8.帝立学園とダンジョン
「あら、お兄様ごきげんよう」
教育レベルが上がっていくと、王都に貴族専用の帝立学園が完成した。
貴族の子弟はこぞって帝立学園へと通い、学力の向上に励んだ。
だんだん都市学校、地方学校と簡単な初等教育機関が増えていった。
そうして中央貴族から庶民へとじわじわと学校教育が広がっていく。
「令嬢、婚約は破棄させてもらう!」
たまには婚約破棄というとんでもないことが学校パーティーでなされ、貴族たちをあきれさせたなんて話も聞かれるようになった。
どこの世界にも常識から外れた行為をする人はいるらしい。
「見たか、アイテール、婚約破棄だって」
「見ましたなのじゃ。実際に目撃することになるとは、世の中の業は深いなのじゃ」
もちろん俺たち神様たちからは楽しい劇のように見る事ができた。
当事者からしたらたまったものではないだろうが、しょせんは他人事だ。
帝立学園では最先端の教育を集中的に行うことで、その研究も進むようになってきた。
特に騎士や魔法使いといった戦闘職たちが人伝に伝授してきた今までの伝統とは異なり、体系的に生徒たちに教えるという方法は思った以上に戦闘力の強化につながったようだ。
昔はもっと強かったという話だが、さすがの帝国も最盛期よりは戦力に劣るとされていたのが、挽回できるようになっていたのだ。
大人数よりも少数精鋭で任務をこなすことができるという点においても、集中的な学習と戦闘力の強化は実際に有効だった。
そうそう、俺たち神は暇だったので、この数百年の間にダンジョンを作って遊んだりもした。
世界のあちこちに冒険者を飲み込むダンジョンが今でも残っている。
帝国の帝都のほど近くにも初心者向けのダンジョンをひとつ作っておいたのだ。
そのため、帝立学園での戦闘職はこぞってダンジョンへと向かって行き、戦闘をして実績を積んでいった。
出るモンスターもスライムからゴブリン、オーク程度までとそこまで強くないこともある。
中には珍しいアイテムもドロップするように設定してあるはずなので、宝さがしの楽しみもあった。
こうしていつの間にか世界のあちこちにあるダンジョンでは冒険者たちが一獲千金を求めてアタックするようになり、冒険者という職業も日の目を見るようになった。
昔は傭兵などはともかく、冒険者なんてと白い目で見られたものだったが、時代は変わる。
「まあ剣と魔法、冒険者の世界にしたいしな」
「ルンガ様って、とってつけたように、後で考えたなのじゃ」
「ぐはは。いいじゃないか、実際そうなのだし。楽しいじゃん、ダンジョン」
神様の遊びだとも知らずに、ダンジョンへと向かって行く冒険者たち。
実益があるので、問題はないのだが、神視点ではなんだか釈然としない部分もある。
現実世界とルールがちょっと違う、例えばダンジョン内なのに空が見えて太陽があるなどは、結局、神が遊んだ跡だったのだ。
死体が消えてしまうとか、ドロップ品が残るとかもそうだ。
初代ダンジョンマスターは実は神様だっという落ちで、その後の管理を受け継いだものもいた。
ダンジョンコアも管理システムの一部だった。
もちろんただ遊んでいるだけではなく、一応でも神にも考えがあるのだ。
「いずれ魔王が復活する。アイテール?」
「そうなのじゃ、わわ、忘れていたわけではないぞ」
「じぃぃぃ」
「なんだその目は。いいのじゃ」
「まあいい。ということで戦闘機会を与え、全体の戦力底上げはしておきたい」
「なるほどなのじゃ」
「そこで冒険者や騎士を鍛えるのに便利なのがダンジョンシステムということだな」
「えらい!」
「俺、かしこいだろ」
帝立学園の生徒たちも初級ダンジョンへとパーティー単位で入っていく。
もちろんそこには死もあり得る世界で、命を懸けていた。
必死に戦闘する生徒たちとモンスターは戦いを繰り広げていく。
恋愛しちゃったり、友情があったり、裏切りがあったりと色々な物語がそこにはあるのだろう。
神視点ではすべてがさらっと流されていくが、それはご愛嬌ということだ。
神託もしていないが、受け入れているので、大丈夫だろう。
今度卒業試験のダンジョン最下層へのアタックが行われるらしい。
みな装備を強化して、ポーションもしっかりもち、各自役割を再確認する。
最下層はオークばかり出る階層だった。
その階層の奥にはボス部屋があり、オークマスターというモンスターが確認されている。
これを討伐してその魔石を持ち帰ることができればクリアだった。
時間を開けつつ、何パーティーもダンジョンへと挑戦する。
いずれもここで何回も戦ってきた騎士や魔法使いたちであり、練度も三年も通えばかなりのものとなった。
ダンジョンマスターを譲ってから長いので、もう忘れてしまったが、集まってきた魔力を再びモンスターの出現に割り振って管理しているダンジョンコアが今も稼働していた。
これはボス部屋のさらに先にある隠し部屋にあるため、なかなか発見できるわけではなかった。
ちゃんと隠しておかなければ、面倒なことになる。
まあ大丈夫だろう、たぶん。
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