第64話  懸念



 ノックの音が聞こえて直ぐに部屋に入って来たのは紫の髪に青い瞳の女性ニーナ



「ロイド、おやつもって来たけど食べ……る……って……えっ?」



 何時もならベッドの上か部屋の隅に座っているロイドが居なくてバルコニーの窓が開いていて驚くニーナ

 慌ててバルコニーへ出ると口を塞がれ身動きを封じられたニーナ



「やってる事、ただの変質者ですよね」



「うら若き女の子を後ろから羽交い締めにして、口を抑えて姿を見えないように連れ込んでるからな……」



 後ろから男と女の声が聞こえて体が強張るニーナ



「うーうーむー?!」



 振りほどこうと藻掻くニーナだが、びくともしない。途中シンヤが “ただ、話がしたいだけなんだが?” や “ジッとは……出来ないよな” など声を掛けているがニーナの耳には届いていない

 シンヤが”仕方ない“と呟くと殺気を気力で高めてニーナの体に叩き込んだ


 「んぅ?!」



 ニーナの全身が一瞬だけ痙攣を起こすと冷や汗を流して目を見開いたまま体が細かく慄いている



「もの凄い震えてますけど、大丈夫ですか? あぁ泣いてますよ!」



「……あれ? やりすぎた?」



 慌てるヒカリの声を聞きながらニーナの丹田に向け気力を流すシンヤ

 少し落ち着きを取り戻したニーナに


「君達に危害を加えるつもりはない……いや……恐い思いはさせたけど、傷つけたりはしない

 俺たちは夕方から潜んでいたからな。もし何かするならとうにしてるよ」



 シンヤの危害を加えない発言で、“何言ってんだこいつ”の視線をニーナに向けられて一瞬言い淀むシンヤ

 シンヤの潜んていたと言われて驚いた表情になるニーナ

 抵抗の気配が消えたのを感じて



「口から手を離す。大きな声を出さないようにしてくれ。

 まぁ、出しても外には聞こえないけどな」



 頷くニーナ、ゆっくりと手を離すシンヤ。

 若干震える声でニーナが



「あ、貴方達は何者なの? 見た所、人間のようたけど」



「人間で間違いない。俺はシ……平木 靭平と言うんだ」



 偽名ではなくいきなり本名を名乗った靭平シンヤを驚いた顔で見るヒカリ

 ニーナは聞き慣れなない名前に最初は怪訝な表情になるが、何かに気づいて驚いた



「その名前は、魔王を倒した勇者パーティーの一員の名前よ。何故貴方が名乗ったの?」



「その顔は信じてないよな。当然と言えば当然だかな」



 ニーナは訝しげな視線を向けながら



「当然よ。彼の者は魔王の呪縛から私達を解放して、人間達とのわだかまりを解いて戦争を終わらせた偉人

 貴方の様に女に抱きつくような人物ではないわ」



「……やっぱり、いきなり抑え込むんじゃなくて冷静に話し合えば分かってもらえたんじゃ……」



 睨みつけてくるニーナと、不安そうに見てくるヒカリから2人の視線を受けて、苦笑いになりそうなのを抑え



「いきなり抱きついたのと、恐い思いをさせたのは謝る、ごめんなさい。  

 俺達は、ただ話がしたいだけなんだ。体を離すが暴れないでほしい」



「暴れないわよ。私では、貴方に勝てそうにないもの……悔しいけど」



 最後にボソッと言った言葉はシンヤにだけ聞こえたけど無視して体を離すシンヤ。シンヤから距離を取って軽く伸ばすニーナに



「おねえちゃんだいじょうぶ?」



「ロイド! 大丈夫っ……て、えっ?」



 ロイドに声をかけられ振り向いた先にヒカリと嬉しそうに手を繋ぐロイドを見て固まるニーナ



「ぼくのおねえちゃん。ひよりおねえちゃんだよ」



「へっ?……ぼくの?……ひより……おね……えちゃ……はっ?」



 最初は驚いてあんぐりした顔になるが、何故か少しずつ怒りを露わにするニーナ



「落ち着いて下さい。ニーナさん、ニーナさんであってますよね?

