第89話  謁見



 ライアンは王妃に先に挨拶に伺うつもりだったが、国王に呼ばれて謁見の間に居た

 膝をつき頭を垂れるライアン


「お久しぶりでございます。ブァランタン陛下。ご壮健そうで何よりで御座います」



「うむ、久しいなライアン会長よ。苦しゅうない表を上げよ」



 “はっ” と返事をして顔を上げるライアン。目の前には50代半ばの赤髪に赤目をして小太りな体型をしている。

 自分を偉く見せる為か、似合わない装飾をふんだんにつけた衣装を身に纏っているのと、お腹が出ている為か動き辛そうであった

 装飾品の音を鳴らしながら玉座の上でふんぞり返り


「此度は我がカイロス商会と手を結んでくれたとの事、我は誠に嬉しく思うぞ。それでだ、少し良いか?」



「何でございましょう?」



「うむ、そのな……カイロス商会は今 ローザリンデが管理しておりその方と契約しておるな。

 それを、息子のグルンテにカイロス商会を任せようと思うから、改めてグルンテと結んでくれい」



「お言葉ですが、ブァランタン陛下。私共はローザリンデ殿下以外に、手を取ることも契約を結ぶつもりも毛頭ありません。

 でしたら、この話は無かった事にさせて頂きます」



「ま、ま待て! 分かった! 今まで通りローザリンデに任せよう! それで、宜しく頼むぞ」



「……はっ、此方こそ宜しくお願い致します」



 中腰になって慌てだすブァランタンだが、ライアンの返答を聞いて腰を下ろした。


 ライアンがここまで強気に出られるのは、バルボッサ商会が世界最大の商会でありランドールは勿論 各国の物流を支えており、王族と言えども無下に出来ない存在であった

 勿論それぞれの国で商会はあるけど規模が違う。


 また、ブァランタンは見栄っ張りだが、臆病で小心者なので、今みたいな事はよくあった。

 ジャスティーネには立てて貰っているが、裏から手の上で転がされて上手く国家運営をしている

 第2王妃でブルーナ公爵の姉セヴェーラは尻に敷いていた

 ローザリンデの動きでジャスティーネに組する貴族が増えて、苛立ちをブァランタンにぶつけているが、ブァランタンは何も言えないでいた


 早々に国王との話は切り上げてジャスティーネの所に行くライアン

 ジャスティーネは執務室で国王に代わり執務を熟していると執事が



「ジャスティーネ様。バルボッサ商会のライアン会長様がお見えです」



「分かりました。お通ししてください」

 

 

 執事の案内で部屋に入り頭を下げようとするライアンを止めるジャスティーネ

 


「遠路はるばるありがとうございます。挨拶は不要です。どうぞお座り下さい」



「お気遣いありがとうございます。ジャスティーネ様はあいも変わらずお美しいですね」



 同時に席に座る2人。ジャスティーネは”ありがとう“ と微笑んだ

 40代後半だが白色の髪は艶があり、20代後半でも通用する美しさである。

 着ている服は、ブァランタンとは反対で動きやすさ重視でも気品溢れていた

 


「それで、今日は挨拶に伺ったのですか?」



「ええ、そうですよ。ローザリンデ様と正式に契約を結んだご挨拶にお伺いさせて頂きました

 そしてローザリンデ様のご提案で今夜は王城で一泊過ごさせて頂きます」



「えっ? あの子がそんなことを……この時期になにを……」



 泊まる事を話すと目つきが鋭くなるジャスティーネ。執事を呼ぼうとした所で止めるライアン


「お待ち下さい、ジャスティーネ様。私は大丈夫ですよ。」


「……分かりました。後からあの子に確認しましょう」


 

 軽く溜息をついて姿勢を正すジャスティーネ。その後は、世間話から今後についての話を一通りして


「それと晩御飯ですが、私とローザリンデの3人でご一緒させて頂きます」



「3人でですか?」



「はい、色々とありまして陛下は今 セヴェーラ王妃とグルンテ殿下と共に食事を取っております

 ライアン会長お一人でお食事を召し上がって頂く訳にもいきませんし、念の為に私共と一緒に召し上がりませんか?」



「なるほど……分かりました。ご一緒させて頂きます」


 どこかホッとして頷くジャスティーネに頭を下げて執務室を出たライアン。部屋の外に待機していた侍女に客室へ案内された

 王妃と国王に謁見を済ませたライアンは、案内された客室でソファーに座り一息ついて



(ふぅ……随分張り詰めた空気をしていたな。当のブァランタン陛下は気付いてなかったが、何も考えて無さそうなだったな。

 だからジャスティーネ様の動きに気付いてないふり……ではないか。本当に気付いてかったな)



 考えながら、ブァランタン国王の姿を見たとき明らかに身の丈に合ってない装飾で着飾っていた姿と

 ジャスティーネ王妃に会った時に見た派手さは無いが、気品があり動きやすいであろうドレス姿を思い出し



(服装もそうだが、顔つきが全く違った。文字通り正反対と言った所だな……)



 久しぶりに見た2人の事を考えていると、扉がノックされて声が聞こえた

 促すとロベリアが入って来た。頭を下げてライアンに近付いて耳打ちをする



「やはり、ブルーナ公爵とグルンテ王子は私をこんばん消すつもりですか

 潜んでいる魔族と暗部も使うとは、よほど私に死んて欲しいようだな」


「はい、犯人を王妃様とローザリンデ様に仕立て上げる手筈も整っているようです

 世界最大の商会トップが殺されると影響はかなり大きいですから、ドサクサに紛れて魔族の力も使い一気に貴族達を掌握するつもりです」



 話を聞いて背もたれに体を預けて天井を見るライアン



「ローザリンデ様は私を餌に一気に炙り出してかたをつけるつもりか……」



「怒りましたか?」


「いいや、使えるものを使うのは、私もしているからね。ある意味で、敵の本拠地ど真ん中でもあるからな。

 ローザリンデ様の事だから勝算があり、私に身の危険はないと判断されての行動だろう

 所で、例の人物も動いているのかい? 実力はどれほどのものだろうか?」



 顔を下げて軽く息を吐いてロベリアを見る



「砦で修行を付けておられましたが、既に動いておいでです。

 実力は、まずブルーナ公爵は何故か過小評価していますが、私と暗部の者 全員が掛かっても勝てないですね」


「なるほど……君にそこまで言わせるとは頼もしいな

 それに暗部も今は一枚岩ではないしな。昔からの言い伝えで果報は寝て待てともあるから、今回は部屋で大人しくしているよ」



「はい、私が護衛に付きます。因みに、ローザリンデ様には別の者が護衛に付きます。

 実力は私より上なので、大丈夫です。私もきちんとお守り致します」



 営業スマイルではなく普段通りのロベリアだが、僅かな違和感を感じたライアンは



「……ローザリンデ様の護衛に付きたいなら私からお願いしようか?」



「いえ、大丈夫です。お気持ちありがとうございます。受けた指示は完遂します、お任せ下さい」



 頭を下げるロベリア。“分かった” と頷くライアンは今夜の事についてロベリアに確認するのだった






 

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