第71話 束の間の
天井から上に出たシンヤは地面に手を当てて、ピアストとゴブリンの居る部屋の音が漏れないように、気力を部屋全体に流し【消音】スキルを合わせて音を遮断する
「助かった……んですよね」
「そうだよ。今、警邏隊長と団員がこちらに向かって来ているから少し休もうか」
「お父様が……あと、あの男の声を遮断していただきありがとうございます。聞くに堪えない声でしたから……」
確かにと言う事なのかステラの意見に頷くリリィとサリーナ
「シンヤさん、ありがとうございます。その、いつも攫われてしまってごめんなさい」
「それは、仕方ない事だな。砦はアリュード殿下の元で再編成をしている。
不穏分子は全て居なくてなったから今後は大丈夫だよ」
申し訳なさそうに言うリリィに、優しい笑みをかけるシンヤ。
「それと、変装リングを拾ったから付けるといい」
「ありがとうございます……ですが、私はこの姿で砦の皆さんと会おうと思います。
その……まだ、恐怖は残ってますが、少しでも自分を隠すことなく私自身の自分を出して行きます
自分の中に自分を見つけて逃げずに……進むために」
リングは受け取らず真っ直ぐシンヤの目を見て言うリリィ
その瞳は今までの迷いはなく1つの決意を灯した目をしていた
力強く頷いたシンヤは
「分かった。ても、この変装リングは一応持っておくんだ。砦は大丈夫でも、他の町の者たちはどう反応するか分からないからな。
作戦の為にも必要になる時はある」
「そうですね。私の我が儘で皆さんに迷惑掛けられませんし、分かりました。ありがとうございます」
言われたリリィはリングを受け取った。横からステラが
「あの……1つお聞きしたいのですが、私は平木様をどうお呼びしたら良いでしょうか?
シンヤさんの方が良いですか? それと接し方もです」
「そうだな……ザンバーガから帝国に知られるだろうが、俺の名を聞いても実際に見ているザンバーガの力に、取り憑かれてるだろうから知られても構わないと思う。
でも、念の為にシンヤで呼んでくれたらいい。接し方も前と同じで良いよ」
ステラは“分かりました” と返事をして頭を下げ
「それと、この腕輪が外れないのですが、どうしたら良いですか?」
「それは、他人の異なる魔力と繋がるので外す為に、それぞれ魔力の繋がりを解くのに時間が掛かる
だからすぐには外せないんだ
説明の時間が無くてごめんね。外すのは、もう少し詳しく説明するから聞いてからにして欲しい」
頷くステラ。それから、詳しい説明をするシンヤ
話を聞いたステラ達はお互いに顔を見合わせていた。
「話を纏めると、この腕輪は魔力の質が似ていないと発動しない
私とサリーナはステラと魔力の質が似てると感じたからつけて実際そうだった
そしてこの腕輪をつけて一緒に行動していると、私やサリーナも魔法が使える可能性がある
で、良いですか?」
「その通りだな。異なる魔力と繋がり刺激を受けて、更に魔力を鍛える必要があるよ
鍛え方は、指導の本があるから見ながらすると良い。でも料理をしながらになると、大変だと思うけど大丈夫?」
補足を付け足しながら話すシンヤ
「私は、大丈夫です。むしろやりたいです。少しでも強くなって自分の身は守れる様になります。これ以上、攫われるのはごめんです」
「私もですね。複合魔法を完璧にするためにもお願いします」
「私は……2人の力になれるなら頑張ります。目指してるのは、砦の料理長なんです」
3人がそれぞれの決意を話していると、遠くから此方を呼ぶ声が聞こえる
振り向くと、アリュードが手を振っていた
「なっ?! アリュード殿下?! 砦を離れられ無いはずでは? それに、ユイナさんまで来るなんて何かあったのか?」
「トールベンのお陰で、ここに来れました。砦は大丈夫です。俺は、実際この目で見るために来ました。
ユイナさんは、俺が来るので一緒に来ました。後は、経験を積む為ですね」
「邪魔にはならない様について来たつもりです」
「ユイナちゃん、日々目に見えて強くなってるから森の魔物ぐらいは大丈夫よね〜」
それぞれの話を聞いてると、アリュードの護衛でついて来たクリエーナが驚きの表情で言ったのを聞いて恥ずかしそうな雰囲気になるユイナ
ガーランドはピアストが居る部屋に部下を連れて降りていった
「あ、あの、皆さん……私は……」
「あれっ? リリィさん、元の魔族の姿でどうしたんですか?」
「元って……もしかして気付いてたのですか?」
リリィの魔族の姿を見て聞いてきたアリュードに逆に驚くリリィ
「俺は、クリエーナ達のお陰で分かったけど、事情があるのも知ってるからね。他にも気づいてる者は居たよ
でも、ここ数日でリリィさんの人柄は見てきたし気にしなくていいってなったんだ
どんな姿でもリリィさんに変わりないからね」
シンヤ達は皆頷いていた。ユイナも最初は驚いた雰囲気だったが、アリュードの話を聞いてその通りと思い頷いていた。
そして、嬉し涙を流したリリィは
「ありがとう……ございます……皆さん」
「あの……シンヤ殿、話している所に申し訳ないが下に居るピアストですが、あれは一体?」
上に戻ったガーランドが困惑した顔で聞いて来た。
複数の部下も見たのか困った状態になっている。
気になったアリュードとユイナが見ようとして、状況を察したクリエーナがやんわりユイナを止めた
下を見たアリュードは、少し固まってしまった
シンヤは苦笑いしながら今までの事を話すと
「ザンバーガ自ら来るとは……これで、向こうにもシンヤさんの存在が知られましたね」
「ああ、でも、俺の存在が知られてもザンバーガの力を見ているからそこまで危険視されないと考えられる、油断は禁物だけどな
その状態で、俺を危険視して来る人物はわかりますか?」
シンヤの話を聞いて考えるアリュードとクリエーナとマーメイン
ガーランドは指示を出すために話を聞いて下に降りていた
「先ずは、シクリーニ候爵ですね。ランドールの件をシンヤさんと繋げるでしょう
後は、帝王の動きによって変わりますね」
アリュードの意見に同意するクリエーナとマーメイン
「そうか……何んにせよ1度ランドールの冒険者ギルドに行くから注意をしたほうが良いな」
「シンヤさんなら大丈夫と思いますが気をつけて下さい。それで、リリィさんが魔族の姿でいることに、雰囲気も変わった様に見えますが何かありましたか?」
女性陣で話しているリリィを見ると、こちらの話が聞こえてたのか真剣な表情で頷いたので、先程の話をするシンヤ
「そんなことが、あったのですね。自分の中に自分を見つけて自分であり続けようとする……何か哲学みたいですね。強くなる秘訣ですか?」
「秘訣とでも言うのかな? 絶対に壊れない芯と言うのか……言葉で伝えるのは難しいな。
これは、その人で見つけるもの……感じるものだからな」
「俺も、見つけたいと思います。自分の中にある自分を」
力強い視線のアリュードの目を見て頷くシンヤは
「そう言えば、女性を侍らす女好きを演じなくていいのか? それとも、ここにいる皆は大丈夫なのかな」
「それですか、砦も1枚岩になって来ましたから。それに、ザンバーガにシンヤさんも含めて此方の状況は知られてます
なら、演技はやめて本来の姿で行きますよ。やられっ放しは、性にあいません
カイルド帝国第一皇子として帝国を取り戻します。帝国民の皆をこれ以上、悪意に虐げさせられる訳にも行きません」
意志の強さを固めた瞳でシンヤを見ながら言うアリュード
1つ頭を下げてガーランドの所に、行ったアリュード
見届けたシンヤは、後方部隊が設置した野営のテントの1つに入ると、柱に背を預けて座った
「ほぼ徹夜で動いたからな。少し休むか」
野営に居る兵から水筒を受け取ると、一口飲んで目を瞑るシンヤであった
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