7.帝国
西には旧魔王領があり大森林が広がっていた。
今も人類の数は少ない。
東には帝国が誕生してかなりの年数が経っていた。
帝国は併合を繰り返しかなりの土地を治めている。
陸路の整備にも積極的で街道を国内に張り巡らせて経済の発展を促していた。
中央には勇者を召喚した王国があり、今もその歴史を刻んでいるが、衰退して久しい。
今は王国よりも帝国が世界の中心地として機能している。
南にも大森林があり、世界樹が生えており、その麓には多くのエルフが森の中に住む。
さらに南には海が広がっている。
大陸はコの字型をしていて、地球でいう内海があり、そこに王国があった。
東の果てには砂漠があり砂漠の向こうには、違う人間の文明がある。
「帝国が世界一だ!」
「んだんだ」
「帝国、万歳!」
「帝国、万歳!」
「帝国民でよかった!」
年に一度、帝国では建国記念日が開かれる。
町では肉料理が無料で市民に配られるというから、その財力は大したものだ。
帝国は王国の衰退を反面教師としており、今も軍事にも民間にも手を抜いていない。
一番力を入れているのは農業と畜産で、食糧生産が強い国はやはり強いのだろう。
勇者伝説から千年。
衰退した王国というのも昔の話であり、今ではそこそこではあるが栄えている。
しかしそれ以上に栄えているのが帝国で、みんなの自慢だった。
人類は小競り合いで土地の奪い合いはしている。
しかし帝国が一方的に勝つことが多く、あまり正面切って戦うことは少なかった。
「そういえばルンガ様」
「なんだ、アイテール」
「ワシが女神として神託したので、宗教がアイテール教になってしまったなのじゃ」
「そうだが、まあいい。ルンガ様ルンガ様と崇められてもあまりうれしくはない」
「そうなのですじゃな」
「ここ千年、とくに何もイベントも起きなかったので、適当に見てきたが、宗教の影響も減ってきたな」
「そうなのじゃ。神託をしていなかったのじゃ」
「いきなり神託したらびっくりさせるしなぁ」
「なのじゃ」
アイテール教は相変わらず信奉されているものの、神が実際に神託をしたというは眉唾ではないかとも言われるようになっていた。
最初は誰もが信じて疑わなかったのに、やなり時間というものは、変化が起きるものなのだろう。
宗教が弱くなったのも王国の衰退の原因の一つだったようだ。
一応、今でも王国の王都はアイテール教発祥の地として有名な観光地ではあるが、やはり観光地という見方が強い。
現代的な科学が発展した世界では、外の観測できない神様は少し軽んじられる傾向が見られた。
まぁまだ科学といっても錬金術に毛が生えた程度ではあるが、傾向としてはだんだん宗教観の薄いものとなっていくのは事実なのだろう。
「まあ別にいいんじゃがな」
「だろう」
人間たちが勝手に遊んでいる分には構わない。
こちらまで手を出してくることもまずないし。
しょせん、人間は人間にすぎず、そこまでの力を持っていないともいえる。
神の持つ力に比べればとても小さい存在だった。
帝国はそういう意味で、魔法科学という独特の錬金術や数学を基礎とする先端科学を発展させていくようになる。
魔法銃の開発やポーションに加え人体解剖による外科的な手術の発展など、色々な分野が進展してきていた。
まだ地球世界の二十世紀には劣るものの、中世ヨーロッパよりはよい生活をしているようだ。
魔道具も再び開発が活発化しており、大型の粉ひき所なども設置されるようになっている。
小麦粉も綺麗なものが生産されるようになり、パンの質も上がった。
昔は砂などが入り込んで、食べるとジャリッとするものも少なくなかったのだ。
奴隷制などというものも、一時は犯罪奴隷などが頻繁に取引されたものの、近年、人権意識というものが発明されて、奴隷制の廃止へと向かっている。
「ついに奴隷廃止か」
「ふむ、思ったより早かったのじゃ」
正式に奴隷制は廃止され、法律上は誰でも公平ということになった。
もちろん犯罪者は刑務所で収監されるように変更になった。
刑務作業は服の製造など、わりと近代的なものだ。
機織り機の改良やミシンという装置の発明も関係していた。
機械の発展はちょっとずつ進んでいるものの、まだ大規模機械は運用されていなかった。
これには鉄製品の量産化なども関係してくるので、もう少し先だろう。
新聞のハシリのようなニュースペーパーは登場していた。
広告と新しい話題をセットにした数枚の紙に、インクで印刷したものだ。
木版画では難しいため、活版印刷が使われるようになった。
同時に文字のデザインが統一されて、活字が使われるようになったのだ。
今までは筆記体のような続き字で書く人が多かったが、ブロック体主流になっていく。
読みやすいブロック体が主流になるとそれの読み書きを教えるようになり識字率も急上昇する。
こうして教育レベルも上がっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます