第65話  不穏だが



 扉を開けて中に入って来たのは50代ぐらいで身長170cmのがっしりとした体格の魔族の男性

 黒髪 黒目で熊を想像させる顔で部屋の中を見回していると



「何か用ですか? グライド将軍」



「ニーナか、2人揃ってバルコニーから来るとはな。バルコニーとは言え小僧が部屋から出るとは驚きだ」



 鼻で笑うように言うグライドに対して顰めっ面になるニーナ



「小僧ではなく魔王様です。グライド将軍、無礼が過ぎますよ」



「未だ元に戻らず魔王とし何の役にも立たないのにか」



 ロイドを見ながら言うグライド。視線を向けられたロイドはニーナの後ろに隠れながら見る



「ロイドはいずれ戻ります。それまで、支えるのが貴方の役目ではないですか? 亡き父にも誓われた筈ですよ」



「まさかこの様な事になると誰が思うか。ならばそれはそれ、これはこれであろう。魔王の座を退けば良かろう」



 髭に手を当てて見下す様に見るグライド。苛立ちを隠さずに睨むニーナが何か言おうとして



「あまり言い過ぎては無いですか? グライドさん」



 グライドの後ろから声が聞こえてニーナとグライドは同時に振り返った

 そこには190cmを超える左目にモノクルをかけた青髪で 赤目の魔族の青年が立っていた



「バーミリアンか、宰相ともあろう者がこんな所まで来て随分暇な様だな」



「いえいえ、グライドさんほどではありませんので、お気になさらず」



 笑顔で言うバーミリアンの言葉に僅かに目を細めるグライド。そこに



「ところで何かありましたか? バーミリアン宰相」

 


「はい、前にゴブリンロード達に襲われた村で何やら動きがあったようです。

 設置していた魔法具には全く反応がありませんでした

 ですが、何者かが嗅ぎ回った後があると部下から報告が上がっています

 いくつか物が無くなっていたそうです」



 一瞬だけグライドを見るバーミリアン

 


「なんだ? わしの事を疑っておるのか? そのような事をして何になる」



「いえ、そうではありませんよ。まぁ、証拠隠蔽などありましょうね」



 不敵な笑みを浮かべるバーミリアンと睨みつけるグライドの視線がぶつかる



「お二人共! 止めてく…「あ、あの!」」



 2人の間に入ろうと声を出したニーナに被せる様に外から声が聞こえて3人がそっちを見ると

 オドオドした小柄な魔族の男の子が両手を胸の前で握りしめて立っていた



「あ、あ、あの……グライド将軍様とヴァーミリアン宰相様をそれぞれお呼びになられている方がいます」



「……分かりました。ありがとうミケル。そういう事ですので、お引取を。ヴァーミリアン宰相 グライド将軍」



 言われた2人は、ニーナとロイドを一瞥して部屋を出るグライドと2人に微笑みながら頭を下げて部屋を出るバーミリアン

 部屋の外から何度も頭を下げて慌てて2人の後を追うミケル

 完全に居なくなったのを確認して扉の鍵を掛けてからバルコニーを見たニーナは



「話の続きがしたいので開けてもらえる?」



 隠密ローブを開けるシンヤ。ロイドと一緒に中に入ると



「貴方達ですよね。ゴブリンロードに襲われた村から火事場泥棒したのは?」



「確かに物は取ったからそうなるな。」



 ジト目で見てくるニーナに答えると鋭い目つきになり



「何が目的でそのような事をしたの?」



「ゴブリンロードを倒して助け出した魔族の女性は今、ヴァリアント砦で保護しているんだ

 中に自分を取り戻した女性もいる。彼女達の力になればと思い回収させてもらった

 最もそれが誰の物か分からないが、持って帰り見て貰えたら分かると思ってね」



 暫くシンヤを睨んでいたニーナだが、軽く息を吐いて



「そう……分かりました。貴方の言う事を信じましょう」



「ありがとう。色々と罠やら何やら張っていたから全てすり抜けて動いていたんだけどな。

 異変に直ぐに気付くとはなかなか優秀だな」



「私は全然気付かなかったです! あっ?! だから動くとき側を離れない様に言ったんですね」



 ヒカリを見て頷くシンヤ。ニーナに視線を戻すと



「それにしてもかなりの数を設置していたが、魔物の襲撃にでも備えていたのか?」



「そう……ですね。2人には話しても良いでしょう。実は、ゴブリンロードの襲撃は何者かの手引きによるものだと分かったの」



「手引きって、中に入れたんですか?!」



 ニーナの言葉に驚くヒカリとシンヤ



「ええ、正確には誘導したと思うわ。

 元々森に近い村には、手練れの者を何人か配置していたの。襲われたとき何名かの死体はあったけど姿を消した者たちもいたわ」



「まさか、先程のグライド将軍の部下か? いや将軍なら軍隊の指揮をしてるから当然、全員部下になるのか?……いや、しかし……」



 シンヤの話に頷くニーナ。考えるシンヤに



「軍のトップはグライド将軍たけど、バーミリアン宰相も魔族の貴族として専属の部隊を持ってるの

 宰相の部下も何名か配置されていたけど、死んだのは全て宰相の部下なの

 姿を消した者は全てグライド将軍の部下たちよ」



「じゃあ、旧魔王幹部と繋がりがあるのはそのグライド将軍?!」



「そうね。将軍の祖先はかつて三大爵サンバーガに使えていた者の生き残りと聞いています

 なので、繋がってる人物として1番怪しいのですが、決めつけるのは時期尚早です

 今は、もっと情報を集める必要があるわ」



「そうだな。これからについてもう少し話をしようか」



 頷くニーナとヒカリ。これからの動きについて話をしたのだった

 

 そして


「やだー! ぼくもひよりおねえちゃんといっしょにいくー!」



 話を纏めた3人は一旦解散しようと、疲れてヒカリの膝枕で寝ていたロイドを起こす

 その時、膝枕していたヒカリを“私も膝枕したことないのになー”という羨ましそうな視線を向けるニーナがいたりいなかったりする

 起こされたロイドはシンヤとヒカリが帰る話をすると、大泣きしてヒカリにしがみついた

 あらん限りの力でしがみつかれたヒカリは顔面蒼白になり、慌ててシンヤとニーナがロイドを引き剥がした

 ニーナがロイドを後ろから抱きしめて今に至る

 そこから、ロイドの説得が始まった。色々な手を使い話をしていく3人

 それでも



「いやー! ひよりおねえちゃんがいくならぼくもいくー!」



「あのねロイド、ひよりおねえちゃんは行かないと駄目なの。

 だから、ニーナお姉ちゃんと一緒に待って居ましょう」



「いやだ! このおねえちゃんいやー! ひよりおねえちゃんがいいの!」



「この……お姉ちゃん……嫌……そんな……」



 両手 両膝をついて項垂れるニーナ。この世の終わりみたいな表情をしている



「ニーナさん?! ダ、ダメージが色々と入って……ぐわぁ!」



 項垂れるニーナに寄ろうとして、ロイドに全身を抱きしめられて口から魂が出掛かるヒカリを引きはがすシンヤ



「このままでは埒が明かないな。少し危険だがヒカリさんはここに残ってロイド君の相手をしていてくれ。

 隠密ローブなど身を守るアイテムは置いていこう」



「えぇ?! 私ここに残るんですか!」



 驚きの声を上げるヒカリと四つん這いのまま驚いた顔を上げるニーナ



「おねえちゃんいっしょにいるの?! やったー!」



「ちょ、ちょっと?! 人間が一人でここに居るなんて無茶苦茶よ?! しかも、何が起きるかわからないのよ!!」



 両手を上げて喜ぶロイドと慌てて立ち上がり止めに入るニーナ



「それについては考えがある。少々強引だがな。

 取り敢えず明日まで俺も一緒に居るよ。

 それで、考えと言うのが……」



 ヒカリとニーナにシンヤは自分の考えを話しだした。その話を聞いた2人は驚きと納得と疑問を繰り返すのだった




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