜け出るとしようか。


 部屋の中でエリアスの体重に耐えきれる紐を探し、窓から垂らして括りつける。

 安全面をしっかりと確認してから、俺は城のような家を紐を伝って外へと出た。


 ――よし。腹がつっかえて少し危なかったが、ケガをすることなく家からは出ることができた。

 ここからだが、ゲームの知識をフルに使って裏技のような動きを取る。


 まずは、街にある拾うことのできるアイテムの回収から。

 ゲームの世界のように宝箱が街中に置いてあってアイテムが回収できるのかどうかは分からないが、回収できるのだとしたら大きなアドバンテージを得られる。

 見つかる前に家の近くから離れた俺は、街にあるかもしれないアイテムの回収から行うことに決めた。


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