第5話 婚約指輪の話

 この話の落とし所をどうしようか、少々迷ったりもするのですが、今日は婚約指輪の話です。


 去年のこと。

 婚約指輪が少々きつくなり、冬はいいのですが、夏に嵌めると「きついなぁ」と思うようになりました。


 指輪って、そのデザインだったり、重ね付けする指輪との相性だったりで、フィット感が変わりますよね?


 結婚指輪は細いリングなので指通りもよく、そのままでOK。

 婚約指輪だけ、サイズを1つ上げて、サイズ直しをすることにしました。


 買ったお店は、地元からすでに撤退してしまったので、車で1時間半かけて、サイズ直しを依頼しに出かけました。


 そのお店では、「サイズ直しのできるお店に郵便で送って、1ヶ月かかります。1ヶ月経っても連絡がなければ、電話してください」とのことで。


 婚約指輪をもらった時もサイズ直しはそれくらいかかったので、了解です、と言って来たのですが、年が明けても、お店から連絡は来ませんでした。


 嫌な予感がするなぁと思いつつ、電話をすると。


「郵便で送った指輪が、送り先の店に到着していないので、今調べています。1週間経っても連絡がなければ、また電話ください」、だって!!! 


 わぁ、嫌な予感!!

 ……と思っていたら、結局、私の婚約指輪はそのまま紛失、ということになってしまいました。


 えええーー!!!


 ……わたくしの、婚約指輪。

 夫婦ともに結婚に対してあれこれ思うところはあり、でも、生まれて初めてもらった婚約指輪。


 無くなりました……。

 郵便事故、ということで。

(※大丈夫です。日本郵便ではありませんのでご安心を)


 無くなった指輪は、パヴェダイヤの付いた、金の指輪でした。

 結婚指輪とセットで付けるやつ。


 女性の装飾品は何もわからん夫が選んだものなので、正直、デザインなどは好みとは言い難いのですが、でも、思い出のものですよ〜〜〜。


 ショック過ぎて、日本の家族には今だに告白していません。

 婚約した時に指輪は見せたけど、きっとデザインなどは覚えていないだろうし。


 お店からは「購入時の金額と同額をバウチャーで出すので、お好きな指輪のご購入に充ててください。あ、指輪じゃなくても、靴とかお洋服にも使えますよ♡」と言われましたが、代わりの指輪の購入に使うことにしました。


「指輪にします。バウチャーと同額か、オーバーしても、ちょっとくらいなら」

「かしこまりました。もう、使っちゃえ〜! って感じですね♡」


私の心の声:(…………何ですかそれ)


 それにしても、婚約指輪が無くなる、というだけでちょっと心が動揺しましたね。


「これって、何か不吉な感じ!?」

「この結婚生活、大丈夫なの!?」


 思えば、若い時には、なんと家に空き巣に入られて、持っていたアクセサリーをごっそり盗まれたこともありました。


 高価な物ではないけれど、父が若い時に母に初めてプレゼントしたペンダントヘッドを指輪にリフォームしたやつとか、父が買ってくれたラピスラズリのピアスとか、思い出のあるものも無くしてしまいました。


 そんなことがあったので、無くなる、ということに対してショックが大きかったのかもしれません。


    * * *


 さて。

 今、手元には新しい婚約指輪があります。


 お店で、夫はジュエリーショップに興味がないので、どこかで見つけてきた椅子に座り込み、「好きなの選んでいいよ」と言った後は、お買い物が終わるのをただ待つ姿勢に突入です。

 ホームセンターじゃなくてごめんね。


 店員さんと2人で、ああでもない、こうでもない、と話しながら、自分だけの趣味で指輪を選ぶのは、案外楽しかったです。


 不思議なのは、値札が付いていなかったこと。

 それでひとつひとつ店員さんに値段を聞かないといけなくて。

 おかげで時間がかかったけれど、無事に新しい指輪を選ぶことができました。


 ようやくお買い物が済んで、サイズ直しを頼んだので、もちろん手ぶらでの帰宅です。

 車を運転しながら、夫が言いました。


「満足した?」

「え?」

「婚約指輪。自分の好きなデザインを選んだんでしょう?」


 あ、そうか……!

 1つは無くなってしまったけれど、私、婚約指輪を2つも貰ったのと同じだね。

 しかも、夫から貰ったものは、デザインが自分にとっては今ひとつだったことも、バレている。


 そうか、自分の好きなデザインで、もう1回、婚約指輪を作るチャンスを、貰ったのかもしれない。


 私はようやく、何だか嬉しい気持ちになりました。


「うんうん。もう満足したよー!」


 ヘラっと笑った私に、夫は「良かったねえ」と言ってくれたのでした。

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