第81話 上級騎士 阿仁間視点



 阿仁間が中級騎士達をやり込めた翌日、見慣れぬ騎士が阿仁間の牢に入って来た



(……何処かで見た事あるような?)



 中級騎士よりひと周り体が大きくいかつい顔をした騎士が首をひねる阿仁間を見下ろして


「ったく、お前が中々折れなくて困ってると相談があってな。それで、上級騎士の俺様がわざわざ来てやったぜ。感謝するんだな」



 腕を組み鼻で笑う上級騎士を見ながら



(ああ……それで、何処かで見た事あると感じたのは、着ている鎧だな。

 実地訓練で引率してくれた上級騎士の方も、同じ鎧を着ていたな……随分綺麗な鎧だな。彼が着ていた鎧は傷だらけだったっけ)



「黙ってどうしたんだ? ハッ、俺様が現れてビビっちまったのか? てめぇが、サッサッと折れねぇのが悪いんだぜ。 少しは楽しませろよ」



 拳を鳴らして阿仁間に近付く上級騎士。阿仁間は露骨にため息をついて立ち上がった

 阿仁間の態度に音と一緒に青筋を立てた上級騎士は



「なんだ、てめぇ……どうやら痛い目にあわねぇと分からないようだな」



(その為に来たのでは無いのか? ま、どれ程の力を持っていて、どれ位 通用するのか試させてもらいますか)



 何も言わず見てくる阿仁間の態度が更に苛ついたのかいきなり右拳で殴り掛かる上級騎士。それを見た中級騎士達は囃し立てるが



(うん……遅いな。後ろではしゃいでる彼らよりは速いけど……それでも遅いな)

 


 難なく躱す阿仁間。当たると確信していたのか、拳が空を切り少しバランスを崩す騎士。

 だが踏ん張って左手の裏拳を振り回すが、これもサクッと躱す阿仁間

 その後も軽々と攻撃を躱し続ける阿仁間に、苛立ちを募らせるながら攻撃する上級騎士

 後ろで囃し立てていた中級騎士達はいつの間にか静かになっていた



「ぜぇ……はぁ……てめぇ、ちょこまかとうぜぇんだよ! こいつらが手こずる訳だがよ。ちっ、当たりさえすれば……っ!」



「はぁ……じゃどうぞ」



 呆れたため息をついて、中級騎士にしたみたいに、両手を広げて無防備に立つ阿仁間

 哀れみの視線を阿仁間から向けられて完全に切れた上級騎士は



「くそ……ガキがぁ! ぶっ殺してやらぁ!」



 スキルを発動して力を溜める上級騎士



(ふむ……【剛力】【剛腕】【筋力向上(小)】か……3つのスキルに【速度上昇(小)】っとこれで攻撃力上げたら……うーむ)



「どうしたぁ?! 今更 怖気付いてもおせぇからな! 殺してやらぁ! おらぁぁ!」



 これまた阿仁間の顔面に命中した拳だが



「いっ……ぐ……がぁぁぁ?! 俺の拳がぁ! いてぇよぉぉぉぉぉあ!」



 右手首を左手で掴んで膝をついて蹲る上級騎士

 “昨日も見たね、これ” と思いながら眺めている阿仁間。

 昨日と違うのは、追撃はせずに中級騎士に顔を向けると、青ざめた顔で固まっている

 上級騎士は右手を掴んだまま立ち上がると



「この……クソガキィィィィ!」



 怒りの形相で阿仁間に右足を繰り出す上級騎士。

 その右足をあっさり掴むと、中級騎士達の所に投げ飛ばした

 中級騎士達は受け止めることはせず逃げたので、背中から壁に叩きつけられた上級騎士

 阿仁間は側にゆっくり近付きながら眼鏡を外してレンズを拭く

 壁を背にして何とか上半身を起こした上級騎士



(魔力を【魔力伝達】と【解析】で力に変えているけど、思ったより上手くいってるな)



「て、てめぇ……俺様に……こんな事して……ただで済むと……思うなよ」



「ただで済むな……ですか。では、更に上の人間に泣きつきますか? 力を封じられた異世界人にボコボコにされたから助けて下さいって」



 阿仁間に言われて気付いた上級騎士が、憎々しげに睨みつけるが、阿仁間の視線に耐えきれなくなり

目を反らして中級騎士達を睨んだ

 上級騎士に睨みつられて下を向く中級騎士達



「そうそうあなた方のパンチですが、大振りで隙があり過ぎですね。だから……」



「なんっ?! この……だっ?!」



 文句を言いかけた上級騎士の顔面ど真ん中にフックを食らわす阿仁間。

 阿仁間のパンチで顔面が陥没した上級騎士は、そのまま後ろに倒れてピクリとも動かなくなった

 阿仁間は腰を抜かしている中級騎士達に向き直り眼鏡を外したまま顔を近づけると



「パンチはな、こうやんだよ、分かったか?」



 突然ドスの聞いた声で言われて睨まれた中級騎士は、顔を真っ青どころか真っ白にしてコクコク頷いた

 満足そうに笑った阿仁間は、立ち上がり眼鏡を掛け直すと

 

「さてと、今度は貴方がたが僕の相手をしてくれますね。引き続きお願いします」


「えっ……あっ……いや……その……」



「し・ま・す・よ・ね」


 満面の笑みで言ってくる阿仁間に、この世の終わりみたいな顔で “俺、死んだ” と思いながら頷く3人だった

 

 その後、昨日の続きが行われたのだった。結局、3人は死ぬ思いはしたが、死ぬことなく終わった

 上級騎士も何だかんだと顔が戻りそそくさと逃げて行った

 

 夜になり食事を始める阿仁間。中級騎士を脅し……もとい頼んで、食事の量を増やしてもらった

 パンと飲み物以外に焼いた握りこぶし大の肉の塊とフルーツが1つ増えていた

 手を合わせて食べる阿仁間、ある程度食べると



「フォフォフォ、随分と魔力の扱いが上手くなったようじゃな」



「こんばんは。はい、貴方のアドバイスのおかげですよ。モルティファス宰相」



「おお、こんばんは。今は、元じゃな。ふむ、今更だがの、おぬしは儂の話を信じるんじゃな。嘘を言っていると思わんのか?」



 ご老人の声が聞こえて楽しそうに挨拶をする阿仁間



「そうですね。辻褄は合いますし、嘘は言って無いと思いました。

 それに、彼らと手合わせしてこの城の兵達の実力も、教えてもらった通りだと感じましたよ

 僕達の実地訓練と一緒に来てくれた実力のある騎士は、この城では一握りしか居ないこともね」

(最後まで僕達を守って気にしてくれた上級騎士の人は大丈夫だろうか? 無茶をさせられて無いといいけど……って、今は自分の心配をしないと)



「……おぬしは優しいの、それに強い。今は、辛抱の時じゃ。儂が言っても説得力ないかの。

 儂を敵視して、邪魔に思っておる帝王に魔王に通ずる者達に、ここへ追いやられてしもうたからな

 唯一の救いは、儂を慕ってくれとる貴族が多いから、無碍に扱われずにすんどることだな」



 モルティファスに返事をしながら



「はい、今はクラスメイトが居る限りはこれ以上目立つ訳にも行きませんが、時がチャンスが来たら動ける様にして行きますよ。

 それで、よかったら今晩もこの国について教えて頂けませんか?」



「フォフォフォ〜 勉強熱心な若者には応えねばなるまいな。何でも聞きなさい」



“ありがとうございます” とお礼を言って質問をする 『自称』インテリアオタクの阿仁間

 彼の夜はこうして更けて行くのだった


 そして彼女達は……


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