 先ずは私からの話を聞いて下さい。良いですよねシ……平木さん」



「ひよりおねえちゃんこまらせたらめっなの!」




 ロイドに怒られて”うっ“と言って困った顔にななり、“わかったわ” と頷いたニーナ

 シンヤを頷いたので、話し出したヒカリ

 話を聞いたニーナは



「そんな……まさか……でも、ロイドに違う小さい男の子が憑依して融合したのなら辻褄が合うわね」



 ニーナはロイドに視線を合わせると



「ありがとう弟を助けてくれて。意味はわからないと思うけど、お礼を言わせて

 ずっと辛かったよね。気付いてあげられなくてごめんね。これからは、少しずつお話していこうね」



 ヒカリと一緒にロイドの頭を撫でるニーナ。

 ロイドは2人に抱きついて泣き出した。暫くの間、泣き止むまで頭を撫でる2人であった



「それで、ロイドの事は分かったし納得できたわ

 けど、貴方の事はヒカリさんが言っても納得できない信じられない」



「そう……だよな。人側には俺の武器がしっかり伝わってたけど……俺の武器を見たら信用に足るかな?」




 2人の姉に手を繋いでもらい嬉しそうにしているロイドとは対象的に、不審者を見るような疑った視線をシンヤに向けるニーナ



「七色に輝く【輝煌一文字】よね。今は無い鉱石で作られた刀。仮に七色の輝きで作られても細工をして見せる事は可能よね」



「そうだな……手は、どうしようか? 【鑑定】スキルで鑑定出来るが、下手に他の魔族を巻き込むのはな……」



「私に考えがあるわ。少し待ってて」



 ロイドの手を離すニーナ。ヒカリに“お願いね”と微笑みながら言ってシンヤを見ることもなく部屋を出て行った



「シンヤさん。騒がれないためとは言っても、いきなり抱きついたのは流石にまずかったのではないですか?」



「ああ……今思うと本当にそうだなと感じてるよ。その上、恐い思いをさせてしまうと……」

(リディーナさんの時とは違うのに、近い考えで動いてしまった)



 2人で、話しているとニーナが戻って来た



「えっと、何処にいるの?」



 何もない空間に向かって言うと、突然シンヤが姿を表して驚くニーナ

 驚くも隠密ローブの中に入ると



「見たことないアイテムね。何に使ってるのやら」



「主に隠密行動や身を守る為だな。それで、用意は出来た?」



 シンヤに、言われてルーペに金属の板がついた魔導具を見せるニーナ



「これで、鑑定が出来るわ。使うには魔力が必要だけどね。見るわよ」



「分かった。宜しく頼む」



 愛刀を召喚してニーナの前に出すと鑑定を始めた。



「……本物ね。」



 信じられない表情でシンヤを見るニーナ



「……先程の事について少し話をさせてほしい。言い訳になるけど俺自身、気付かない間に焦っていたみたいだ」



「「……焦っていた?」」




 聞いてニーナだけでなくヒカリも同時に声を出した



「ああ少し長くなるが……旧魔王幹部と旧魔王の復活を聞いて両方が蘇ったら今のままでは防ぎ切れないと考えている。

 魔王は唯一勇者の力で倒せるが、今はまだ無理だ

 あの時の惨劇を繰り返す訳にはいかない魔王幹部の復活は止められなくても魔王だけは止めないといけない

 その焦りを知らず知らずの内に溜め込んでいたみたいだ

 少しでも早く幹部と繋がっている魔族を見つけたいと思っていたんだ」



「……それで、あんな行動に出たの? そう言えば貴方達は不法侵入よね? 今からでもそれで捕まえられるけど……まぁ無理でしょうね」



 不法侵入と言われてぎょっとするヒカリ。

 ニーナは大丈夫よと首を振ってシンヤに先へ促した



「もちろん、許されるとは思っていない。後で罰をと言うなら俺が受けよう。君に無礼を働いた事も含めてだ。改めて謝る申し訳ありませんでした

 でも、それらを踏まえた上で力を貸してほしい。

 図々しいのは分かっているが魔王を阻止するためにもお願いします」



 頭を下げるシンヤ。気迫に押されて2、3下がるニーナ

 そんなニーナと手を繋ぎ不安そうに見るロイドと目が合うと柔らかく笑うと



「頭を上げて下さい。はっきり言って貴方の全てをまだ私は信じてはいません

 けど、今の話は信じます。この平和な世の中に魔王が復活するのは嫌なので手を貸しましょう

 先程言った貴方への罰は全てが終わった後に考えます

 それで、どうかしら?」

(先程は、本当に死を覚悟したんだもの。初めてよ、死が見えてのは……それに、そう簡単に許したら駄目ね)



「それで、構わない。ありがとう」



 2人のやり取りを見て少しホッとしたヒカリ



「あの〜不法侵入の罰は私も受けますよ。私も一緒に入ってますから」



「それは、追々考えるはね。それで、貴方はシンヤで呼ばせてもらうわね。私の事はニーナで構いません

 それで、私は魔王幹部と繋がっている魔族を調べたらいいのかしら?」



 頷くシンヤ



「好きに呼んでくれて構わないよ。調べて欲しいのは確かにそれだ

 それぞれの王国に魔族が入ってる可能性があるからどの国に居る魔族か調べて貰えたら有難いが、そこまでは言いません

 取り敢えず名前を調べて欲しい。こんな理由で仲間を調べる嫌な事を頼むけどお願いします」



「調べられる範囲で調べるわ。それに、魔王復活阻止が大前提ですからね。

 そこの所は気にしなくていいわよ」



 そして、話を詰めようとしたとき扉がノックされて開いた。それを、見ていたヒカリは



(あれ? これってデジャブって言うのかな?)



 なんてことを考えるのだった

 



 


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