第68話 友達
シンヤがアリュード達の打ち合わせが終わって用意をしているとユイナが
「あの……準備の時にごめんなさい。リリィさんは大丈夫でしょうか……」
「多分大丈夫だろう。俺の力を使いたいそうだからな。今なら助け出せるから待っていて」
表情は無表情のままだが、心配した雰囲気のユイナ
「そう……ですよね。ヒカリさんは魔界に残りましたし、ヒカリさんも大丈夫でしょうか……」
「ヒカリさんは“お守り”以外にも色々と持たせてるから大丈夫だよ。“連絡板”もあるから何時でも連絡取れるしね」
話しながら用意をしているシンヤにアリュードの護衛の一人サリナが近づいて来た
「先程、手紙を持って来たピアストの手下を尋問しました。まぁ死にましたが、自害ですね
聞き出した情報では、攫われた3名はまだ無事だと言う事です。」
表情を一切変えず淡々と話すサリナ。シンヤは普通に聞いていたが、自害で一瞬ドキッとしたユイナ
「聞き出した内容ですが、それなりに確実なので安心して下さい。ユイナさん」
ユイナを安心させるため微笑みながら言うサリナ。 少しだけ目が開いたユイナだが、少しして頷いた
“では” と頭を下げて離れるとアリュードの側に居るクリエーナに話しかけていた
「じゃ、行ってくる」
「はい、お気をつけて……リリィさん達を宜しくお願いします」
軽く手を上げてリリィ達が捕らわれている元ゴブリンの巣に向かって行った
リリィ達が捕らわれているのはゴブリンの巣があった更に奥の隠れた研究所の一室。
壁土がむき出しになった部屋に麻で出来たシートが轢かれてるだけである
気付いたら3人とも手錠と足枷をつけられていた
「ごめんなさい。私のせいで……本当にごめんなさい」
「だから、謝罪はもう良いわよ。リリィのせいではないでしょう。
攫って来た奴らが悪くて私達は巻き込まれただけよ。だからリリィは悪くないの」
「そうそう……って、ちょっと怖いけどね。だからってリリィのせいじゃないよ
3人でいれば大丈夫だよ……だよねステラ」
顔を引き攣らせながら謝るリリィを真ん中に、左右をステラとサリーナがシートの上に座って話していた
不安になって聞くサリーナに“大丈夫よ” などと言って励ますステラ
「健気ですね〜」
入って来たのは、貴族の服を着たピアスト伯爵
年齢はトールベンより上の為か、白髪に白い髭を蓄えて優雅な佇まいをしている
常に微笑んでるせいか、何処か不気味さを感じる
よりリリィに密着する2人
「ふふふっ ここはリリィさんにとって懐かしい場所ですね〜」
「はぁ? 何を言ってるの貴方は……貴方、ピアスト伯爵ね」
「おや? ご存知でしたか。流石は、元公爵家令嬢ですな。
愚かにも父親が帝王に逆らったばかりに、降爵されてこの様な僻地に飛ばされたのですからね〜」
言われて一瞬顰めっ面になるステラだが、直ぐに元の表情に戻る
「そうそう、リリィさんに懐かしいと言った理由ですね。ここは、かつてリリィさんがゴブリン達に可愛がって貰っていた場所ですよ」
顔を真っ青にさせ震え出すリリィ。左右から抱きしめるステラとサリーナ
「あの楽しかった一時でも思い出しましたかな?」
「なっ?! あ、貴方ねぇ!」
ステラが文句を言おうとして、それより先にピアストが動いた。
手を伸ばしてリリィの左手首を掴んで引き寄せるピアスト
ステラとサリーナは、左右からリリィを掴んで押さえようとしたが一緒に引きずられた
「ふぅむ、これですかね。お二人には面白いものを見せて上げましょうか」
「あっ……だ、駄目」
左手中指につけている指輪を外されそうになり止めるリリィ
しかし、力の差は歴然で指輪を外されてしまった
途端に、元の魔族の姿になるリリィ
薄い灰色の肌に紫の髪と赤い瞳が露わになった。咄嗟に隠そうと自由な右手を動かすが上手くいかない
「どうですか、お二人共。これがリリィさんの本当の姿ですよ。
ゴブリン達にその身を穢された汚い魔族。そんな者の為に、貴女がたは攫われたのですよ。汚い魔族に腹が立ちませんか?」
左手を離されて崩れ落ちるリリィ。本当の姿を2人に見られて、止め処なく流れる涙を拭くこともせず呆然としている。何故なら
「……確かに腹は立つわね」
ステラの声を聞いて体を震わせるリリィと嫌な笑みを浮かべるピアスト
「ピアスト伯爵、貴方にね」
ステラに睨みつけられたピアストは怪訝な表情になる
「リリィが魔族? だから何だって言うの? そんなの関係ないわよ! 私もサリーナもリリィだから友達になったのよ! どんなに苦しくても大変な目にあっても前を向いて頑張るリリィにね!
それなのに、汚い? 穢らわしい? それは、貴方の事を言うのではなくてピアスト!」
毅然とした姿に立ち振舞はかつての公爵令嬢そのものであるステラ
そのステラの姿を驚いた顔で見つめるリリィ
「……今は、私より爵位が下である上に年上に対する礼儀もなっていない……私が躾をしないといけないようですね」
不気味な表情になるピアストの顔を睨みつけながら
『リリィ逃げなさい。貴女が逃げればピアスト達の計画はくずれるわ』
「……えっ?」
『……そうだね。何とか逃げた方が良さそう』
小声で話しかけるステラとサリーナ。思わず2人の顔を交互に見るリリィ
「何を話しているのですか?」
一歩近づくピアストの反対側にリリィを押し飛ばすステラとサリーナ
「「リリィ、逃げて!」」
押し飛ばした2人はピアストにあっさりと取り押さえられた。
その2人の姿を見て思わず顔を下に向けて逃げようとしたとき
(また、逃げるの? 裏切り者)
幼馴染の声が聞こえて動きが止まる。俯いていた顔を上げピアストを見るリリィ
リリィの顔を見たピアストは驚いた表情をした
今までの絶望に打ちひしがれた顔ではなく、決意を固めた顔をしていたから
リリィは手足が不自由のまま四つん這いなりながら走りピアストの顔に頭突きを食らわした
「ぶひゃ?!」
後ろに倒れるピアストの手から離れた2人に駆け寄り
「今すぐ逃げ……?!」
手を伸ばそうとしてリリィの腹に蹴りを入れるピアスト。壁に叩きつけられたリリィは痛みで蹲る
蹲った所にピアストが頭を踏みつける
ステラとサリーナの声が聞こえたと思ったら、足がどいてピアストに髪を掴まれて無理やり頭を上げさせられたリリィ
痛みで視界がぼやけていたがある者を見て目を開いた
「な、なんで……」
「どうだ。お前を可愛がっていたゴブリン達ですよ」
ステラとサリーナは、それぞれピアストの手下である黒装束に体を抑えられていた
2人の足先には数体の首輪と鎖をつけたゴブリンが興奮状態で近づいていた
サリーナは恐怖に引き攣った顔で、ステラも血の気を引いた顔でそれぞれゴブリンを見ている
「ここに居たゴブリンは元々私達が捕まえて来ていたのです
魔王幹部ザンバーガ様の魔力でゴブリンロードを作り、戦闘能力 繁殖能力 を見るために貴女達の村を襲い実験データを取っていたのですよ
クククククッ……ひゃーハッハッハッハッハッハッハー!」
「……えっ?」
驚愕の表情でピアストを見るリリィ。ザンバーガの話をするピアストの顔は狂気が渦巻いていた
「彼女達もゴブリンに初めてを捧げて貴女と同じ汚物になりますねぇ〜
特に私達の邪魔をしたあの男の娘が、ゴブリンによって薄汚れた女になりゴブリンの子を身籠ったと、知った時の顔は見ものですよね〜 ヒヒヒヒヒヒャヒャヒャヒャヒャ!」
「ま、待って……待って下さい! 私が……私が代わりにゴブリンに抱かれます。
だから、2人を離して下さい!」
ピアストにしがみついて懇願するリリィ
「おやおや〜そんなにゴブリンに抱かれたかったんですか?
安心しなさい。コブリン達があれに飽きたら次は貴女の番ですよ」
ピアストの狂気に押されて必死に首を振るリリィ
その間にゴブリンがそれぞれの足を掴んで広げていた
口が震えて声が出ない顔が、恐怖の色に染まる2人。
その時
天井から激しい音がして地震の様に振動を始めた
何事かとピアストと黒装束が見上げたと同時に、ゴブリンの頭上辺りの天井が土埃と共に崩れ落ちてゴブリンを巻き込んだ
瓦礫の上に一人の人影が空いた天井から降りてきた
その降りて来た人影は、巻き込まれずに済んで地べたを這うゴブリンの頭を躊躇なく踏み潰す
「シ……シンヤ……さん?」
人影を見たリリィが呆然と呟いた。
直ぐに立ち直った黒装束の男2人がシンヤに襲いかかるが、あっさり顔を掴まれて握り潰す
潰された男達は一瞬、体が痙攣すると動かなくなった
ピアストも含めて皆その場から動けなくて固まった
理由はシンヤの放つ殺気のせい。
シンヤはピアスト達を見回すと
「貴様ら……死ぬ覚悟は出来てるんだろうな」
静かにだが体を貫く殺気を込めて言うシンヤ
ピアストの顔を見て
「貴様は、簡単には殺さんがな」
シンヤに睨みつけられ全く体が動かないピアストだが、狂気の色は消えていなかった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます