第75話 一瞬
先にシンヤがパールド王国側の門で待っているとエルファルが声を掛けてきた
「お待たせしました平木様。リディーナさんはまだみたいですね」
「宜しくねエルファルさん。リディーナさんは少し用意があるがもう来るだろう。それで、後ろにいる人達が一緒に来てくれるクランメンバーかな?」
軽く頭を下げるエルファル。シンヤから聞かれたエルファルの後ろにいたメンバーが
「まず私から、先程ぶりですが【パルティノス・ローズ】副クラン長のメーテルです。【魔法使い】で一応、炎・土・雷の属性が使えます
もう一人副クラン長が居て残ってクランを見ています」
(【魔法使い】は【魔導師】の下位互換に位置する素質。それに三属性に火の上位である炎を使えるのか。)
自己紹介を聞きながらシンヤが考えていると、
「初めまして、レイラと言います。素質は【狩人】です。後方支援と荷物管理を担当します」
黒髪、黒目で弓使いの姿をした女性が頭を下げる
「次はアタシか。ドワーフ族で【戦士】のガグエラだ。宜しく頼むよ」
シンヤより背の高い体格の良い女性が手を上げて挨拶をする。その後ろから
「あの……【回復士】の……ワイナ……です。お怪我したら……治します」
被るフードに獣耳の形が見える青の髪に黄色のメッシュが入った140cmぐらいの犬獣人族の女の子が、ガグエラに隠れながら挨拶してきた
「改めて【パルティノス・ローズ】クラン長のエルファルです。エルと呼んで下さい。
このクランはローザリンデ王女の指示で発足したクランで、女性メンバーのみで出来ています
宜しくお願いします」
「こちらも、平木 靱平です。大勢の人がいる前ではシンヤで呼んで貰えると助かる。」
頭を軽く下げて挨拶するシンヤ。そこに、全身をフードで隠したリディーナが表れた
「私の為なのに遅くなりごめんなさい。少し目立つ恰好なので暫くはこのままで行きます
今回は宜しくお願いします」
深々と頭を下げるリディーナ。それぞれの返事をしてエルファル達が用意した大型の馬車に乗りロードス王国に向かった
ある程度 進んで、周りに人影が見えなくなって
「先程 話した様に、リディーナさんを担いで先にロードス王国に向かいます
皆さんは援助物資を運んで来てください」
「シンヤさんに運ばれるのは初めてですね。話には聞いていましたが、少し緊張します」
ロードス王国王家の女性騎士の鎧姿のリディーナが緊張した面持ちで話すと
「分かりました。この援助物資もロードス王国が解放されないと、真に役立たないと思います。
私達が、確実にお届けします」
シンヤは頷くとリディーナを背負った
「じゃ、後で会おう」
言った瞬間、エルファル達の前から音もなく姿を消したシンヤ
「……えっ?」「……はっ?」「おぅ?」「すごっ?!」
同時に驚きの声を上げる4人。因みにワイナは荷台に隠れていたので気付いていなかった。
4人の驚きの声が聞こえて顔だけ覗かしていた
「まさか、音もなく一瞬で消え去るなんて……姿も見えなかった」
「【狩人】のスキルにも全く反応しなかったわ。これが、伝説の力の一端……」
「すっげえな。一度手合わせしてみたいぜ」
「……手合わせする前に終わるわよ……多分」
思い思いの事を話す4人だった
シンヤ達は隠密ローブを被りパールド王国とロードス王国の国境を軽く超えてロードス王国内に入っていた
「国境封鎖はしていたが、警備の者が居ないのはどういうことだ? それだけ、いい加減になってるのか?」
「パールド王国から見たらロードス王国は弱小国ですから。しかも、人の流れが無ければまともに警備もしないのでしょう。
ここら辺は魔物も余り現れませんからね」
シンヤの背中で平然と会話を交わすリディーナ。
「なるほどな。後、もう少しでつくから心の準備はいいか?」
(流石にSランク冒険者でギルド長だけあるか。平然と話しているな)
「はい、覚悟は出来てます。何時でも行けます」
(何これぇぇ?! すっごい気持ちいぃぃぃ! こんな速いの初めてぇぇ!……って、浮かれてる場合ではないわ。気持ち引き締めないと)
ロードス王国の王都ヘルミアの手前で止まったシンヤ達。物陰から様子を伺うと
「毒は王都のみ蔓延してるな。他には広がってないからやりようはあるが……大丈夫か?」
「大丈夫……です。ただ……」
王都に入る門の前に多くのテントが張られている野営が見えた
そこに、多くの人影が見えてリディーナの顔が強張る
「私がランドールの安全な所にいる間、残っている皆はこうして頑張ってる……私はどう言う顔で会えばいいのでしょう……」
「文句を言われるか 喜ばれるか 貶されるか 受け入れられるか分からない。でも、会いに行かないと始まらないよ
覚悟は出来てるんだろう。側に付いてるから行こう」
シンヤを見てからゆっくりと深呼吸をするリディーナ。覚悟を決めた顔になりフードを外すリディーナ
