第2話 深夜のファミレスにて 2
僕は謎の知らない男と対面して話す事になった。
だが、僕は急に何を質問したら良いか頭に何も思い浮かばなかった。
黙ってると男は喋り始めた。
「お互い何も知らないし、個人の意見を言い合うならお互いが何も知らないほうが俺は寧ろ良いと思う。だから俺から君の身の上話は聞かない。俺は色々な事について一から十まで喋ってしまう方だけど、それはあくまで俺の『意見』だと思って欲しい。簡単に言えば真実なんかとは程遠いものだと自分でも思っている。あくまで、今の、俺が、思うことを、喋ってるだけだ。風が通り過ぎてった位に捉えて聞いてほしい」
僕はこの目の前の男の人のニックネームを心の中で「風さん」と勝手に決めた後で返事をした。
「分かりました」
「俺がさっき話してた内容は別になんの根拠もないんだ。ただ俺が思った事を言葉にしただけの話だ」
僕は言った。
「いや、でも、今の日本社会はこれからなんの能力も取り柄もない人達は生き残れない社会になっていくだろうと言われています。大学を出ても即戦力にならない人間を企業は中々採用しないし、1から人間を育てる事に力を注ぐ企業は少なくなってるようです」
「企業が人を育てなくなっているという傾向は確かにあるんだろうな。終身雇用制が崩れて一つの会社で働き続けることが当たり前でなくなった。だから人が辞めてくのが当たり前になった。従業員の入れ替わりが激しい中でいちいち人を育てようとする気には俺が社長だったとしても正直なれない。まあこれが僕の意見だよ」
「じゃあ、これからの日本人の働き方はどうなっていくと思いますか?」
「そうだな。お金があるならニートのように馬鹿らしくなって働かない人も出てくるだろうし、これからはフリーランスが増えていくと言われている。実際働かないと食べていけない人は独立して起業する人が増えるんじゃないかと俺は思ってる」
「なるほど、じゃあ収入が不安定なフリーランスで食べていくだけのお金を稼ぐためにはどうすればいいと思いますか?」
「それは、先程の君にも聞こえていた話に戻る。フリーランスで独立した人自身が教祖的になるよう務める、または振る舞う事が求められるだろう」
「なんか僕には、どうも話が飛躍しすぎてるように感じます」
「まあ、極論で怪しげなに表現するなら教祖的ということになるだけで、優しい言葉で言えばこの人になら自分のお金払ってもいいって思われるくらい好かれる人間になれっていうことなんだよ。教祖的であるという事はそういう事だと俺は思ってる」
それを聞いた僕はなんだかちょっと騙されてたような馬鹿らしい気持ちになった。
好きでもない奴の商品なんか買うわけがない。
あまりにも当たり前過ぎる話だと思って、勇気を出して話しかけた自分が馬鹿みたいに思えた。
「君は多分、今僕の事を、当たり前のことを過激に表現しただけの男に思ってるかもしれない」
僕は遠慮せずに答えた。
「8割以上そう思ってます」
「でも事業が上手くいかない多くの人はその事を見落としているんじゃないかと俺は思うからそういう意見を言っている。殆ど同じようなものを売ってるAさんとBさんがいるとする。商品の品質に対する努力は同じだとしよう。そしてAさんは人に好かれる努力をしている。Bさんはそれを怠けてる。さて多くの人はどちらから商品を買うかな?多くの人はAさんを選ぶんじゃないかな?」
何もかも理詰めで来る男、風さんに、僕はなんか返事をする気も失せて、黙り込んでしまった。
最初は僕の興味を引いたが、なんか段々と腹が立ってきた。
でもその気持ちを抑え込んで最後に一つ質問をした。
「人に好かれる人間になるにはどうしたら良いですか?具体的な提案はありますか?」
「うーん。そうだね。これは型にはまった正解はないと思う。けど、多くの人にできそうな内容だと、明るく穏やかな自分を演じることかもしれないね。そこには人が近づきやすい安心感があるから。とは言っても……こんなのは一概にこうだって言える事柄じゃない。自分に合った無理のない設定を自分で試行錯誤していくものだと思う。残念だけど、俺はここから先の意見は持ち合わせていない。でも一つ好かれるためのヒントになるような事があるとすれば、それは好かれるためには必ずしもお金が必要であるとは限らないということだ。つまりお金をかけなくても人に好かれる可能性は十分この世の中に広がってると俺は思っている」
腹も立ったけど、この風さんの意見には少し納得いく部分を僕は見出した。
なんとなくだけど、風さんは好かれるためには自分自身の人格や心、品性を研くべきだと言ってるような気がした。
僕はそれは口に出さなかったけど、代わりに一言お礼を言った。
「ご意見いただき、ありがとうございました。今日はそろそろ帰ります」
「うん、気をつけてね、こちらこそありがとう」
僕はお会計を済ましてファミレスを出た。
ファミレスを出てから、僕は自分のアパートに帰ることにした。
片田舎の県道沿いを歩く。
うるさいエンジンの音を立てる原付きに2人乗りした地元のヤンキーが、馬鹿みたいな大きな声で喋りながら走り去っていく。
こんな時間に走ってるなんてよっぽど暇なのだなと思った。
でも自分もバイクに乗ってるか乗ってないかだけの事で大した違いはないような気がした。
この地方都市に僕は進学で大学生としてやってきたけど、閉鎖的でしかも何処か生ぬるく居心地は良いものではなかった。
今日話しかけた風さんも、今思い返しても理屈ばかりこねる変わった人だった。
クセのある田舎に来てしまったと思った。
自分の住むアパートに着いてから、ベッドに横になり僕は眠りに就いた。
人間の真実の姿(タイトル仮) 221 @2tsu2tsu1i
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