第83話 傷 多立視点と
「……痛?!」
「美穂、指見せてみ?」
裁縫をしていて自分の左人差し指を針で刺して、思わず口にくわえる美穂の左手を掴んで回復魔法をかける寧留
「寧留ちゃんありがとう…ボクも訓練や防御力上昇スキル身に付けてるのに、何で針が刺さるんだろう?」
「ん? 何でも騎士や冒険者用の針で頑丈に出来てるってさ。だから刺さるんじゃね」
「なるほど〜」
(ってか、寧留ちゃん、裁縫
サクッと回復魔法を掛けて裁縫の続きをする寧留の手際の良さに驚く美穂
「寧留ちゃん、裁縫上手だよね」
「まぁ、アタシは貧乏だったしさ。よくやってたよ」
「えっ? あっ……ごめんなさい」
謝る美穂の顔を見て寧留はニッと笑うと
「いーよ いーよ、気にしてねぇーし。ってか、アタシの事は話したことなかったっけ? 面白く無いけど聞く?」
「えっ? うん、聞くよ。お願いします」
器用に裁縫しながら話し出した寧留
「アタシの親は小学一年の頃に離婚してんの。父親はギャンブルで借金作って行方くらまして、母親は男作ってさ。
んで、母親がアタシを親戚のおじさん夫婦に押し付けて男と共に居なくなっちまったよ」
「おじさん夫婦と生活してどうだったの?」
話の途中で針と糸の色を変えて縫っていく寧留
「向こうからしたら厄介者押し付けられたからね。あんま良いとは言えないし…それでも、最低限の生活はさしてくれたよ〜
ま、殆ど家政婦以下の扱いされたけどさ。
そん時は腹立ったけど、そのお陰で何でも出来るようになったんだし、良いんじゃねと思ってるんよ。今はね」
「そっか…でも、高校は行かせてくれたんだね」
そこで、一旦 手を止めて美穂を見る寧留
「行かせてくれんかったし、金も1円も貰ってねぇし……彼等の考えは、アタシが18才になるまでバイトさせてなったら風俗に入れて金を絞る取るつもりだったよ。アタシ、可愛いからさ〜」
「そんな……幾らなんでも……って、寧留ちゃん高校来てるよね? あれ?」
「中3の時に、知り合った建設会社の社長のお陰 何だわ。長いから省くけど、学費出してくれるって言われたけどね
それだと悪いから、中3の時にお手伝いと言ってお駄賃貰ってお金貯めてさ。それで高校に行けたんだ〜」
裁縫しながら楽しそうに話す寧留。美穂も笑いながら相槌を打つ
「んで、高校進学した後も現場の手伝いと事務の手伝いをして学費を稼いでたんよ。
こう見えて頭はそこそこ良かったからさ。気付いたらこの世界に来ていたってか? そんな所しょ」
「寧留ちゃんも色々と大変だったんだね。その上、こんな世界に……絶対に元の世界に帰ろうね!
みんなで……一部を除いたみんなでね!」
前のめりになって力強く言う美穂に、キョトンとした顔になる寧留だが直ぐに笑って頷いた
「よっし、刺繍出来た! アタシは名前知んないけどアニメキャラ入れてみた、どうよ!」
(まっ……ホントは何処からともなく現れたクズ父に、貯めてた学費奪われそうになって、抵抗したら服を破られ押し倒されて犯されそうになった事に
中学ん時に、カンニング疑われたりイジメ受けた事は言わんで良いっしょ)
「もう、出来たの? って、うっま! えっ? 凄すぎない?! 寧留ちゃん」
ハンカチに縫った刺繍を見て驚く美穂。
寧留はそのハンカチを同室の女の子の手に持たせた。虚ろな目と表情で見る女の子
「それに、アンタの名前と高校名入れてあっからさ。元の世界に戻ってもこれで分かんでしょ。
帰れたらさ……少しは良くなるといいね」
「寧留ちゃん……」
女の子の頭を優しく撫でる寧留。そんな2人を見守る美穂であった
阿仁間や寧留達の様にこの城には囚われている者が他にもいる
非戦闘員の者は東城や騎士達の慰み者状態となり戦える者が男4名に女4名残っている
なので、男女ペアで1つの部屋に入れられた4組が過ごしている
その中の一組にいる【剣闘士】
今は、泣き崩れている三菜を慰めている良輔
「ごめん……ごめんね……良輔君、私……もう……汚れちゃったの……」
「そんなことは無い。ずっと側にいるから、離れないようにもっと強くなる。」
三菜を優しく抱きしめる良輔。三菜は
エレアナに付けられた首輪に、秋多と東城の命令に逆らえない仕組みを施されている為、三菜を見かけた2人が部屋に連れ込み散々やっていた
何時もは一緒に行動して訓練していたが、たまたま別行動の時に連れ去られる三菜
気付いた良輔だが、逆らえず助け出すこともできなくて悔しさの中で1人待つしかなかった
「くそ! 何で俺はあの時、三菜を独りにしたんだ! 三菜は大丈夫と言っていたが、ここは危険なんだ! わかってた筈なのに!!」
数日が過ぎてボロボロになった三菜が戻って来た
顔に切り傷や体中に暴力の跡が残り、戻って来てからずっと泣き続ける三菜を、優しく抱きしめていた良輔
それでも、精神を保っていたのは、初めては恋人と出来たからである。
この世界に来て結ばれた2人は、首輪を付けられた後も一緒に頑張って来た事も支えになっていた。
少しずつ立ち直りまた明日から訓練に出られる様になった夜。夕食を食べ終わり三菜が洗い物をしていると
「夜にすまない。少しいいかな?」
「貴方はジェラルドさん。どうしました、こんな時間に?」
扉の窓から声を掛けるのは、実地訓練の時にいて訓練をつけてくれている上級騎士ジェラルドだった
「うん……余り大きな声では言えないが【聖女】殿と【賢者】殿から預かり物があってね。受け取って欲しい。物はハンカチと手紙だよ。
手紙は読んだら直ぐに処分してくれ」
言われて受け取る良輔。手紙を読んで驚きで固まってしまった
洗い物が終わり側に来た三菜に、無言で手紙を渡す良輔
受け取った三菜は手紙を読んで同じく固まっていた
「これは、本当なのか?……ジェラルドさん……本当に阿仁間は無事で……首輪の解除方法を見つけたのか?」
「間違いない。モルティファス宰相……いや、確かな情報だからね。【聖女】殿のハンカチには回復魔法を付与してるらしい。彼女に使うと良いだろう
表面上の傷は治せるとの事だよ」
ハンカチを受け取る三菜。途端に淡い光が彼女を包み込んで、顔の切り傷に暴力を受けた跡が全て消えた
嬉し涙を流す三菜を優しく抱きしめる良輔。そっと扉の窓を閉めて離れるジェラルドであった
「多少の我が儘は刺激があって面白いけど、流石に鬱陶しくなってるわね、あの男……」
「消しますか? エレアナ様」
通路の影から目を細めて見るエレアナに聞くメント
「そうね……ならせいぜい私の役に立って貰いましょうか。帝都の側にある森に魔王復活の為に強力な魔物を召喚してたわね」
「はい、左様でございます」
「なら、そこにあの男と首輪連中を放り込みましょう。魔物が倒れた時の力は魔王復活のエネルギーになるしあの魔物達に倒されても同じこと……いいわね?」
「畏まりました。流石はエレアナ様、素晴らしいです。直ぐに用意致します。」
底意地の悪い笑みを浮かべるエレアナはメントを連れて戻るのだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます