第14話
生き残ったか、そうガノンダールはアスフォデルスの動向を纏めた手紙を読みそう思った。
力を失ったアスフォデルスが魔族を退けたという事は、余程の実力者を味方につけたという事らしい。そう判断し、彼は別の手紙に手を伸ばす。……それは盗賊ギルドに依頼を出し、纏めさせたアスフォデルス周辺にいる人間の情報を纏めた物だった。
ざっと目を通したが、大した事が書いていない。バルレーン・キュバラムに関しては、不凋花の迷宮を踏破してから一週間後に南方へ一人旅立った事ぐらいが目を引く事だ。
ユーリーフと名乗る黒髪の女魔術師に関しては、それ以下で何も載っていない。
……ガノンダールはこれを何かの擬装であると判断、これは何も掴めなかったのではない。そうする様に仕向けられたのだ、それをするに足るだけの力を持っているのだと考えた。
ならば、いよいよ籠城戦の準備を始めよう。
アスフォデルスの動きは掴んでいる。問題なのは、あの女だ。
ファングイン、というあの剣士。人族の女にしては異常な身長を持ったあの女、ユーリーフと同じく調べ上げても何も解らなかった存在。
恐らく、何かある。
× × ×
「いいか、お前等。これはお前等に巡ってきた絶好の機会だ」
真新しい短槍を担いだ男に呼ばれてバルレーンは街の裏路地にいる。光の射さない都市の隙間には、浮浪者すら住み着かない王国治世の闇だ。そして赤髪の女盗賊と黒髪の女魔術師はなんだかろくでもない気がするなーという内心を押し殺しながらも、彼の話を聞いていた。
「一体全体どうしたのさ、おっちゃん。ボク、結構遠出してきたばっかなんだよ?」
「……何が、あったのですか?」
ユーリーフは露骨に警戒心を露にし、バルレーンは物怖じせず何時もの調子で短槍の男に向かって話す。
「お前等のとこにあの貧相な子供がいるだろ? ……実はあの子供を欲しがっている方がいらっしゃる」
「あ、なになにー。人攫いの話ー? いっけないんだー、これ盗賊ギルドにチクったら即警吏か暗殺者が来ちゃうぞー?」
イシュバーンの様な都市部において、バルレーンが言う様に人攫いというのは禁忌だ。露見すれば都市の秩序を乱したとして冒険者ギルドなら警吏、盗賊ギルドならお抱えの暗殺者がやってくる。
「いいか、よく聞けお前等。これはお前等だけに言うんだ……いつまでも冒険者が出来るなんて思うな」
「なにさ、急に」
「今はいいさ、身体が動くんだから。でもな、これが十年、二十年と経てば話は違う。……その間、上手い引退先を見付けられればいいがそんなの一握り、大抵は物乞いをやるのが精々だ」
短槍の男の年齢は三十代後半。市民なら当に所帯を持って養い、冒険者ならそろそろ引退を考えるか、別な職に就かなくてはならない年齢である。男の声には焦りが薄っすら滲んでいた。つまりそれは、この先自分はどうなるんだろう、どうすればいいんだろう……酒の奥に隠した将来への不安である。
「お前等が、この話に乗るんならだ……報酬を折半してもいい。直接あのガキを引き渡せば、報酬は桁違いに跳ね上がる。それを分けてもこれぐらいは貰える」
男が右手の五指を差し出す。それが意味する所は、必要経費を差し引いても新しい商売を始める頭金としては十分過ぎる程だ。
「へぇ、そんなに」
「……法外な額ですね」
「あぁ、最低でもだ。でももっと貰える可能性だってある」
二人が適当に打った相槌を、話に食いついたと勘違いしたのだろう。男は彼女達に対し、一等下卑た笑みを浮かべた。
「お前等、金がいるだろう?」
「……」
「まぁね」
「女三人、つるんで生きるには世知辛い世の中だ。でも、このぐらいの金があれば少なくとも一安心は出来る筈だ。安宿暮らしから、ちゃんとした部屋を借りられる。冒険者なんて仕事から足を洗う事も出来るだろう……何もかもお前次第だ、さぁどうする?」
そこで短槍の男は彼女達二人に答えの決まった選択を迫った。それに対しバルレーンとユーリーフは――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます