第91話 暗部として
一瞬 鍔迫り合いになるが、僅かにダーネルが押し込むと後ろに下がるゲオルグ
追撃するダーネルの攻撃を躱して、スモールソードとナックルガードで変則的な攻撃を繰り出すゲオルグだが、ダーネルは全ての攻撃に合わせて相殺するとお互いに距離を取る
「なるほど……腕は落ちてない。むしろ上げたのか……腑抜けにはなっていないようだな」
「抜けた=腑抜けになる考えか? それは、ちと安直過ぎねぇか?
おたくらとシクリーニの所が色々とオイタをしたおかげで、とばっちり受けちまってよ。のんびりするつもりだったんだがな」
今度はダーネルが先に動いた。それに合わせてゲオルグは、先に分銅が付いた鎖をいくつも放つ
ダーネルは全ての鎖を、ククリナイフだけで弾き返した
弾き返した時に、僅かに動きが止まる瞬間を狙ったゲオルグは
「[
ダーネルの足元が泥沼となり足を取られてしまう
「[
足元の泥沼から数十もの土の塊を撃ち出すと同時に自身もダーネルに向け必殺の攻撃を放つゲオルグ
ゲオルグの勝ちを確信したブルーナ公爵は嫌な笑みを浮かべ、ローザリンデ達は慌てて魔法を唱える
ダーネルは [
そして、ククリナイフだけで全ての
「なぁ?!」
全ての攻撃を止められたゲオルグ驚愕の顔になり思わず驚きの声を出した
ゲオルグの僅かな動揺を見逃さなかったダーネルは、受け止めた攻撃を支点に泥沼から抜け出した勢いを乗せてゲオルグの顔に蹴りを放った
まともに食らったゲオルグは吹き飛ばされ机に激突する
机を粉砕して肩で息をしつつ何とか立ち上がるゲオルグ
「まさか……儂の攻撃が……全て……防がれるとは……ここまでとは……思わなんだ」
「俺からしたら見せかけの忠義を守ってる、今のあんたじゃ俺には勝てねぇんだよ」
見せかけと言われて僅かに顔を顰めるゲオルグ
「見せかけ……だと? 何を言うか……儂は、継いで……おる」
「……先代の信念・意志・想い・誇りを全て無視して蔑ろにしながら、その息子を支え導く事も一切しなくて、道を外れても好き放題させている……それで本当に継いでいると言えるのか!!」
(……っ?! 旦那様?! まさか……)
ダーネルの姿に先代の姿が重なったゲオルグは一瞬 息が止まった
ダーネルはブルーナ公爵に向くと”ひっ?!“ と小さく悲鳴を上げて顔が青くなり恐怖に引き攣る
「……国を見捨てて逃げた俺が、偉そうに言えた立場ではないがな。それでも、腐敗の原因が分かり希望があるならば、邪魔になるものは排除する
それが、かつて暗部に身を置いていた俺の役目だ」
「来るな……来るなぁぁぁ?! お、俺はブルーナ公爵だぞぅ! おい、ゲオルグ! 何してんだ?! さっさと動けや! この、役立たずがぁ?!」
ブルーナ公爵の右太ももにナイフを投げるダーネル。
「……むっ?! いたぁぁぁい?! ヒィィィィィ?! 何すんだぁ痛ぇぇぇぇよぅ?!」
「はぁ……何のつもりだ? ゲオルグのおっさん」
痛みで腰を抜かし泣きじゃくりながら座り込むブルーナ公爵を守る様に、机に叩きつけた脇腹を抑えながら立つゲオルグ
「儂も暗部に属する者の1人。暗部としての役目を全うするのみよ」
「うっぐぅ?! ゲ、ゲオルグそうだ殺れ! こんな奴はぶっ殺せ!」
スモールソードをゆっくり構えるゲオルグ。ダーネルもククリナイフを構える
ゲオルグはスモールソードを振り下ろしてブルーナ公爵の胸に突き刺した
突き刺さったスモールソードを一度 見て、驚いた表情のまま後ろに倒れるブルーナ公爵
目を見開いたまま絶命していた
ブルーナ公爵にスモールソードを振りおろしたままの姿で固まるゲオルグに
「ゲオルグのおっさん……あんた……」
「……先代を殺したのはお坊っちゃまだとわかっていた……しかし、儂はそのことを認めたく無かった
何時しかそのことを心の中に封じて、お坊っちゃまに仕えている内に見えなくなっていたようじゃな……」
倒れているブルーナ公爵を抱き上げるゲオルグ。何か言おうとしたダーネルたが、ゲオルグがジャスティーネに向いたので口を閉じた
「ブルーナ公爵の姉君であるセヴェーラ様は今回の計画を知っておりますが、陛下は全くご存知ありません。
この日の為にわざと、陛下と王妃様を離す様に仕向けておりました。
証拠となる手紙のやり取りや計画書等はブルーナ公爵邸の執務室に置いてあります
ライアン会長の暗殺に参加した暗部の者は6名です。
それ以外の者は特殊な方法で動きを封じて、公爵邸の地下牢にいれております
護衛に付いているロベリアなら直ぐに迎撃出来ましょう……国に仕える暗部の者としてこの様な謀反を起こし申し訳ありませんでした
