第69話  やられたら?



 天井から降ってきたシンヤに睨まれていたピアストが



「何故だ?! 何故この場所が分かったのだ?! 隠蔽の魔導具は完璧だったはず!」



「俺からしたらバレバレだったがな」



 言われて怒りに湧く表情になるピアストだが、直ぐに冷静になると



「まぁ、良い……そちらから出向くとは好都合と言うものでしょう。この娘が……なっ?!」



 右手で掴んだリリィの髪を引っ張り上げようとして感触が無いことに気付き慌てるピアスト

 シンヤを見ると抱きかかえたリリィをステラ達の側におろした

 手錠 足枷を壊すシンヤ



「シンヤさん、ありがとうございます……それと、ごめんなさい……」



 お礼と謝罪を言うリリィの頭を優しく撫でるシンヤ。優しい表情で見るシンヤに



「あの、私達もありがとうございます。ですが、リリィまだ敵の中にいるから安心するのは早いわよ」



 若干顔色の悪いステラが言うと頷くリリィと“そうだな”と言って3人を庇うように立つシンヤ

 シンヤの前には不敵に笑うピアストが近づいていた



「トールベンを負かした貴方と真正面からやり合う気はありません。ここはザンバーガ様のお力で作った私の場所です。

 奥の手で貴方の相手をしましょうか」



 シンヤは3人を抱きしめてその場所を離れた。

 驚いた顔になる3人だが、次の瞬間シンヤ達が居た後ろの壁を吹き飛ばし何者かが部屋に入って来た

 


「何……あれ?」



 入って来た者を見たステラが震える声で呟いた

 大きさはゴブリンロードよりも一回り大きい色々なゴブリンを組み足して作ったゴブリン版のフランケンシュタインに近い継接ぎゴブリンである

 


「ゴブリンエンペラーに変わるゴブリンを作ろうとした際の失敗作の1つですね。

 失敗と言っても知能がつけられ無かっただけで、それ以外は貴方が倒したゴブリンロードの能力を全て上回りますよ

 勿論、繁殖能力も上回っていて、本能的に貴方が苗床を攫ったと認識したみたいですね~ヒヒヒヒヒ」



「な……苗床?……わたし達が……」



 楽しそうに笑うピアストの声を聞いて呆然と言うサリーナ



「そうですよ。実力はゴブリンエンペラー以上でしょう。如何に貴方と言えども勝つのは……あっ?」



 不敵な笑いを浮かべたまま固まるピアスト

 シンヤが投げつけたが腹に刺さって、更には投げた勢いでグレードソードで壁に縫い付けられて身動きが取れなくなるゴブリン 



「な、な、な……馬鹿な……」



「これで、エンペラーとはな。貴様は実際に見てないにしてもエンペラーの力には遠く及ばないな」



 口をパクパク動かして声にならない声を出すピアスト

 何が起きたのか分からず同じ顔で呆然とする3人



〘……例え本物のゴブリンエンペラーとて、この男は止められぬ〙



 ゴブリンが壊した壁の奥からくぐもった声が聞こえてシンヤ達はそちらを向いた

 ピアストは声の主が誰か分かり臣下の礼を取る

 地響きと共に表れたのは、先程と同じゴブリン

 だけど、先程と違いその目には知性の色があり威圧感があった

 思わず2〜3歩後ずさるリリィ達3人

 ゴブリンはシンヤの方を見ると



 〘久しいな 【武神】平木 靱平〙



 「……ザンバーガ」



「えっ? ザンバーガって旧魔王幹部の名前じゃ……」



 魔王幹部の名前を聞いたリリィは困惑した顔でゴブリンを見た。ステラ達も驚いてゴブリンを見る



「ザンバーガと言っても本体じゃない。意識と魔力でゴブリンを操ってるんだ」



〘いかにも……さて、ピアストよ。随分と好き放題やられたようだな。〙



「はっ! 申し訳ありません。成功したゴブリンロード達も倒されて他の事も……言い訳のしようもありません」



 深く頭を下げるピアスト



〘まぁ、仕方あるまい。あの男が相手ではな。今回は私が相手をしてやろう。下がっておれ〙



「はっ! 畏まりま……ブギャァ!」



 ピアストの側まで近づいたザンバーガゴブリンはピアストを天井に空いた穴から外に蹴り飛ばした



「随分な扱いようだな」



〘所詮は捨て駒の1つ、ましてや使えぬゴミなどどうでもよいわ。

 それよりも、久しぶりの手合わせ……楽しませてもらうぞ!〙



 言った瞬間、暴風に似た魔力が吹き荒れ天井や壁を吹き飛ばした

 吹き飛ばされ瓦礫となった一部がリリィ達にも襲いかかるが



「 [ウインドーシールド]! 」



 ステラの放った風の膜がシンヤを含む4人を護った



「かなり魔法の扱いに慣れてるんだな」



「はい、我が元公爵家は魔法を得意とする一族です

 私が公爵令嬢だった母から受け継いだ魔法は風と火の2つです。攫われた時は不覚を取りました」



 魔法が得意と聞いて納得するシンヤ




「ここで、防御の風を維持していてほしい。出来るかな?」



「はい、出来ます……御武運を平木様」



 三者三様で見てくるステラ達に軽く手を上げてザンバーガの所に行くシンヤ



〘別れは済んだか?〙



「よく言うな。お前もそんな借り物の体で俺を倒せるとは微塵も思ってはないだろう」



〘まぁ、確かにな。肩慣らしも含めて、少しは楽しませて貰おうか!〙



 魔力を火 風 雷 氷 とあらゆる種類に変えてシンヤに打ち出したザンバーガゴブリン。

 対してシンヤは全て切り払い一瞬でザンバーガゴブリンの後ろに回り首を狙うが、ザンバーガの魔力で強化された腕が受け止めて弾き返す

 そのまま近接戦闘にな斬り込むシンヤの刃を全て防ぐザンバーガゴブリン

 数回打ち合うとお互いに距離を取った



〘ふぅむ……存外に脆い体だな。私の魔力に予想以上に耐えられぬようだ。ところで今思い出したが、お主が使っておる刀はかつてゴンゾーが使っていた物か?〙



「お前が師匠の事を覚えていたとはな……驚きだよ」




〘忘れわせんよ。お主達の勇者パーティーに随行しておった者であり人間とは思えぬ強さだったな。

 お主らもたいがいだかな。さて、おしゃべりはこれ位にして、最後の一撃と行こうか。次の一撃で最後だ!〙



 上空に上がり魔力を集約させるザンバーガゴブリン。先程の数倍以上の魔力が暴風となってザンバーガの周りを吹き荒れている

 シンヤは1度ステラ達の所に下がると



「皆大丈夫か?」



「私は大丈夫です。ずっと風の壁を張っているステラさんはどうでしょうか?」



「リリィこれくらい私は大丈夫よ。まだまだ行けるわ」



「私も大丈夫です。何もしてませんが、応援は精一杯してます!」



 それぞれの返答に頷くシンヤ。ステラの顔を見ると、たしかに余力は感じられた。



「ステラさん確かにまだ行けそうだな。なら、ザンバーガのトドメを任せていいかな?」



「は……い? えっ? えぇ?! とどめ?! でも先程、最後の一撃と言ってましたよ! なら必要ありませんよね! それに私の魔力ではとどめを刺せませんよ!」



「あいつはそう言ってるが、間違いなく最後ではない。動ける状態を維持してやり返してくる」



「そ、そうだとしても私の魔力では無理ですよ」



「俺に、考えがある」



 言ってマジックボックスから3つの腕輪を取り出した。何もない空間から取り出して驚く3人だがそれどころでない

 そして、3つの腕輪の説明とこれからの事を簡単に説明したシンヤ

 話を聞いた3人はそれぞれ腕輪を付けた



「話は分かりました。この腕輪が私達の魔力を繋げて私の魔力にできるなんて驚きです。

 確かに2人の魔力を感じます。これなら火と風の複合魔法が撃てそうです」



「私にも魔力があったなんて驚きです」



「これなら、私も力に慣れそうです。もう逃げないと決めましたから……最後まで踏ん張ります」



 シンヤはリリィの逃げないと言った時の覚悟を決めた顔を見て頷くと、他の2人の顔もそれぞれ見てから


「狙うのは胸の中心にむき出しになっている魔力の塊だ。それを壊せば奴は倒せる。

 魔力は意識すれば感知が出来るから、それに狙いを合わせて魔法を撃てば外れる事はない。任せたよ」



「……分かりました。必ず成し遂げます」



 緊張した顔で頷くステラ。“大丈夫、必ず出来るよ”と言って笑いかけたシンヤはザンバーガゴブリンの元に駆け出した



「待たせたな。律儀に待ってくれるとは思ったより余裕があるのか?」



〘こちらも、魔力を溜める時間が必要だったからな。それに、かつてのお主達を見ているようだったわ〙



「かつての俺達か……」



 勇者パーティーを組んだ時から一緒に行動していた一人の侍 権蔵。

 シンヤ達と同じ異世界召喚された人間で、パーティーに入るときは既に老人になっていたが、桁外れの強さと魔法にも精通する人でシンヤ達の師匠的存在だった

 昔を思い出したシンヤは



「そうだな。俺がかつての師匠の立ち位置になるのだろう。ならば、彼らがお前たちと戦えるまで、時に守り鍛えるとしようか」



〘ふっ……お主がそこまでする価値が、この時代に生きている人間達にあるのか? かつての人間達より欲に塗れた者ばかりだぞ〙



 ザンバーガの言葉を聞いて苦い顔になるステラ



「どの時代にも欲に塗れた人間は居る。その逆で真面目に一生懸命生き抜こうとする者達もな。

 ならば、俺はそんな彼らの為に今一度戦い抜く……それだけだ」



 腰から外した鞘に刀をしまい抜刀の構えをとるシンヤ。右足を前に出して腰を深く構える



〘ほう……それは、ゴンゾーの得意とする構えか〙



「ああ、そうだ……」

(俺は、居合いや抜刀については師匠ほどでは無い。だが、これは俺の覚悟の構え)


 ザンバーガの放つ魔力が暴風なら シンヤの放つ気力は清風。静かにされど力強く臍下丹田に集約されていく



「待たせたな……行くぞ」



〘構わぬ、参るぞ〙




   そして、お互い同時に動いた

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