第54話 ギルドに戻って



 黒ずくめ集団を倒してそのまま魔徒の森を抜けてランドールに着いた頃は夕方になっていた

 砦に着いたのが昼頃で、そこからトールベンとの手合わせから色々あった為、仕方ないと言える

 門の所で順番待ちをしているシンヤ。本当なら姿を消して中に入れば良かったが



(アリュード殿下からの頼まれごともあるしな。この様子ならすぐに順番が来そうだな)



 考えていると順番が来るシンヤ。

 門衛のフィッシュに呼ばれて行くと



「あれ? お1人何ですね。皆さんは砦に居るのですか?」



「ええ、ちょっと訳ありでね。それで、アリュード殿下からフィッシュ宛てに手紙を預かって来たんだ」



 何回か話している内に敬語は要らないとフィッシュに言われて気軽に話しているシンヤ

 アリュードからの手紙を渡されたフィッシュは真剣な顔になりシンヤと共に受付を離れてから断りを入れて手紙を読み始めた

 アリュード殿下の名前が聞こえた他の手が空いてる門衛がフィッシュの代わりを勤める



「なる程、内容は分かりました。シンヤさん達がランドールに居るときは手伝います……シンヤさんがアリュード殿下の探されていた人だったんですね」



 ランドールに数名いるアリュードの部下の1人がフィッシュであった

 最後はシンヤの側により小声で話すフィッシュ



「その様だ。ありがとう、1つ聞きたいがこのランドールに帝国の息が掛かった者は何人いる?」



「そうですね。残念ながら正確な人数はここ最近の出入りが多いので言えないのですが、大きい所でエルード商会ですね。都市での大きさは3番目ですが、本店がカイルド帝国にあります

 因みに【常世ヘブンズ闇牙ブラッティ】に武器等の供給をしていましたが、それ以外は関係はないですね

 ランドールの動きを報告していますね

 それと、冒険者として入って居るのが帝国側で13人とアリュード殿下側で7人それぞれ居ます。  

 後は、パールド王国に本店がある2番目の大きさのカイロス商会があります

 ただ、ジャルドのクランが無くなった事で両商会が頻繁にやり取りをしていますね

 もしかしたらシンヤさんに接触が有るかも知れません」



 接触があると言われて首を捻るシンヤ。



「何故俺に? 奴らに正体を知られては無いはずだ」

 (砦から付いて来た黒ずくめは砦に居て俺が危険と判断したんだろうが……)



「ジャルド達がシンヤさんの仲間を攫った直後に壊滅してますからね

 彼等の情報網で気付いたのではないですか?

