そうだ、異世界で承認欲求を満たそう!

大木功矢

第1話 過去のお話

 承認欲求は人間の誰にでも存在している。


 承認欲求の大小は人によって変わってくる。優れた人間であれば周囲から良い評価を貰っていたので承認欲求は小さくなる。しかし、学力や運動神経が悪く、誰からも期待されない人間の承認欲求はどんなに大きくなっているだろうか……。


 答えは簡単である。そう、怪物になっているのだった。

 

 全国で最下位の学力。運動神経とリズム感は皆無。後先を考えず直感的に行動する性格。そんな俺――馬都鈴鹿うまとすずかは両親からも期待されることはなく、周囲の人間からは玩具おもちゃのように扱われる毎日を送っていた。そんな毎日だったが、別に俺は辛いと思わなかった。


 なぜなら、この原因を作ったのは自分だからだ。生まれた環境や両親は自分では選ぶことができないので仕方がない。


 だが、身体が出来上がるまえに習い事や勉強に時間を多く費やしていれば未来は変わっていたかもしれない。だから、結果的にこうなる原因を作ったのは紛れもなく自分なのである。


 しかし、馬鹿にされる毎日が辛くないといえど、この現状を変えたい気持ちはあった。いつまで経っても成長しない自分に苛立ちがあった。


 あと1か月ほどで大学受験がある。俺が受験しようとしている大学は”超”が付くほど難しいとされている難関大学である。この大学に合格することができれば、自分は成長できているという証明ができ、両親に期待されない自分とおさらばだ。


 現状、俺がその大学に合格できる確率は良くても2割といったところだろう。高校1年生では全国で最下位を記録し、そんな自分を馬鹿馬鹿しいと感じたことが勉強を始めるきっかけだった。


 約2年ほど勉強したところで、劇的に頭が良くなるわけではない。それまでに自分に合った努力の仕方、文系や理系どっちの頭脳をしているのか、苦手な科目を克服する時間など成長するにはあらゆる面を改善する必要があった。


 高校1年生では底辺の頭をしていたので、まず俺は中学生の復習から始めることにした。徹底的に基礎を頭に入れることで、応用の問題が解けるようになるからだ。


 そんなことをしていたら、大学受験まではあっという間だった。まだ時間が足りない。まだ至る所が自分には不足している。時の流れは自分が思っているより何倍も速かった。


 残り1か月……合格に限りなく近づくためには苦手な科目を平均点が安定して取れるようにするしか方法はない。


 国語、英語と俺は文系の科目が大嫌いだった。英語は日本で生活している限り、滅多に使わないのに、どうして勉強する必要があるのか……国語も古文や漢文といった現代では使わない文章の表現方法や読み方などを今更勉強する意味が理解できないからだ。

 

 こういう卑屈な思考をしているから、俺は文系の頭脳ではないのだろう。物事を論理的に考え、1つの正解に導くことが俺の性格的に向いている。


 もう基礎を叩きこむ時間はないので、自分が受ける大学の過去問を解きまくることにしよう。その前にやるべきことがある。そう、勉強するうえで必要な糖分がない。


 糖分が足りなくなると頭が回らなくなってしまうので、もう夜中の11時だが俺は寝巻きの上から厚着のジャンバーを着て家から出発した。


 当たり前に外は暗かった。12月なので日が落ちるのが夏と比べて早い。それに物凄く寒い。まあ、これも当然のことである。


 このままだと風邪を引いてしまうかもしれない。今の時期に風邪になってしまったら大変なので、ならべく早く帰ってこよう。


 俺はジョギングのようにテンポよく走ってコンビニに向かった。信号機が正常に作動していない。俺が住んでいる町が田舎なのか、深夜帯の時間になると信号は黄色のまま変わることがない。


 でも、あまり心配する必要はない。いつもより車が走っている台数も少ないので、このくらいなら信号が機能していなくても事故が起きる可能性は低いだろう。


 念のため、横から車が来ていないか確認しながら横断歩道を渡っていくが、コンビニの前にある最後の横断歩道だけ俺は面倒くさくなってしまい確認せずに渡った時だった……。まさかの右から大型トラックが猛スピードでこちらに走ってきていた。


 フロントライトが点灯しておらず、スピードが緩まることなく接近してくる。どちらに避けようか考えていた時には、もう手遅れになっていた。


 今まで感じたことのない衝撃が全身を貫き、俺を跳ね飛ばした。その後、俺は車道のコンクリートに強く頭を打ち付け意識を失ってしまい、それから俺がで目覚めることは永遠になかった。

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