第4話 着物のリフォームを楽しむ

 今でも後悔していることがあります。


 それは、母が作ってくれた着物のこと。

 母は、私が7歳の時と、20歳の時に、振袖を作ってくれました。

 気軽に着れるものも、ということで、淡いピンクの小紋こもんも作ってくれました。


 それらの着物は、全て、もう残っていません。


「もう着ることはないから、いいよ」


 ずっと私の着物を保管してくれていた母がある時、「取ってある着物、どうしようか?」と聞いてきた時の、私の答えがそれでした。


 母は若い頃、趣味で和裁を習っていて、その関係で自分の着物もたくさん持っていました。

 歳を取ってきたし、そろそろ荷物も整理しよう、ということだったのだと思います。


 そして、あっさりと私から返事が来たので、母は私の着物を処分したのでした。



 回り回って、現在。

 私の趣味は、着物のリフォームです。


 母から古い着物をもらって、解いて手縫いでTシャツやチュニック、ワンピースなどを作っては楽しんでいます。


 いかにも着物、という感じの絹の着物にはまだチャレンジしていませんが、つむぎや綿の浴衣の半幅帯などを使って、リフォームをしました。


 ミシンはないので、手縫い。

 ちくちく縫うのは、時間もかかりますが、すごく集中する時間でもあるんですね。


 小説を書いたり、家事をしたりに疲れたら、ちくちく縫い物をするのが、私の趣味になりました。


 そこで、思い出すのです。

 母に「もう着ることはないから」と言ってしまったこと。


 着物としては着なくても、服を作ったり、小物を作ったりして、思い出の着物を手元に置くことができたのにな、と。


 手元には、田舎に引っ越す前に母がくれた、銀色がかった綺麗なグレーの小紋こもんがあります。

 もったいなくて、まだ解いてもいないもの。

 まだ何を作るか、色々検討中の着物です。


 来年は、久しぶりに母に会いに行けるかな、と思っています。


「好きな着物はいくらでも持って行きなさい」

 母は気前よく、そんなことを言ってくれます。


 母がよく自慢していた、ろうけつ染めのおしゃれ着。

 着やすいようで、よく着ていた、ちょっと渋いつむぎ

 父に作ってあげていた、紺のウールの着物。今も残っているのかな?


 着物の1枚1枚に思い出が残っています。


 着物のリフォームは、なんだか、そうした思い出を新しいアルバムに貼り替えていくような、そんな作業なのかもしれません。


「何を作ろうかな」


 そんなことを考えながら、膝の上に着物を広げている時。

 そこには、温かな時間が、流れています。

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