第72話 過去
今より千年以上前、
この世界に召喚され着実に実力を身に着けていたある日、三大公魔爵の1人バルリードとの激闘を繰り広げていた
千年後の世界に召喚されたシンヤなら1対1で戦えるが、この時のシンヤ達はまだ成長途中であった
拠点にしている王都に襲撃を仕掛けてきたバルリードを迎撃するため迎え撃つ
三日三晩の激闘の末、何とか倒すことに成功した4人は半殺しに近い状態だったが、騎士団の回復術師達の[回復魔法]で治療を受けていた
そこへ1人の伝令が入って来る
「勇者様達にご報告します! ミルディナ領にて魔王軍が侵略してきました! 現在、ミルディナ辺境伯が応戦しています」
一瞬で辺りが緊張に包まれた。それは勇者パーティー4人も例外では無い。ただ1人権蔵は除いて
伝令を下がらせた勇者の勇助は皆に
「今すぐ援軍に向かおう。皆、準備は良いか?」
「ああ、こっちは何時でも行けるぜ」
自分の拳と拳をぶつけて言う武道家ジャッド・アルティエルのアルが言うと、魔導師と聖女の2つの力を持った賢者バルゴザ・マルティスのマルティと靱平が頷いて立ち上がった
「まて、行ってはならん。その方らが今すべきことは、体を休め万全の状態にするとこじゃ」
「翁! だが、助けを求めている人がいるんですよ?!」
待ったをかけられ驚きの声を上げる勇助。待ったをかけたのは勇者パーティーの付き人兼師匠でもある権蔵である
御年70になるが、年齢を感じさせず顔を見なければ40代と思える引き締まった肉体をしていた
「ちょっと待て爺さん! 俺達は、傷も回復したし何時でも……ぐぇ?!」
「何時もならこの程度は、止めるか避けるか出来るじゃろう。それだけ注意散漫になっておる。
ここの所の連戦とバルリードの戦いの疲労は抜けきっておらぬ。
魔王軍の規模もまだ分からぬ状態では、何が起こるか分からぬぞ。王に増援を送るよう進言する
万全の態勢にしてから行く。よいな」
お腹を抑えて恨めしそうに見るアル
権蔵は全員を見ながら言うと莞爾を見せた
それから一週間後にミルディナ領へ入った勇者パーティー
王国の増援とミルディナ辺境伯の軍隊で、ミルディナの主要都市は被害はなかったが、周辺の村や町には被害が出ていた
その中で、被害が大きく魔王軍が集中していた村に救援に入った靱平達
魔王軍はそれほど強く無かったので、直ぐに全滅させる事が出来たが
「村人の半数近くが犠牲になった……か。」
「はい。ですが、勇者様方が来て下さらなかったらもっと被害は拡大していました。ありがとうございます」
村の一角に遺体が集められそれぞれに布が被せられていた
靱平はそこで、老人の村長と話していた。
すると、突然1人の女性が靱平の服を掴んで睨みつけて来た
「何で……何でもっと早く来てくれなかったのよ?! そうしたら……!!」
「なっ?! 止めなさい!」
慌てて村の数名の男性が引き剥がそうとするも必死に抵抗する女性
靱平は手で男性達を制した
「申し訳ない。俺達にも色々とあったのです」
「だから……だからって……魔王の幹部を倒したって聞いたわ。その力があるならもっと早く来れたでしょ! 倒せたでしょ!
実際、あっという間に倒したじゃないの!!
もっと早く来てたら、あの人は……っ!
この、人殺し!!」
「……っ?!」
「なっ! やめろ!」
慌てて女性を引き剥がす男性達。体格の良い男達に引き摺られる様に運ばれた女性を見送ると
「も、申し訳ありません! 平木様!」
村長は深々と頭を何度も下げていた
「大丈夫ですよ。所で、先程の女性の身内が殺されたのですか?」
「はい……あの娘は先週、村の幼馴染と結婚しましてな。幼馴染は村で兵士をしておりました
先程の魔王軍の襲撃で村を守るために命を落としたのです」
「そう……ですか。一歩間に合わず申し訳ないです。冥福をお祈りします」
頭を下げる靱平。驚いた村長は ”頭をお上げください“ と言うと、暫くして頭を上げた
そして、少し村長と話をして別れた靱平は教会に向けて歩いていた
勇助は、村に駐留している軍の隊長と話をしていて、マルティは怪我人の治療をしている
アルは……まぁ色々としていた
靱平は教会に向かう間
(俺達にもっと力があり、バルリードを早く倒せていたら……あそこまで、ダメージを負わずに倒せていたら、もっと早くここに来れた
そうしたら彼女の旦那は死なずにすんだんだ!)
考えながら、教会に入ると1人の老婆が祈りを捧げていた
邪魔にならない様に、音を消して扉を閉めると離れた位置で立っていた
祈り終わった老婆が立ち上がり後ろを振り向いて靱平に気づいた
「これは、勇者様パーティーの……村を守って下さりありがとうございます」
丁寧に頭を下げた
「あっ、いえ……ここで、亡くなった方の冥福をお祈りしていたんですか?」
「ええ孫が亡くなりまして……息子夫婦を流行り病で早くに亡くして、息子夫婦が残した兄弟2人と暮らしておりました。
亡くなったのは兵士になった兄の方でここで先週、結婚式を上げたんです。
村の皆に祝福されて、それは幸せな結婚式でした」
話を聞いて息を飲む靱平。先程の女性の顔が脳裏に浮かび、自然と手を握りしめていた
「俺達がもっと早く来れたら命を落とさずにすみました。申し訳ありません」
「そんな……頭を上げて下さい。貴方様方が来て下さらなかったら、私らは皆死んでおりました。
感謝こそすれ非難を言う謂れはありません
この村をお守り下さりありがとうございました」
もう一度 先ほどより深く頭を下げた老婆は、教会を出ていった
祭壇に近づくと青い花の花束が置かれていた。花束を見ていると、後ろから声をかけられた
「のう 靱 よ。お前さん自分をせめてはおらぬか?」
「……師匠」
ゆっくりと振り返ると、権蔵が長椅子の端に座っていた
「それは……そうですね。俺にもっと力があれば助けられたと考えていました」
「ふーむ、お前さんを含めてみな、順調に力をつけておる。現にこの村を守り多くの命を助けておる
それにまさか今のお前達で、三大魔公爵の1人を倒せるとは思っておらなんだ。倒せた事は誇っても良いぞ」
師匠である権蔵に褒められても浮かない顔をしていた靱平
「……どんなに力をつけても助けられた命より、助けられ無かった命の方が多いです。
俺は勇助達の様な専用スキルは持ってません。【剣聖】【魔導】【治癒】【武動】も無ければ召喚されたときスキルの数で俺は15でしたが、彼らは20以上備わってました」
「しかし、それらを補い跳ね除ける程の修行をして、あの子らと遜色無い実力を身に着けておる
今の勇者パーティーにお前さんは必要な存在じゃ
この時代は大陸の各地で戦争が起こっておる。助けられるだけ大したものよ。
そして助けられる命を増やして行けば良い。
儂が常に言っておることは覚えておるな?」
優しく笑い孫を見る様な目で靱平を見ながら、聞く権蔵に
「……自分の中に自分を見つけて自分であり続けようとする……ですね。
見つけようとしていますが、まだ見えていません」
「そうじゃな。目標や目的とは違う。自分の芯とも言うが違うとも言える。
いずれ魔王と戦うときの最後の一押になると儂は思うておる。いつか靱にも見える時が必ずや来る
安心せい。」
権蔵を見て静かに頷く靱平
「さて、他の町や村も魔王軍の襲撃を受けておる
勇助の話が終わりマルティの治療が完了次第、次の場所に向かうぞ。アルは既に確保しておるから気にせんで良いぞ」
「フフッ……分かりました」
アルの話で思わず笑みが溢れる靱平。笑顔を見れて頷いた権蔵は先に教会を出た。
靱平は振り返り祀られている女神像を見ると一礼して教会を出たのだった
「……さん」
「…ンヤさん」
「…シンヤさん、起きてもらえますか?」
「……っん?……夢か……」
リリィに呼ばれて目を覚ました
辺りをゆっくり見回して、柱を背にして眠っていた事と、毛布がかけられているのに気付いた
「どうやら眠っていたみたいだね。毛布はリリィさんがかけてくれたのか?」
「はい、最初は布団を用意してと思いましたが、起こしてしまうので毛布を掛けました」
毛布を持ちながら立ち上がるシンヤに頷くリリィ
「あの、アリュード殿下が調べた事について相談があるそうで声を掛けました。おやすみ中にごめんなさい」
「大丈夫だよ。ありがとう、アリュード殿下の所に行ってくるよ」
毛布をリリィに渡してアリュードの所に行くと、アリュードとガーランドが起こした事を謝ってきた
気にしてないと手を振るシンヤにアリュードは頷いた
そして、調べて分かった事を話して今後の動きを相談したのだった
「では、その方針で行こう。少し此方の動きも早めた方が良いだろう。俺はこれからランドールに向かう。
暫く戻れないから、何かあったら電話板で連絡をしてくれ」
「これからランドールに行くのですか? シンヤさんなら夕方頃には着きそうですが……分かりました。また、連絡します」
驚くアリュードだが、直ぐに頷いた
「所でアリュード殿下。俺の言った自分について考えてみたかな? 殆ど時間が経ってないけどね」
「えっ? あ、はい一回考えてみましたが、全然です。ごめんなさい」
「謝る必要は無いよ。でも、この自分は今後に向けて大事になってくる。
ずっと考えなくてもいいが、時間が出来たら考えて向き合ってほしい」
”分かりました“ と力強く頷いたアリュードは、頭を下げてガーランドと共に離れて行く
その後ろ姿を、見つめながら
(時代が変わって変化するものもあれば、変わらないものもある……俺は俺の為すべき事をしていこう)
考えていたら、遠慮がちに服の裾を引かれて振り返ると
「あの、シンヤさん大丈夫ですか? ボーッとしてるみたいでしたから。もし疲れているならもう少し休みますか?」
「ありがとう、俺は大丈夫だよ。リリィさんこそ、これから忙しくなるから休めるうちに休んでね」
「はい、分かりました。でも、私は大丈夫です。料理を作るのがメインですから、今の所はそれぐらいしか出来ませんからね」
シンヤはゆっくりと首を横に振って
「食事は生きていく上で、最も大事だから卑下する事はないよ。食べられなければ戦いは続けられないし、美味しい食事は活力にもなる
リリィさんには感謝しているよ」
「あ、ありがとうございます。面と向かって言われると照れますね。それから、私の事はリリィで呼び捨てで呼んで下さい
さん付けだと違和感があって……お願いします」
少し顔を赤くするリリィ。呼び捨てで呼んで欲しいと言われて頷いたシンヤは、リリィに軽く手を振ってランドールに向かうのであった
その頃……
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