ダメだった

ダメだった


やっぱりダメだった


下り坂を歩く足が少しずつ早足になる


分かってたけど


分かってたのに


握りしめた手に力がこもる


わたしの顔が可愛かったら


わたしの性格が明るかったら


まぶたの下が熱くなって

噛みしめた唇から血が出そうだった


でも、そんなのもうわたしじゃない


悔しくて吐きそうで

早く家に帰りたかった




家に帰ると重たい服を脱ぎ捨ててバスルームに駆け込む


手探りでノブを捻ると勢いよく飛び出したシャワーの冷水が身体を打った


胸を締め付けるような冷たさが身体を通り抜けて

わたしは立ち尽くす


声が出なかった


自分が泣いているのかさえ分からずに壁に額を押し当てる




どれくらいの時間そうしていたんだろう


気がついたらシャワーは温かいお湯になり


わたしはぼーっと足元に落ちていく水滴を眺めてた




バスルームから出ると手早く髪を拭い


脱ぎ捨てた服を洗濯機に入れて回す


冷蔵庫の中は空っぽで


仕方なく蛇口からコップに水を注いでソファーに腰掛けた


ダメだった


ダメだったけど


思い出すあなたの笑顔



首筋


伝えられてよかった


好きでいられて


会えるだけで嬉しくて


姿を見つけると目で追ってしまう


ダメだと分かっていても伝えたくて


夜何度も決意して


朝何度も挫けて


あなたの前に立つ時には足が


声が震えて


それでも最後はあなたの目を見て言った


「あなたの事が本当に好きだった」


だから


不意に言葉になってこぼれた気持ちに


わたしは抱えた両膝の間に顔をうずめて泣いた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る