第2話 新たな目標
「過程はいらない、人生は”結果”だけが求められる」、小さい頃よく父親が口癖のように言っていたのを突然思い出した。
トラックに轢かれて命を落とすまでは、俺は父親の言葉には納得がいかなかった。過程を経て結果に繋がるように、何も勉強せず100点をテストで取るなんて不可能であるからだ。だから、俺は結果も過程も大事だと思っていた。
けど、やっと父親の言っている意味が理解できた。結局、あの出来事で俺の努力は無意味になった。両親に認められようと頑張った日々、馬鹿にしてきた周囲を見返そうと試行錯誤を重ねてきた時間。どれだけ努力をしたとしても、死んでしまえば無駄になるのだ。
それにしても、これからどうしようか……。絶対に目覚めることはないと、思っていたのに何故か俺は意識が覚醒していた。
シャンデリアが吊るしてある見覚えのない天井。俺が寝転がっているベッドのシーツからは上品な匂いが鼻腔をくすぐる。まさか自分が転生するとは思わなかったな。
そう、俺は転生していたのだ。
自分が転生している、と確信することができたのは数分前のことだった。意識が覚醒した時、俺は見知らぬ綺麗な女性の腕の中で眠っていた。
彼女は俺が目を覚ますと、聞きなじみのない言葉で話しかけてきた。
だが、その話の内容なんてどうでもよかった。なぜなら、彼女が高校3年生の男子を苦しそうな顔一つせず持ち上げている状況に驚きを隠せなかったからである。
何だか嫌な予感がする。とりあえず、今は自分の置かれている状況を把握することにしよう。そう考え、俺は彼女の瞳を覗くように見ることにした。
う、嘘だよな………彼女の瞳に映る信じられない光景に俺は何度も目を疑った。生えたての髪、一回り二回り小さくなった体、童顔。そう、俺の姿は赤子になっていたのだ。
そこで気付いたのである。俺は新しく生まれ変わっているということに。そして彼女の話す理解できない言葉、彼女が西欧のような彫の深い顔立ちをしていることから、ここが日本でないことも分かった。
今になって状況を振り返ってみると、落ち着いて物事を考えることができるが……当時の自分は見ている光景1つ1つが夢なのではないかと疑心暗鬼になっていた。
俺はなりたい職業や叶えたい夢といった明確な目標を持っていない。ただ自分は”両親や周囲に認められたい”だけだった。しかし、認めてもらいたい相手がいなくなった世界で俺は何をして生きていけばいいのか。
勉強をしなかったせいで、俺は両親から期待をされなくなってしまった。だから、俺は死に物狂いで大学受験で見返してやろうと決意した。
この人生では、そんな失敗が二度と起こさないようにしよう。前世よりも何倍も努力して誰もが認める存在になればいい。
そうすれば、蔑んだり自分を見下すような視線を浴びなくてもよくなる。常に周囲から「やっぱり凄いね」「天才すぎる」と称賛される毎日を送られるようにしよう。
そう新たな人生の目標を設定した後、とんでもない眠気に襲われてしまい俺は柑橘系の匂いがするシーツの上で深い眠りに着いた。
そうだ、異世界で承認欲求を満たそう! 大木功矢 @Xx_sora_xX
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