第50話

50



 

『どいうこと? 

 ね、みんな納得できるの? 

 なぎさの態度に。

 多恵子が可哀そう過ぎない?』



 それとも私に読解力が足りなさ過ぎて、何かを見落としているのだろうか。


 折角自分の中にあった不満を今度こそ解決できると意気込んだものの、

徒労に終わった虚無感は凄まじかった。何がって? ……。



 こうなったら多恵子が幸せになる続編を自分が書いてやろうじゃないか、そう考えたのだ。



 所謂こういう類の作品は二次創作というものになるらしく、どこにも

投稿はできない。



 だけど今書き始めるべき題材もない、ということもあり、自分の為だけのStoryをほとんど誰も読みに来ないBLOG上で紡ぐことにした。



 幸いにもと表現できるのか怪しいが、こんな風にして私は更に新しい目標を見付け、来る日も来る日も二次創作に励んだ。



 2週間ほどで書き上げた。



 多恵子には別の素敵なボーイフレンドができ、多恵子が好きな癖に

直球を投げず多恵子の気持ちを不安にしてきたなぎさにはお灸をすえる

ことにした。



 最大級のお灸を私は投下した。


 クリスマスの夜、なぎさになんだかんだいって本当は多恵子のことが

好きなんだと告白させるが、時すでに遅し。



 その二日前に多恵子はボーイフレンドからのプロポーズを受けていたという設定にし、なぎさは振られるという筋書きだ。


 酷いよね。


 作家の意図するところではない設定で私はなぎさに対して溜飲を

下げたのだ。


 書き上げた日は気持ちが良かった。


 だけど、主役たちを別れさせてしまった私って、酷いよね。


 そういう思いを抱えつつ、その後しばらくオンライン上で無料で読める

作品を読んだりして日々を過ごした。



 そんな中、表題に『愛』の文字の入った某作品に嵌りに嵌った。

 


 主人公は好きになって付き合っていた人から何がしかの行き違いで

こっぴどく振られ、その後、その彼の子どもを身ごもったことに気付きという流れで、主人公にはお定まりの幸薄い人生が待っているしかないという予感しかなくて、続編も読まずに自分で続編を書いてしまった。




 今度こそ、ルール的にも心情的にも……ほとんど誰も見ないような個人BLOG上にさえ、掲載できないというのに、続編を書くことに情熱を傾けた。



 ただただ、不幸な主人公を助けたかった。


『私、何やってるんだろう。

 オリジナルではなく、人様の書いたものに乗っかってばかり。


 後悔はないし、書くという練習にはなったと思う。

 だけど、もういい加減オリジナル小説を書かないと……』




          ◇ ◇ ◇ ◇





『愛』の文字の入った作品を書いて私に続編を書かせたいと思わせたその作家は、間もなくプロになってデヴューした。




 つい先日までアマチュアで投稿サイトに作品を投稿して披露していた人がプロになる経緯というか、それを見ていたというか、まぁいわば生き証人? みたいな立ち位置はなんだかこそばゆい気持ちがした。



 それと共にその人がプロになったのは自然の流れだよねとも思った。



 だってその人の作品には小説などほぼ書いたことのない人間に続編を

書かせたいと思わせるほどの影響力があったのだから。



『愛』の文字の入った作品を書いた人に触発されたこともあり、

 

 プロになりたいなんてそんな大それたことは考えないけど、とにかく

オリジナルが書きたいなぁ~と思うのだった。 






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