第88話  協力



 ランドールでの一件から数日が経ったある日

パールド王城にある応接室の一室で



「お忙しい中お越しいただきありがとうございます。ライアン会長」



「こちらこそ、ローザリンデ様のお呼びならどこでも駆けつけますよ」



 カーテシーをして迎えるローザリンデに帽子を胸に当て礼をするロマンスグレーの紳士、バルボッサ商会の会長ライアン・バルボッサ

 コートなどを侍女に渡している間に、ローザリンデがソファーに座る。

 座る様に促されて反対側のソファーに座ったライアン会長。

 取り留めのない世間話をしていた2人だが、ノックをしてメイド服姿のロベリアが入って来ると、同時に見る2人

 すると、ロベリアは頷くと壁に寄り添った。

 そして、2人の雰囲気が変わり



「ライアン会長、この度は我が国のカイロス商会と協力体制を取って頂きありがとうございます」 


「私共としても願ってもない事ですから、此方こそありがとうございます。

 それにランドールにあるエルード商会を手中に収めれたのは次の一手に繋がります」



 ライアン会長の話を聞いて少し考えて



「次はカイルド帝国にあるエルード商会本店に狙いを定めますか?」



「そうですね……ご存知の通りあそこはボッケカス帝王によって前会長達が見せしめに処刑されました。そして能力不足の方が就いだせいか、目も当てられない状態になってますから傘下にすることは出来ますが……」



 そこで区切り出されたコーヒーを飲むライアン会長に



「魔王幹部ザンバーガがいるので目立つ動きは取れない……でしょうか?」


「はい、そうです。ボッケカス帝王は興味を示さなくなりましたが、魔王幹部ザンバーガに目をつけられるのは良くないとの判断です。

 なので有能な者や志ある者達に秘密裏に声を掛けています。

 すべてが解決した後に上に立てる者も見つけていますよ」



 優しく微笑むライアン会長。口も目元も笑っているが、瞳の奥にある光は鋭い



「エルード商会の後継者を育て上げて裏から……とお考えですの?」



「いえいえ、とんでもない。それは骨が折れますからしませんよ。

 いずれは手を取り合いより良い関係に慣れたらと思っては居ますよ。」



「そうですか。我が国も発展させる為に、バルボッサ商会と手が組めたのは僥倖です。

 私も、いずれはエルード商会とも手が取り合えたらと思いますわ」

(骨が折れなくなれば成すのですね。物腰柔らかく紳士然としてますが、油断は駄目ですね)



 ローザリンデが紅茶を一口飲んで



「バルボッサ商会の協力のおかげで、カイロス商会の全てをブルーナ公爵から、私に移すことが出来ました

 それによりブルーナ公爵側の貴族の多くがお母様と私についてくれました」



「私達は協力しただけですよ。ジャスティーネ王妃様とローザリンデ様のお力です。後は現ブルーナ公爵の影響てすな」



「先代ブルーナ公爵は人格者でしたが、現ブルーナ公爵は悪い噂が絶えませんから……独り言ですが、其のせいで一部の優秀な暗部の者が辞めてしまいました。

 尤も優秀すぎて追手を出しても、返り討ちに合うのは目に見えてます。なので、動向を調べるだけにしています」



 暗部の話になり一瞬目が鋭くなるが、すぐにもどり



「その様な大事な話を一介の商人に話しても大丈夫ですかな?」



「はい 独り言ですから、お気に為さらないで下さいませ。

 それと今日は是非、泊まっていって下さい。

 今から出発しても、直ぐに夜になってしまいますよ」



「お気持ちは有り難いのですが、今……いえ……分かりました。是非、宜しくお願いします

 ブァランタン陛下はお忙しいでしょうから、先にジャスティーネ王妃様にご挨拶に伺いますね」



「ありがとうございます。では、直ぐに案内致しますね」



 ロベリアが動いて部屋の外に出ると、1人の侍女が入って来た

 ライアン会長はローザリンデに頭を下げると、侍女の案内でジャスティーネ王妃の所に向かうのだった

 ロベリアにずっと居た侍女と3人になったローザリンデは



「ロベリア、直接話すのは久しぶりですね。体は大丈夫ですか? 他に問題はありませんか?」



「はい、直接話すのは547日振りで、手紙ですと4日振りです。体は大丈夫です。問題はありません」



「そう、何事もなくて良かったわ。久しぶりに甘えていいですよ」



 ソファーに座ったまま両手を広げるローザリンデ

ロベリアはローザリンデの前で床に両膝をつける

 ローザリンデの太腿に頭を載せるロベリアの頭を優しく撫でるローザリンデ



「ごろごろ ごろごろ」



 猫の真似か手の動きにあわせて、真顔で声を出すロベリア

 表情を変えずに見守る侍女。これは、ローザリンデを他の者が呼びに来るまで続いたのだった



 

 その日の夕方


 ブルーナ公爵邸で当主の本人は荒れていた



「くそくそくそ! カイロス商会をあんなクソガキローザリンデに奪われるなんて! グルンテは役に立たないしどうなってる?! 

 本当に女を孕むしか能がないのかぁ?! 

カイロス商会の邪魔者を消すのに、クソガキのクランの壊滅と暗殺に向かわせた暗部の者達は、まだ帰って来ていないのか! 」



「落ち着いて下さい、ブルーナ公爵様。それも、今夜成功させれば問題ありません」



 執事長が声を掛けると



「……ああ、そうだ。飛んで火に入る何とかの虫とはこの事だな。

 ライアン会長を殺して、罪を全部ローザリンデに擦り付ければ、呼んだあいつは免れない

 失脚すれば、母親の王妃も巻き添えを食らう。

 そうすれば第2王妃とグルンテの立場が上がりるたろう

 しかも、ライアンを殺せばバルボッサ商会も手に入れられる」



「そうすれば、次期国王もグルンテ殿下になりましょう」




「魔族に連絡して暗部の者と一緒にライアンを殺す手配を整える様にしろ」



 ライアンだけを狙う段取りを付けて勝利を確信するブルーナ公爵だった

 







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