ポニーテールの髪は卸して王家の紋章が入った髪飾りをつけている
鎧はミスリルで出来て見栄えと実用性を兼ね備えていた
物陰から出てゆっくり野営に近づくリディーナ
その時、テントの一つから袋を抱えたメイドが1人出てきた。その姿を見たリディーナは
「……アンナ」
「えっ?……まさか……そんな……」
持っていた袋を落とすアンナと呼ばれた女性。口元に手を当てて暫く呆然としていた
いきなり走り出してリディーナの腰に抱きついた
「レティシア様ですね! ああ……もう亡くなられたものばかりだと……この様な立派なお姿になられて……レティシア様!」
「アンナ……遅くなってごめんなさい。ただいま帰りました」
抱き返すリディーナは薄っすらと涙を浮かべていた。暫く感動の再開を喜んでいた2人
アンナはリディーナから離れて
「こうしては居られません。直ぐに皆さんにお知らせしないと……呼んで来ますね」
野営に向けて走り出したアンナを見送り少し暗い表情になるリディーナ
(……アンナは喜んでくれたけど、他の者はどうだろうか……”今更帰ってきて“ ”どの面下げて“ など、色々言われるのでしょうか。既に、覚悟は決めてるのに……)
思わず目を瞑り罵声や文句を想像してしまうリディーナ
「レティシア殿下! お戻りになられたのですね!」
「……えっ?」
声が聞こえて恐る恐る目を開けるリディーナ。
すると目の前に広がる光景は、人々が喜びに溢れかえっているものだった
「レティシア様が帰って来られたぞ! こんな立派なお姿で……」
「王妃様の若い頃にそっくりだ」
「神は私達を見捨ててなかったのね!」
皆が喜びの声を出したり、嬉しさの余り涙を流す者、抱き合う者などがいた
「みんな!……今まで、ごめんなさい。そして、頑張ってくれてありがとうございます
それも今日までです。お父様方を助け出し国を、解放します!」
「「「うぉおおおおおお!!」」」
次の瞬間、皆が一斉に声を張り上げた。
その中の一人が疑問に思った事を聞いた
「あの……レティシア様? どうやってあの毒霧を消すのでしょうか? 魔法でも解毒出来ませんでした」
「調べて分かったのですが、王城にこの毒霧を発生させて お父様達を封じてる者が居ることがわかったのです。そのもの達を倒すと消えます」
リディーナの話を聞いて驚きの声を上げるみんな
「そして、私達に強力な味方がついてます。
みんなは信じられるかわかりませんが、千年前に魔王を倒した勇者パーティーの1人、【武神】平木 靱平様が女神アルフィーナ様によって遣わされました」
「何だって?!」「そんな事あるのか?」「でも、レティシア様の言うことだし……」
などの声があちこちこら聞こえたので、リディーナは物陰にいる
「……えっ?」
表れたシンヤの姿を見て、小さく驚きの声を出したリディーナ
シンヤの姿はこの時代に召喚された時の格好をしていた
青色と白色の生地に所々、金の縁が入っている袴を着ていて右手には【輝煌一文字】を抜いて持っている
「レティシア王女から紹介された平木 靱平です。時間が勿体ないので、詳しくは終わってから説明します……これが、本来の正装だよ」
皆に説明した後に、小声でリディーナに服を話すシンヤ
小さく頷いたリディーナはシンヤの前に立ち門の前まで進んだ
集まったみんなは真ん中に道を開けていく
シンヤの姿を見た人々は
「あんな格好見たことないぞ」 「あの武器の輝きはもしかして今はないあの鉱石か?!」 「じゃあ本物?」 「俺達、助かるんだ!」
色々な声を背に受けて門の前に行くシンヤ
「ここから一気に王都の毒を消して王城にいる犯人を倒します」
言うと、刀を顔の前に構えて目を瞑り集中するシンヤ。
シンヤの話を聞いて驚くが直ぐに黙った
集中するシンヤの足元から、地面に波紋が広がり静かに地響きが起きていた
(ターゲットは毒霧の消去……王都の建物は見えた。次は王城の魔族……数は2人……捉えた!)
ゆっくりと目を開けるシンヤ。同時に、刀の七色の光が強さを増していく。刀を頭上に構えて
「行くぞ! ハァァ!!」
一気に刀を振り下ろすと膨大な七色の光の奔流が王都と王城を吹き抜いた
余りの眩しさに、シンヤ以外のみんなが目を閉じる
少しして目を開いたリディーナが
「ど、毒霧が消えている……しかも、建物は何もなってない……」
「王都の建物に王城はこの攻撃で一切被害は受けて無い。
毒霧を消して王城にいる犯人を吹き飛ばしたから問題無い」
「……こんな広範囲を……一瞬で消せるなんて……犯人も倒した……凄い……」
今だ声が出ない国民に変わり、驚きの声を漏らすリディーナ
「これくらい出来ないと、魔王は相手に出来ないからな」
言うシンヤを驚きの表情で見るリディーナであった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます