第80話  解析 阿仁間視点



 その頃、カイルド帝城にて


 阿仁間が囚われている地下牢で毎日殴られる音が響いていた

 阿仁間が日々殴られている……事はなく



「……全く、この程度で沈むとは、数日前のあの啖呵はどこに行ったのですか?」



「ぐっ……この……ガキが……どうなって……やがる」




軽く首を回しながら言う阿仁間を、片膝ついて下から睨みつける中級騎士

 顔以外をボコボコにされて肩で息をついていた

 毎日一緒に来ていた下級騎士の2人は意識を失って倒れていた



(本当に……どうなってやがる……最初の2、3日はこいつは何も出来ずに俺達のおもちゃだったんだぞ

 それが、殴ったら手を痛めるわ……逆にボコボコにされるわで訳わかんねぇ……)



 何が起こっているのか理解が追いつかない騎士

 そんな騎士を静かに見下ろしながら



(どうなってるか……この現状を打破しようとした結果ですが)



 眼鏡のブリッジを右人差し指で軽く 持ち上げて思い出していた

 阿仁間が最初にしたことは、ひたすら腕輪の解析が出来ないか試行錯誤する事だった

 自身の腕力で壊せないと分かり、牢に入れられた夜からひたすら魔力を感じ取れないか、腕輪にアプローチ出来ないかを繰り返していた


 日中は殴る蹴るの繰り返しで、意識が飛びそうになるがひたすら耐えて腕輪に集中していた

 変化は2日目の夜に起きる。一瞬だが腕輪の内部構造が透けて視えた。その後はまた見えなくなったが、阿仁間は何故見えたか考えた


 そして、気付いたのがスキルと魔力を封じる腕輪を同時に、解析しようとすることだった

 片方ずつでは完全に抑えられるが、同時なら僅かに弱まる事に気付く阿仁間

 そこから速かった。同時に見ていくが、先にスキル封じの腕輪を解除した


(これでスキルが使えますね。これは完全に賭けですが、解析を続けていたからもしかして……)



 半透明のスキルプレートを出して確認して思わずガッツポーズを取る阿仁間



「あっ痛ぅぅ……思わず力を入れてしまった……だが、スキルに【解析】が追加された。これで魔力封じも解除出来る。それと【心眼】【魔力強化】【魔力伝達】が増えている。」



 スキル【解析】を使い魔力封じの腕輪を解析した。それにより



「これで、魔法が使える。思ったより早く解析出来たがこれは【心眼】のおかげかな?……逃げ出そうと思えば行けるけど……今、下手に動いたら皆に迷惑がかかるな。取り敢えず腕輪は付けたままで、暫くは様子を見よう。

 魔力を全身に流せばダメージも軽減されるはず

 僕は、必ず日本に帰らないといけない。こんな事で潰されてたまるか」



 次の日は気付かれないように、魔力を全身に巡らして攻撃に耐え続けた

 全く折れる気配のない阿仁間を不思議に思う騎士達たが、[賢者] だからと勝手に納得していた

 その日の夜に新たなスキルが増えていた



「【魔力上昇(魔)】【身体上昇(魔)】【金剛】【強毅】……いきなり4つも増えた……魔力で身を守った影響だな。なら、彼らには少し訓練に付き合ってもらおうかな」


 阿仁間自身、この世界に来るまで独学だが体を鍛えたり、知人のジムで動きを見てもらっていた。


 翌日、何時もの様に殴り掛かった中級騎士の動きは、【心眼】の力かゆっくりした動きで見えていた 

 でも、昨日はあえて受けていたが今日は躱してみた


「なっ?! てめぇ、何躱してやがる! 巫山戯るんじゃねぇぞ!」



 躱された中級騎士は、怒り浸透で殴る蹴るを繰り返すが全てかわされた



「てめぇ……ちょこまかと動いてんじゃねえぞ。躱して良いと思ってんのか?!」



「ふむ……ならどうぞ」



 両手を広げる阿仁間。馬鹿にされたと思った中級騎士は右手で力の限り阿仁間の顔を殴った

 当たった瞬間に中々 大きな音が辺りに響いた



「い……いってぇー?! 俺の手がぁー! ぶべぇぇ!!」


 痛む右手を左手で掴んだまま膝ま付く中級騎士。

 【金剛】【身体上昇(魔)】のスキルで防御力を上げていた阿仁間には通用しなかった。

 更に、阿仁間の蹴りが胸に入り壁に叩きつけられる



「嘘たろ……」「どうなってんだ」



 呆然と呟く下級騎士の2人。その2人に



「どうせなら、お2人同時にどうぞ。その方が、僕も多少は訓練になりますから」



 笑いかけられた2人の騎士は顔を見合わせて左右同時に襲いかかったが



「いだぁぁ?!」「おぅえぇぇ?!」



 2人の動きを見て軽くため息をついた阿仁間は左から来た騎士にアッパーを、右からの騎士はフックをお見舞いした

 その一撃で、気を失う2人。自分の手と騎士達を交互に見ながら



(元からある程度はしていたけど、スキルの力でここまで変わるのか。

 まぁ、あの人の特訓に比べたら彼らは殴る蹴るだけだし、痛み以外は大した事ないけどな)



 考えながら中級騎士に近づいた。側に立ってる事に気付いた騎士は、顔を引き攣らせて後ろに下がった



(何だ、こいつは……昨日までと全然違うじゃねーか。まるで、上級騎士を相手にしてるみたいだ……

 何だよ?! 俺達のサンドバックでおもちゃじゃねーのかよ?!)



 いきなり得体の知れない何かになった阿仁間を呆然と見ていると、頭を捉まれて下級騎士の所に投げつけられた



「ぶぺぇ?! いで!」



「仕事はしないと駄目でしょう? 3人で来てください。僕も訓練になりませんからね」



 慌てて下級騎士2人を叩き起こした。目を覚まして構えるが、3人とも腰が引けていた

 完全に立場が逆転してしまっていた



「ああ、それと僕の相手が嫌なら、何時でも上に掛け合って下さい。引き止めませんから。

 尤もスキルも魔力も封じられた相手に、完膚なきまでにはやられたと、報告出来るならの話ですけどね」



(((そんな事、出来るかー!)))

 


 阿仁間に言われて同時に思った3人。そんな事言えば間違いなく処分される事が分かっている3人は、自棄糞になって殴り掛かった

 

 

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