第87話  あっけなく



 カイルド帝城でそれぞれの思惑が動いている時、ランドールでも動きがあった

 ザンバーガも話していた、ランドールでのバディアス侯爵の計画の一つが潰れた余波によって動きがあった



深夜のランドールにあるエルード商会の一室で



「どう言う事だ、ノーマン副支店長? 例のカイロス商会の支援物資を全てバルボッサ商会に奪われただと?! あれに使った毒は、此方から回した物もあるのだぞ! 何と言う……大変な事になったぞ……」



「それは、重々承知しています。ニクラス支店長。エルード商会には迷惑を掛けない様に、全力で取り戻す為に動いております

 もう暫くお待ち下さい。直ぐに取り戻して見せます」



 ヘコヘコしながら話すノーマンに見定める視線を向けるニクラスは



(買収をかける相手を間違えたか? 副支店長という事で引き込んたが、野心ばかり高くて手柄は殆ど他人のもの……早々に身代わりにして切り捨てるべきだな。

 ったく、漸くシクリーニのボンクラのお守りが終わってこれからって時によ。

 カイロス商会の信用を地に落として、ランドールの店を取り込みカイロスとエルードの両方を手中に収める計画が、初っ端で躓いちまった

 最近はボケ帝王も支援をよこさねぇからな……ふざけやがって)



苛立ちを必死に内に隠して



「所で、誰がバルボッサ商会に情報を流したのか分かっているのか? まさか身内の事なのにまだ掴めてないのか? それでは、カイロス商会を任せられないぞ」



「そんな?! 実はかなり内密に動いていたらしくレジュス支店長も把握していなくて……でも、もうすぐ見つけ出します!」

(ああ! クソが、人を見下しやがってぇ! 巫山戯んなよ! 絶対に貴様を蹴落として俺が上がってやるからな!)



 必死に表情を作って机に手を置いて頭を下げるノーマン。



「その必要はありません。バルボッサ商会のそして私の情報収集能力を侮らないで下さい」



「「なっ?!」」



 部屋の暗がりから声が聞こえて同時に見るニクラスとノーマン。

 暗がりからバルボッサ商会の制服を着た女性が、姿を表した。ニクラスが



「お前はバルボッサ商会に居るエルフの受付店員! では、おま……?!」

(声が出ない?! それだけでは無い体が動かせない……だと?! ならこいつの噂は本当だったのか?!)



「余り騒がれても迷惑になりますから、黙らせて頂きました」


 軽く頭を下げて2人を見るロベリア。いつの間にか両手に、暗器の一つである20cm程の長さの針を何本も指に挟み持っていた。

 その針を見て顔が青くなる2人。何故か動く顔を左右に振っている



「貴方がたに選択肢を与えましょう。

 無数の針と共に皆さんへ醜態を見せるか、男性としての尊厳が面白い事になり皆さんへ醜態を晒すか……どちらがお望みですか?」



 冷酷を通り越した緑色の目で静かに見てくるロベリアに冷や汗を流して首を振る2人



「……っ?! ……っ……!! ……っ……?!」

(いぎっ?! いっでぇぇぇぇ!! いだいっよぉぉぉぉぉお?!)



 徐ろに、ニクラスの右手に針を一本刺したロベリア。余りの痛さに目を見開き涙を流し声にならない声を上げて悶えている



「刺した針には痛覚を数倍に上げる薬を塗ってあります。通常は数十倍に上げますが、一応の手加減です。さて時間がないので、もう一つの選択肢を与えましょう」



 ロベリアを恐怖の目でみるノーマンと痛みに堪えながらチラチラと見るニクラス



「貴方がたの今までの悪事を洗い浚い話してもらいます。今回の事も含めて全てです。

 これで、断れば針と尊厳の両方をあげましょう」



 必死の形相で首を縦に振るノーマン。一方でニクラスは痛みの中で考えていた



(駄目だ……話せば俺は……帝王に殺される……話さなくても……こいつに殺される……どっちに転んでも同……いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ?! いやびゃぁぁぁぁぁうぇぇぇぇぇ?!)



 ロベリアはニクラスの左手に2本の針を突き刺した。痛みの余り股の前後から、温かいものが溢れ出し液体は床を濡らした


「先程より痛覚を更に上げてみましたが、耐えきったようですね。フフ、次は何処がお望みですか?」



 針を見せつけるロベリアに、限界を超えたニクラスは白目を向いて気を失った



「……まぁいいでしょう。貴方は全て話すのですね。今から黙秘しませんか? 是非そうしましょう」



 言ってくるロベリアに、首が千切れんばかりに横へ振るノーマン。いつの間にかズボンに染みが広がっていた。


 

「そうですか……分かりました。しっかりと話して頂きます。では、行きましょうか」

(結局2人とも汚れましたね。また怒られてしまいますが、こればっかりは生理現象ですから致し方ありません。後は、任せましょう)



 ある意味尊厳が無い2人の首を掴んで静かに部屋から消えたロベリア


 次の日の早朝にギルドと衛兵がカイロス商会とエルード商会に捜査に入った

 それによりランドール支店のエルード商会は数々の悪事が暴かれて、店員全員が処罰を受けて店舗廃止の処分を受けた


 ランドール支店のカイロス商会は元副支店長と数名の店員による、支援物資毒混入事件を起こした事が分かった。それ以外の悪事は全くないと判明。

 罰金と営業停止処分を言い渡されたが、支店長含めた店員個人へのお咎めは無かった


 これにより両商会はあっけなくランドールから撤退……とはならずに、バルボッサ商会が裏から手を回して店舗権利や営業権などを手に入れた。

 それぞれの商会名にバルボッサの名前を入れて営業を再会する

 水面下の動きで、バルボッサ商会はカイロス商会と協力体制を、エルード商会は傘下に置く手筈を整えるのだった



 バルボッサ商会内のある場所でロベリアと女性店員が話していた。



「ねぇ ロベリア、もう少し綺麗に出来ないの? それとも貴女が掃除する?」



「嫌です」



 きっぱり断るロベリアに片付けをする女性店員は呆れた目を向けて



「それは、どっちの嫌なの?」



「どちらもです。それに、これは生理現象……致し方ありません」



「はぁ、もう良いわ。じゃ 纏めたこれを1つ持って……って、逃げるなー!」



 日常茶飯事の追いかけっこが始まるのだった








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