第82話 ギャル聖女の奮闘 多立視点




 阿仁間君が無双しつつある頃、【聖女】である多立は同室の波瀬と午前の訓練が終わって、一緒に訓練していた騎士達の怪我を治すと、充てがわれた部屋に戻り



「ざーけてんのか! エロボケ腰振りサルドスケベくそジジィがあ!」



 持っていたメイスを床に叩き付けて怒りをぶつけていた

 怒鳴り声とメイスが床にぶつかった音で、新たに部屋の住人となってベッドに腰掛けているクラスメイトの女の子がビクッと肩を震わせた

 波瀬が慌てて女の子に近付き



「お、落ち着いて〜寧留ちゃん。怖がってるから」



「はぁーーはぁーー ふぅ……ごめん……あいつらがさ、あんまりにもノータリンで腹立ってさ。

 何考えてんの、あいつら? 女をヤル事しか頭にねーの?」



 息を整えた多立は波瀬が抱きしめて頭を撫でてる女の子に謝る。女の子は東城に精神を壊されて光の無い瞳で床を見つめていた



「うん、寧留ちゃんの怒りはわかるよ。ボクも腹立ったもん。

 東城が彼女をこんな目に合わせて、まるでゴミでも捨てるみたいにゴミ捨て場に置いたんだから

 それなのに、ボク達を見たら“俺のハーレムに入れ”や“俺の女になりたいだろ”って秋多と一緒に変な笑いでベタベタ触って来て……殺せば良かったかな……」



「美穂もかなりキレてんね。何ともないって顔してたからさ……に、してもあれら まともに訓練してねーしょ。

 エロサル秋多さ、アタシの一撃食らって白目向いて倒れたんよ。借りにも勇者なのに信じられる? 呆れたわ。

 ボケジジィ東城も美穂の足蹴り食らって のたうち回るしさ、もうちょい下なら潰せたのにねー」


 女の子の前に屈んで優しく手を握りながら話す多立。

 クラスメイトの女の子を見つけたのは、数日前から体力を増やす為に、2人で帝城の敷地をランニングしていた時だった

 ゴミ捨て場の横を通り掛かった時、ゴミ中から人の手が出ていたのを見つけた2人

 驚いて側に駆け寄ると、手が僅かに動いたので引っ張り出すとボロボロになったクラスメイトの女の子だった

 急いで部屋に運んで体を綺麗にして回復魔法を掛ける

 そこで、異変に気づいた多立。女の子に話し掛けても一切反応を示さず、まるで人形みたいになっていた

 食べ物は渡して指示を出すと食べるが、トイレに風呂も一人では何も出来なくなっていた。

 これはおかしいと、中庭でお茶を飲んでいたエレアナを見つけて、問い詰める多立

 エレアナは東城に与えた1つで、使い物にならなくなったとあっさり話す

 聞いた多立は怒り更に詰め寄るが



「煩いですね。余り煩いと他のお仲間の女達がそれに仲間入りするかも知れないわよ。

 お可哀想に、何ならお前達の目の前で何が起きてるか見せましょうか? 

 いっそうのことお友達をそのお仲間に入れてみるのも面白いかしら?……城にいる大勢の騎士達に襲わせたらどうにもならないでしょ?」


「あ、あんた?! くっ!」


「分かったのなら玩具は玩具らしくしてなさい。お前は【聖女】で回復魔法が強力だから優遇してるだけ……これまで通りしていなさい」



 悔しそうにエレアナを睨む多立。実際、帝城の騎士達に襲われたら、どうにもならないと分かっているので悔しそうに口を噛みしめる

 それを満足げに見るエレアナに



「……あの子はアタシらが、面倒見る……見ます……それぐらいは、いいっしょ……いいですか?」


「フッもの好きね。それとも同族意識ってやつ? 構わないけど、此方からは何もしないわよ」



 頷いて頭を下げた多立にいきなりエレアナは頭から紅茶を掛けた。

 熱湯では無いにしろ、かなりの熱さがある紅茶

 屈辱と熱さに手を握りしめて我慢する多立。


「分かったなら行きなさい。折角のお茶が台無しだわ」



 扇子でシッシッと追い払う動きをしたエレアナ。

 顔を俯かせたままその場を離れる多立。

 一緒に来ていた波瀬は、多立から “アタシが話すから何があっても一切喋るな” と言われていたので、必死に我慢していた



(む・か・つ・く〜! ぜってぇギャフンと言わせてやっからな〜!)



 怒り心頭で戻る多立と



(ボクのせいで寧留ちゃんがこんな目に……絶対に強くなってこんな騎士達は全員 倒してみせる!

 あっ! でも、全員は駄目だよね。こっそりボク達を助けてくれる騎士の人もいるからそれ以外だ!)


 気合を入れる波瀬。事実 少数ながら彼女達の味方の騎士も居て、表立っては出来ないがさり気なくサポートしてくれていた


 このエレアナとの一件以降、より訓練に励む2人。それこそ鬼気迫る表情で行う2人に多くの騎士が驚く

 その中で、日々2人をこっそりサポートする騎士は何となく何があったか分かり、より力を入れて訓練相手になるのだった。


 そんなある日、冒頭の事が起きた

 その日も、訓練が終わり部屋に帰ってる途中で女性を侍らして歩く秋多と東城に出会った

 秋多はこの世界の女の子を、東城はクラスメイトの女の子をそれぞれ左右に侍らせて肩を抱いていた

 多立達に気付いた2人はニヤニヤしながら近づいて来た


「うっ? 酒くさ?! あんたら昼間から酒飲んでんの?!」


「ホントだ……この距離からわかるって相当だね……」



 顔を顰める多立と波瀬。良く見なくても顔が赤く目が酔っているのが分かった


「あ〜 うっせぇなぁ俺は【勇者】何だからかまわねぇんだよ」


「俺はこいつと違って大人だからな。酒は飲んでも問題ないぞ〜」


 多立達を値踏みする目で見ながら話す2人。視線に気付いた多立は目を反らして2人の左右にいる女の子を見る

 女の子は全員、何もかも諦めきった表情をしていた

 多立は目線を戻して


「ねぇ、あんたらさ……この子らをアタシに渡してくんない? あんたらの側に居たら壊れちまうわ。

 いいでしょ?」



「あぁ?! お前、何を言って……そうか、そう言うことか……」



 言われた秋多は何かに気付いて、今だ訳が分かって無い東城に小声で話した

 話を聞いた東城が厭らしい笑みを浮かべて

 


「なんだ〜お前たちこいつらに嫉妬してたのか〜それなら、そうと言えば可愛がってやるぞ〜俺のハーレムに入りたいか〜」



「「……はぁ?!」」



 同時に突っ込む多立と波瀬。声に殺気が籠もっていたが、酔っ払い2人は全く気付いていない

 酔っ払いは女の子を放り出し、多立と波瀬に近づいて



「んじゃ多立は勇者である俺が抱いてやるよ。どうせ色んな男とやりまくってんだろ? 噂は聞いてるんだぜ〜 最近は処女とばかりでさ、飽きて来たんだわ。お前のテクで俺を楽しませろよ、な! 俺の女にしてやるからよ!」



 顔を伏せる多立の肩に馴れ馴れしく腕を回してキスをしようとする秋多の横で


 

「お前は波瀬だったな? 俺は逆に最近は処女を抱いてないからな。お前はまだ処女だよな?

 なら俺を楽しませてくれるな? しっかり泣き叫んでくれよ〜」


 こちらもクズな発言をする東城が波瀬の胸を揉もうと手を伸ばしていた

 

 秋多はキスをしようと多立の頭を掴み持ち上げようとするが、全く上がらない


「……すく……じゃ……」


「あぁ? てめぇ何のつもりだ?」



 顔が持ち上げられずイラッとしている所に、ボソボソと言う多立に顔を近づけると



「気安く触ってんじゃねぇぇぇ! こぉんの、エロボケ腰振りサルゥゥゥ!!」



「ごぶべぁぁあ?!」


 

 殺意と怒りと殺気をメイスに込めた多立の一撃が、エロボケ腰振りサルの顔に振り下ろされた


(てか、アタシはヤリまくってねーつうの! 処女だっつうーの!)


 吹き飛ばされ壁に叩きつけられたエロボケ腰振りサルは、白目を向いて気を失っているが生きていた



「ちっ死んでねーし……腐っても【勇者】ってわけか、しかし……はぁ……」



「多立?! お前は何をって波瀬?!……ふがぁぁ?!」



「ねぇドスケベくそジジィさん……気安く呼ばないでくれます〜キモいです、耳が腐ります……話すのウザッ」

 


 波瀬は顔を右手で掴むと、骨が軋む音がして苦悶の表情を浮かべるドスケベくそジジィ。

 一切表情は変えずに捲し立てる波瀬。最後は小声だったので聞こえなかったが、次の瞬間に波瀬の右足がドスケベくそジジィの腹にめり込んだ

 蹴りと同時に手を離したので後ろに飛ばなかったが、その場で腹を抑えて前に倒れ込んだドスケベくそジジィは


「おぅえぇぇぇぇ?! うぇぇぇぇぇ……」



 盛大に胃の中の物を撒き散らした



「うわっ……汚いな……」



 表情は変えず目線が汚物を見る目になる波瀬。

 更にトドメを刺そうと近付く波瀬にいきなりしがみつくクラスメイト



「それ以上は止めてよ! 私達がひどい目にあわされるんだから!」



「ちょっ?! そんなのアタシらと一緒に来たらいいじゃん! そうしなよ!」



 横から声を掛ける多立に怯えた視線を向けて



「私達はあの皇女に首輪で命令されてるのよ。貴女にどうにかできるの?!」



「うっ……それは……無理……だわ」



「ならそれこそ気安く言わないでよ! 貴女達はスッキリするわよね、守られてるんだから……私達はそうじゃないのよ! 毎日毎日抱かれて……口も何もかも……汚されたのよ……生きるのも辛い……でも、死ねないのよ! この苦しみがあんたらに分かるの?! 分からないでしょ!!」


 

 睨まれて何も言えなくなる多立と波瀬。そこに、騒ぎを聞きつけた数名の騎士が現れた

 騎士の姿を見た時は、2人に暴力を振るったので途端に慌てる多立と波瀬

 でも影から助けてくれてる騎士達だったので少し安堵していた

 状況を見て瞬時に理解した騎士達の一人が多立に頷くと、テキパキと指示を出している

 指示を受けた騎士達が、処理している間に近づいた上級騎士は実地訓練に着いて来たあの騎士であった



「出来る限りエレアナ皇女のお耳に入らない様に穏便に解決してみる。

 彼女達や君達の処遇を改善するのは、俺の権限や力では難しい。すまない、俺にはこれぐらいしか出来ない」



「そんな事はないしょ。何時もアタシらの訓練に付き合ってくれてんだし、お陰で強くなってるよ

 騎士さんこそ、あんま無茶しないでよ……何時もありがとうございます」



「ボクからもありがとうございます。ボク達のせいで罰を受けるなんて嫌ですよ」



 2人の頭を優しく撫でる騎士。“速く行くんだ” と促す

 多立と波瀬はこれ以上は居ても迷惑が掛かると部屋に戻るが



(騎士さんには、ちょー感謝たけど……やっぱあのエロボケ2人は許せないしめっちゃムカつくわ!)



 怒りが収まることが無い多立であった

 




 



 

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