6.過去の栄光
勇者が魔王を倒し、平和が訪れた。
「勇者様、万歳」
「聖女様、万歳」
王都ではパレードが開かれ、大歓迎を受けた。
「勇者様、素敵」
「お、おう」
こうして姫様との婚姻も許可され、めでたく勇者カウルは姫様と結婚したのだった。
豪華な晩餐会は国の威信をかけた。
美味しい料理が所狭しと並んだ。
一級品のワインに魚、肉にふわふわなパン。
なにもかもが素晴らしかったという。
年を取ったタクヤは地球の知識を活用して、カウルと共に国を発展させた。
しかしタクヤも地球へ帰ることなくこの地の下に眠ることになる。
「ふう、一段落だったが、ここからだな問題は。なぁアイテール」
「ルンガ、そうなのじゃ」
「王国の衰退だな」
転移者の元勇者がいなくなった後、勇者カウルの治世がはじまった。
しかし国内はどんどんと堕落していく。
魔王軍の攻撃がなくなったため、軍の動員もなくなり、緩み切っていく。
足元から国が崩壊していくのをカウルは見ているしかなかった。
失意のうちに彼も天国へと旅立っていった。
こうなると国はもう戦争時代のほうがまだ発展していたと思うような堕落ぶりだった。
構築した下水道も整備されず、老朽化していく。
国軍はまともな戦力すら整えられない。
そこで台頭してくるのが周辺国たちだった。
彼らは魔王討伐を横から眺め、王国の繁栄もずっと妬ましく思っていたのだ。
周りの国はどんよくに最新技術を取り入れ必死に国を豊かにしていたのだ。
そんなこんなで王国の国際権威も失われつつあり、周辺国が大きな顔をして国境では小競り合いが続いている。
それでも人間同士ということもあり、戦争はなあなあで長い間収まることがなかった。
それから数百年。
古代遺跡といえば、エルフの千年以上前の遺跡が発掘されることがある。
しかし魔王討伐期の発展した都市の遺跡もあちこちに見ることができた。
今よりも建物も制度も立派だったという噂があるのも当然だった。
勇者に仕えた女賢者はエルフであったとされる。
それは美しく聡明であったと。
そんな彼女は控えめであったため、表立った活躍はしていないが、エルフの発展した文化を人間世界にいくつも持ち込んだ、功労者だったそうだ。
「まあ地球でも古代ローマとかあるのでな」
「そうなのじゃ」
王国の人たちも発掘現場で不思議そうに背の高い遺跡を眺めている。
「これもなんだか意味不明の遺跡で、あちことに同型のものがあるのが確認されています」
「同型ねぇ。本当に同じなのか?」
「はい、何基か実物を見ました」
「ふむ」
学者たちが首をかしげる。
「なあ、ルンガ」
「なんだ?」
「これはなんじゃ?」
「え、あ、あの、これはな酸素発生装置じゃ。課金アイテムだな」
「えっと、それは地上に介入して?」
「うむ。最初の頃はなかなかシアノバクテリアだけでは辛そうだったから」
「まったく、そうやって手を出してなのじゃ」
「すなない」
「しかも、放っておいて今も稼働しておるじゃろこれ」
「あ、本当だ」
装置はまだ生きているのだった。
これで二酸化炭素から酸素と炭素化合物を毎日せっせと作り出している。
「まったくもうなのじゃ」
「あはは」
まあエルフを作ったときも、強制進化装置を導入したりしたので、たまにはいいではないか。
どうせ俺らは神で、この世界をいかようにもできるのだから。
そういう意味では恐怖の対象でもあるのかもしれない。
さてさらに数百年たち初代勇者から千年が経とうとしていた。
古代ローマから現代まで二千年なので、これくらいは人類史としては短い方だろう。
「遺跡時代の設備には驚かされます」
ある学者が遺跡を見ていう。
中には神の遺跡もあるので、なんともいえないところだが、実際に過去のほうが技術が高い分野もあった。
「魔道具類も発展していますね。よく分からない装置なども見つかります」
これは勇者タクヤが発案した異世界の技術が応用されたものもある。
扇風機とか冷暖房、ドライヤーなどもそうだ。
たまに変な物も発掘されて、疑問に思うのだろう。
「エルフなら何か知っているかもしれませんが……」
「あいつら秘密主義だから」
「まあ、そうでしょうね。人間側も冷たく当たるから余計こじれる」
「さもありなん」
発掘隊の技術者は手を上げて降参のポーズをとる。
エルフはその目で見てきたと言いつつ、内容はほとんど教えてくれることはない。
その昔、賢者だったという人間と共にしたエルフ様も亡くなって久しいと聞いた。
そもそも今も脈々とエルフの純潔を受け継いでいる部族もいるものの、かなりの数のエルフが人間と混血関係にあり、ハーフエルフ以下の者も多い。
平均寿命も統計的な数値はないが、年々下がってきているのではという論文があった。
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