第77話 暗部
シンヤが迎えに行ったエルファル達は、襲撃を受けていた
「お前たちは何者だ?!」
「だから、盗賊だって言ってんだろ!」
盗賊の頭目らしい男の攻撃を剣でいなしながら問うエルファルは返す刀で首を狙うが躱される
(この動きが盗賊だと?! 違うな……こいつらはブルーナ公爵が束ねる暗部の連中だ! )
相手と距離を取りつつ全体を見ようとしたエルファルに、左右から同時に斬り掛かる盗賊に扮した
あっさり受け止めて2人を弾き飛ばすエルファルの背後から、襲いかかる頭目の剣に蹴りを叩き込み蹴り飛ばした
(……不味いわね。主力が遠征から帰ったばかりで殆ど動かせないから、支援物資を運ぶだけだと思って、少ない人数で来たのが仇となるなんて)
A級冒険者としてエルファルとメーテルがメインで戦い、B級のガグエラが同じくB級のレイラの援護を受けながら戦っていた
D級のワイナが馬車の荷台に隠れて[回復魔法]で支援していた
拮抗していた戦いだったが、突然馬車からの悲鳴が聞こえて全員の視線が馬車に集まった
「おい、お前らこいつの命が惜しかったら武器を捨てろ。下手な動きはするなよ」
「なっ?! 馬車には魔導具で防御結界を張っていたのに、やはりお前たちは暗部の連中か?」
「……余り詮索はしないほうが身のためたぞ。どうするんだ?」
頭目を睨みつけながらも馬車にも目を向けるエルファル
馬車を見ると後ろからナイフを突きつけられた顔を真っ青にして震えるワイナの姿が見えた
(武器を捨てたらこいつらの思うつぼ……しかしワイナを見捨てるわけには……何かチャンスはないか)
中々、武器を捨てないエルファル達に対して頭目の男が一瞬、馬車にいる男に目配せすると
「おうおう、真っ青に震えて可愛いねぇ〜少しぐらい遊んでも構わなねぇよな」
肩においていた左手を服の中に入れて、更に顔が引き攣るワイナだが
「……ぶふぉっ?!」
そんな声と共にワイナを抑えていた男が馬車の後方に吹き飛ばされて動かなくなった
「わっ わっ?……ふぇっ?」
バランスを崩し倒れそうになるワイナを優しく支えたシンヤの顔を思わず見上げるワイナ
因みに男は刀の柄頭で吹き飛ばしていた
馬車の外にいた全員が一瞬の出来事に驚いて固まっていが
その中で暗部の頭目よりエルファルが早く動いて頭目の首を斬り落とした
残った一人が逃げ出そうと背を向けた瞬間シンヤが両足を切り落とすとエルファルが首を切り捨てた
「そいつから情報を聞かなくてよかったのか?」
「彼らはパールド王国のブルーナ公爵が束ねる暗部の者達です。諜報や暗殺を担当する裏の者達なので、聞き出すのは困難だと判断しました。
大方、ローザリンデ様に関する事だと思います。」
話をするシンヤとエルファル。メーテルとガグエラが残った死体の始末をしてレイラは馬車の中でワイナを慰めていた
「しかし、シンヤさん。随分と服装が変わりましたが、そちらが本来の姿てすか?」
「そうだな。ロードス王国で信用を得るのにこの姿で行ったんだ。王城と王都を解放させたから迎えに来たが間に合ったようだね」
その後は、シンヤとエルファルも手伝い出発の準備をしていたが
「この食材だが、もしかして毒が入ってないか?」
「ど、毒?! そんなことは……レイラ!」
呼ばれたレイラは【鑑定】スキルで見ていった
「確かに、入ってます。色々な毒が入れられてます……そんな、これはカイロス商会から手に入れた物なのに」
「ランドールのカイロス商会はローザリンデ様の息が掛かった者のみで構成されている。どういう事だ? まて、そもそも毒が入ってるのなら、何故私達を襲ったんだ?」
少し強張った表情で言うレイラ。話を聞いて眉をひそめるエルファル
「恐らく毒は君達を倒せなかった為の保険だろうな。
それか、君達を排除した上で暗部の者達が持って行く。
そして毒で弱った所をローザリンデ王女の名前を出して狙うつもりだったか
ロードス王国の王都の住人は毒に悩まされていたから効果てきめんか」
「何と言う……でも、これでは支援物資を持って行けませんね。1度、ランドールに戻るしかありません」
顔を顰めるエルファル
「それと、もしかしてカイロス商会に内通者が潜んでる可能性があるのではないか? 」
「それも、あり得ますね。ローザリンデ様に報告します。兎にも角にもランドールに戻りましょう」
話しているとランドールから馬車が近づく音が聞こえて警戒するエルファル達だが、気配を感じたシンヤは首を横に振る。馬車を見たエルファルが
「あれは、バルボッサ商会の馬車?!」
驚きの声を上げるエルファル。御者席に前に会った金髪エルフの店員と女性冒険者が2人座っていた
シンヤ達の前まで来て止まる馬車からまず2人の女性冒険者が降りると ”団長〜“ とエルファルに声を掛けて来た
次にエルフ店員が降りるとシンヤの所に行き綺麗な一礼をして
「お久しぶりでございますシンヤ様。ローザリンデ王女より承りました支援物資をお届けに参りました」
「ローザリンデ王女が? どういう事ですか? えっと……」
「私はロベリアと申します。今後とも宜しくお願い致します。ローザリンデ王女は、カイロス商会の不穏な動きに気付いて私共にご依頼なさいました。
ローザリンデ王女が情報を掴み、私共にお声掛けを頂いてから、少し準備に時間が掛かり遅くなりました。
もう少し早ければお力に慣れましたのに、申し訳ありません」
もう一度、頭を下げるロベリア
「そんな事はありません。支援物資を持って来て頂いてありがとうございます。2人もありがとね」
「そうだな。これで、直ぐに出発出来る。ありがとうございます。それと、1つ手を貸してもらえますか?」
(ロベリアさんか……この中で、俺を除いて1番強いな、エルファルさんより数段上だろう。元冒険者……では無いな、この気配は)
シンヤの話を聞いたロベリアやエルファルは驚いたが、直ぐに動いた
内容は、バルボッサ商会の馬車から馬を外してカイロス商会の馬車につけること
「あの……言われた通りしましたが、本当に馬車をシンヤさんが運ぶんですか?」
「その通りだよエルさん。まぁ信じられ無いだろうし論より証拠とも言うから実際にやるからしっかりつかまっていて」
エルファル達を乗せた馬車の前に立ち右肩で持つようにして軽く持ち上げたシンヤ
馬車の中から驚きの声が上がる
「う、嘘」「上がってる?」「しかも、片腕で上げてるよ」
「あたし救援で来たはずなのに何が起きてるの?」「僕に、聞かれても分かんないよ?」
頭上からの声を聞きながら
「ロベリアさんありがとう、色々助かったよ」
「これも、仕事ですからまた何かご入用でしたら当店にお越し下さい。」
頭を下げるロベリア。シンヤは頷くと、足に力を入れて踏み出した
一瞬で最高速で走り出せるシンヤが起こす風を受け
「嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉお?!」
瞬時に遠ざかるエルファルの絶叫を聞きながら
「平木様どうか御武運を……全てはローザリンデ様の御心のままに……この証拠は有効に使わせていただきましょうか」
少しの間見送っていたロベリアはカイロス商会の馬車を操作してバルボッサ商会に戻るのだった
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