 存在するだけで鬱陶しいクランでしたが、実力者揃いは間違いないので潰した人を取り込みたい所でしょうか

 帝国側も欲に塗れて一枚岩ではないですし、パールド王国もきな臭いですからね」



 頷きながら話を聞くシンヤ



「なるほどな、最後に両商会の店員名と冒険者の名前を教えてくれるかな?」



「分かりました。商会の店員名は私が持つ予備の控えを渡します。まあ内密でお願いしますね。

 冒険者はこの紙に名前を書きますよ」



 商会店員名一覧の紙に冒険者の名前と特徴を書くとシンヤに渡した



「色々とありがとう。また何かあったら宜しく頼むよ。此方も手伝える事は手伝うからな」



「はい、分かりました。此方こそ宜しくお願いします。表だった動きはありませんが、気を付けて下さい」



 フィッシュは持ち場に戻って別れたシンヤはギルドに向かった

 ギルドでエリナに話してリディーナがいる執務室で、アリュードにエヴィリーナ達から預かった手紙を渡して砦であった事を話すシンヤ



「そうですか……アリュード殿下はシンヤさんの正体を知り実力を見るためにトールベン殿と手合わせして……その、お疲れ様です。

 エヴィリーナ達の事は分かりました。確かに帝国と王国の動きが掴めない現状では砦に居る方が安心です 私からも手紙を書きます」



「手紙は待って欲しい。俺は、数日間ランドールに居る予定だし他の者が手紙を運んでも妨害が入る可能性がある」



「では、如何しましょうか? 私はここを離れる訳にはいきませんし……」



 シンヤは“方法はある”と言って徐にポケットに手を入れた



『……分かりました。では、その様に行きましょう、お願いしますリディーナギルド長。

 シンヤさんもお願いします。ユイナさん達は責任持ってお預かりします。では』



「はい、此方こそエヴィリーナ達を宜しくお願いします。アリュード殿下」



「ああ、分かった。ユイナさん達を宜しく頼む」



 締めくくり話を終えると



「ふぅ……色々と驚きの連続ですね。1000年以上前にこの様な魔導具が作られたなんて凄いです。

 でも、勇者パーティーの方々しか使えないのは残念ですね

 アリュード殿下がお使い出来たのは[勇者]の素質を受け継いだからでしょうね

 そのアリュード殿下と対等に話せるシンヤさんは伝説のお一方ですから当然ですね」



「この魔導具に関しては多分どうしようもないかな。

 作った本人はもう居ないし他の人はどうやっても使えなかった

 まあ、アリュード殿下は敬語は止めて欲しいと言われてね。此方は話しやすくていいけどな」

 


 笑いながら答えるシンヤ。すぐに手紙を出せないリディーナに対して取った方法はシンヤの正体を知っているから“電話擬き”で話そうと言うものだった


 シンヤが手紙を預かり砦に持って行っても良いがそれだと時間が掛かる為、アリュードと相談して“電話擬き”で話す事にしたシンヤ



「何かあったらこうやって話しが出来る。アリュード殿下は皇子としての務めもあるので、話せる時間帯は決めてあるけどね」



「分かりました。何か進展があってシンヤさんが居られる時にお願いします

 それで、今日はもう遅いのでギルドに泊まりますか?」



 頷きながら“お願いします”と言うシンヤ。空いている男性用の部屋に行きシャワーを浴びるとすぐに横になったシンヤであった


 筈だったが



「これは、日本で俺が住んでいた家にあった応接間にそっくりだな」



 また、夢の中にいるシンヤ。前回の畳がある部屋では無くフローリングで部屋の真ん中に大きめの机と回りは年代物のソファーが置いてある

 壁際に幾つもの調度品が置かれていた。

 部屋の中を見ていると、扉が開き毎度お馴染みの女神が部屋に入って来た

 


「靱君、いきなりゴメ……いぃぃだぁだぁだぁぁぁぁぁぁぁあ?! いきなりアイアンクローは止めて~?! いたいいたいいたい~ 顔がぁぁぁ?! は~な~ひ~て~ お~ね~は~い~!」



 表れた女神の顔面を無言で鷲掴みするシンヤ

 涙目に鳴りながら懇願する女神。少しの間摑んで離したシンヤ



「いきなり痛いしょ~」



「いきなりじゃない。説明もなく丸投げしてくれた癖にな」



 顔の掴まれた所を擦りながら言う女神



「いゃ~まぁね、いきなり送っちったのは悪いと思ってるんよ、ウチは。

 本当、この世界が視えなくなってたからさ。

 ウチと繫がりが強い靱君に行ってもらうことでさ、内側に入って貰ってね~ 

 少しずつ視えてきたっていうかさ~

 それらの事を話そうかなーっとね~」



「それは、この前の時では分かってなかったのか?」



「あの時に分かってた事はあったんだけど、あの子達が居たから息抜きも兼ねてたからさ~

 必要な事だけにとどめてたんだ~」



 そう言うと床に置いていた紙袋の中身を取り出していた

 


「……酒? 日本酒か。おつまみまで用意して……酒飲んで話す内容か? 違うと思うがな」



「えぇ~~ いーじゃん~ 飲ーもーおーよー 

 飲ーんーでー 夢の中じゃ酔わないんだよ~

 付き合ってよ~」


 

 腕をぶんぶん振る女神に、シンヤは1つ溜息をつくと



「あー分かった、分かった。付き合うから話を頼む」



「んふ~ やったっしょ~ 女神は神だけど色々と溜まんのよ。靱君も息抜き大事しょ~ ……私が言えた義理じゃないけどね、ごめんなさい」



 最後は顔を伏せて紙袋を片付ける振りをしながら、聞こえない様にボソッと呟いた女神だがシンヤは聞こえていた。

 でも、聞こえない振りして女神に日本酒を酌むシンヤであった




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