私が言える資格はありませんが、残された暗部の者達に何卒お慈悲を宜しくお願い致します」
「……分かりました。後の事は任せなさい。悪いようには致しません」
頭を下げていたゲオルグは静かに頭を上げる
「ブルーナ公爵家に仕えていた者として、最後に1つすべき事が御座います。これにて失礼致します」
ブルーナ公爵を抱えたまま、いきなり走り出して窓を割って外に飛び出した
後を追うために動こうとしたダーネルに
「追う必要はありません! 後は彼が自らすべきことです。放っておいて問題ないでしょう」
「しかし、魔族の事もありますし追わなくて良いんですか?」
怪訝な表情になるダーネルに
「魔族はもう片付いている頃ですよ。貴方と共に来た英雄様が倒されているでしょう
ローザリンデとの約束を果たして頂けるとはありがたい事です」
「……あの旦那ならあっさり倒してますね。それよりブルーナ公爵家はどうなりますか? いや、元暗部の人間として一応気になりまして……」
ブルーナ公爵家を聞いて目が泳ぐダーネル
「ブルーナ公爵家の処遇はこれから考えます。けじめはつけますが、悪いようにはしません
貴方だったのですね、先代ブルーナ公爵の血を受け継いだもう1人の子は」
「……っ?! 何を……って、調べたんだな。その顔は確証があるって訳か
まぁ、いわゆる隠し子……庶子って奴だな。なら俺の生まれも知ってるのか?」
ジャスティーネの顔を見てあっさり白状するダーネル。
ジャスティーネは頷くと
「先代と追放された貴族令嬢との間に生まれた子、それが貴方ですね
元々、令嬢は政略結婚した夫と子供が出来なかったそうです
不審に思った夫が色々な男に令嬢を抱かせたそうですが、何年経っても出来無かった
それで離縁させられ実家に戻された令嬢は家を追放された。全てに絶望して池に身投げしようとした所を先代ブルーナ公爵に助けられた
話を聞いた先代が元令嬢を修道院に入れる手続きをしてあげました
令嬢は修道院に入る前に先代ブルーナ公爵と一度だけ関係を求めたけど、その時結婚していた先代は一度断ったそうです
そこで、何かの話があり一度だけ関係を持った
その時生まれたのが貴方なんですね」
「……まぁそうなんだけどな。長々と人の過去を語ってくれたけどさ。
思い出したくない事もあるかもって思わないのか?」
話の途中で律儀に相槌をうっていたダーネルの言葉を聞いてハッとしたジャスティーネは頭を下げて
「大変申し訳ありませんでした。そうですね。貴方に出会えて思わず……貴方の気持ちも考えずにごめんなさい」
「ああ言ったけどな、今となっちゃ気にしていませんよ。母親は俺を産んだ後も修道院にいたしな
俺が小さい頃に亡くなって、その後ゲオルグのおっさんに引き取られて暗部の1人になりましたし
俺が先代の息子って知ったのは先代が亡くなって渡された手紙を読んだ時でした。
ゲオルグのおっさんは、隠し子の存在は知ってたけど、俺だとは知らなかったみたいだな
俺を入れたのも先代が将来有望だって言って入りましたから
そして、どうして関係をもったのかなども書かれてました
内容は家族の秘密なので割愛させて頂きますよ
で、それを知ってどうするつもりで?」
申し訳無さそな顔をするジャスティーネに軽い感じで話すダーネル
ローザリンデは知らなかったのか口をあんぐり開けていた
「そう言って貰えると助かります。それは、ブルーナ公爵家を継ぐつもり「ありません」……ですよね、分かってましたよ。
それとは別に、ゲオルグが話していた証拠を公爵家へ取りに行って下さい
既に終わったようですし後は、城の護衛だけで大丈夫ですからね」
「ま、それぐらいなら良いですよ。んじゃ、行ってきます」
(暗部で必要だとして俺が帝王学や公爵家のしきたりなどを叩き込まれたのはこのた……いや、要らない事は考えんようにしよ……)
手を上げてゲオルグが割った窓から外に出るダーネルだった
その頃ダーネルは先代ブルーナ公爵の墓の前に居た
「旦那様申し訳ありません。お坊っちゃまをこの手に掛けました。あの世でお会い出来ましたら、幾らでも罰を受けましょう」
ブルーナ公爵と自身の体に火を点けた
「……これでブルーナ公爵家も断絶か……いや、もう1人のお坊っちゃまは立派になられました
あの方が、ブルーナ公爵家を継いでくたさるなら……」
翌日、ブルーナ公爵家の墓の前で重なっている焼身死体が2つ発見された
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