星と化け物
(…なんで、こんな昔の事を今更思い出すんだろう)
ベッドに横たわったまま、ぼんやりと窓の向こうを眺める。
今夜は、300年に一度の大流星群なのだという。
ここ数日、テレビもスマホのニュース番組もその流星群の話題で持ちきりだった。
娯楽の少ない病院では、皆"楽しさ"に飢えていたらしく流星群を見る為に屋上に行ってしまい、広い病室に一人きり残された僕はただもうじき来るであろう最後の時を待っていた。
「やぁ、久しぶり。元気にしてた?」
一人きりの静かな病室に、懐かしい声が響く。
ベッド側の窓の向こう。そこに居たのはたった今思い出していたばかりの化け物だった。
化け物の姿は記憶の中のものと何ら変わりはない。
変わったのは、僕だけだ。
出会ったあの日。まだ幼かった手は、今では皺が多くよった枯れ枝に似た手に変わってしまった。
「約束、守りにきたよ」
そう言って微笑む姿は、正体が化け物だとはとても思えない程に優しく、穏やかだった。
その時、窓の外。視界の端に一筋の光が流れる。
その一筋の光を皮切りにして、暗い夜空を埋め尽くすように数多の星が降り注ぎ始める。
「綺麗だねぇ」
星の降る夜空を見上げながら、化け物はあの頃と変わらずのんびりと僕に話し掛ける。
「……そうだね」
もう見れないのが残念だ。そう呟くと化け物はどこか不思議そうな顔で僕を見た。
「…?どうして?また次も一緒に見ればいいのに」
まさか、化け物は知らないのだろうか。人間の寿命は長くとも100年だということを。
僕は化け物よりもずっと早く死んで、そうしたら2度と会うことはないというのも。
「…うん、そうだね。また一緒に見よう」
それでも。300年先の夜も今と同じように隣で星を見上げる未来を当然のように話す化け物に、僕は果たされない約束を重ねた。
この夜空に輝く星の光は、本当は遥か遠い過去の光なのだという。
僕の命の灯火はもう潰えてしまうけれど、この星灯りのように。この交わした約束で300年先の夜、この化け物が僕を思い出してくれたなら。
「ねぇ、君にぴったりの名前をずっと考えてたんだ。…聞いてくれるかい?」
これだけの星が一面に流れているんだ。もしかしたらこの中の一つくらいは、僕の願いを叶えてくれるかもしれない。
願わくば、いつの日かまたこの化け物と出会えるように。
……そして、その時は。永い時の中に、ただ一人置いていかれる化け物と同じ時間を共に過ごせたら。
「君の名前はーー」
叶うはずもない"永遠"を願ってしまった心には鍵を掛けて。
僕は、静かな眠りについた。
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