第53話 暗躍②



 一言も話さないで聞くことに専念していたシンヤは



「今までの話しを聞いて俺の考えを言わせて貰うと、最善の手は帝国を奪還すれば自然と無理矢理に集団召喚されて城に囚われている人達も助け出せる

 その後日本に帰りたい者達をディスター山、…この時代の呼び方分からないが、連れて行き日本に帰る

 で、魔王について調べるってところかな」



「帝国の奪還について賛成ですし考えています。今の帝国の現状が帝王親子に侯爵家だけでなってるとは考えられない。

 裏に何か居ると思うのですが、今の俺達では中々表だって動けなくて少しずつ調べていますが、それでも尻尾が掴めません

 下手に動いて城にいる召喚された方々を危険に晒せません。かと言って放置すればそれはそれで……」



 シンヤの考えに賛同するも今中々打って出る手が無くて歯がゆい思いをしているアリュード

 すると、ヒカリが


「あの……例えば何ですけど、ほんっとうに例えばですよ! 私達含めた砦の戦力で帝国を取り返すとか出来ないんですか?」



「それは、出来なくもないが、双方に尋常な被害が出るでしょうね。

 帝王側は油断している所をつけば勝てるでしょうがそれでも被害が何れだけ出るか分かりません

 召喚者側も死傷者が出るでしょう

 それに、帝王が完全に実権を握り苦しんでいる国民を闇雲に巻き込む訳にも行きません」



 聞かされて暗い顔になって俯くヒカリ



「まあ、城を取り返すのなら最悪俺1人でも出来ないことは無い。

 相手側の犠牲を問わなければだがな

 今はもっと情報がいるな。取り敢えずギルドに対しては出鼻を挫いたから侯爵家もすぐには動かないと思うが油断は禁物だな

 所で、違う国に協力は仰げないのかな?」



「お一人で奪還とは、でもその条件ならされると思いますがそれは一旦置いといてもらいまして……

 正直協力は難しいでしょう。

 今、北にある魔界を除いて大陸の南に4つの国があります

  まず真ん中に位置するパールド王国で、その東がカイルド帝国

 パールド王国の西にちょうど上下に2分する形で上にロードス王国、下にエルフ、獣人、ドワーフ等がそれぞれ国を作り共存しているエーテル共和国があります。

 それで協力ですが、今の所パールド王国は静観です。それにパールド王国から見て勝てるか分からない戦いに協力は難しいですね

 ロードス王国は国力が小さくパールド王国の更に西側なので協力は難しく、エーテル共和国の住人は元々数が少ない上にカイルド帝国と直に交易もないので難しいですね」



 難しい顔になるアリュード

 


「大体の事は分かった。今は出来る事をしていこう

 俺は1度ランドールに戻って報告をしてくる

 エヴィリーナさんとダーネルには手紙を書いて貰ってそれをリディーナさんに届けたいと思う

 俺1人の方が1日と掛からず往復出来るからな

 その間、ユイナさんはアリュード殿下に本を貸して貰ってスキルを覚えてほしい

 ヒカリさんはユイナさんの側に居てくれないか

 それで、行きたいがどうだろうか?」



「……分かりました。シンヤさんが戻られるまでスキルを覚えます。

 アリュード殿下にヒカリさんお願いします」



「分かりました。私が側に居てどれ位役に立つかわかりませんが頑張ります」



「1日足らずで砦とランドールを往復出来るとは……分かりました。

 俺からエヴィリーナさん達には話して手紙を書いて貰いましょう。本も用意します」



 それぞれ頷く3人。それからある程度話しを詰めるとアリュード殿下が指示を出し手紙を書くエヴィリーナとダーネル

 この2人にはシンヤから話しをして1人での往復が速い話しも含めてすると驚きながら納得していた


 そして、手紙も受け取り砦を出発するシンヤ


 魔徒の森を中頃まで進んだ時、シンヤの遙か後方を複数の黒ずくめの集団が必死について来ていた



「頭領、こんなに速さが違うとついて行くだけで精一杯でとても森の中で暗殺何て無理ですよ!」



「ああ、そんな事は分かっている! どうなってんだ?!」

 (あのトールベンを負かした奴だから数を集め森の中頃で取り囲んで殺す筈がこのままでは拙いぞ。何だこの速さは)



 頭領と呼ばれた黒ずくめの男が苛立ちながら追い駆けていた。

 すると、途中で後ろから足音が聞こえなくなり不審に思い振り返ると動きが止まり顔が驚愕に染まる

 部下達は全員首を刎ねられ倒れていた。その中心に立つ人間は自分達が狙っていた相手シンヤであった

 それでも、すぐに動いてしたがシンヤに両手両足を切り落とされる

 咄嗟に奥歯の代わりに仕込んでいた、自決用の猛毒を飲み込もうとして口の中にシンヤが手を入れて取り外した

 直後、頭領の首筋に何かを当て



「アギャギャギャギャギャャャ?!」



 少しの間全身に痛みが走った。痛みが引くとあることに気付いた頭領



「まさか……奴隷紋か?!」



「お前らが持っていた物を使わせてもらったよ」



 シンヤが見せつけてきた奴隷紋用魔導具は確かに頭領が持っていた物



「こんな事してアリュード殿下が黙っていないぞ!!」



「ふっそんな事は無いな。彼が放った刺客ではない。

 俺をずっと監視していた視線はお前らなのは分かっていたが、まさかこんなに速く動くとはな

 それで、誰の間者だ? 答えろ死ぬことは許さん」



 必死に抵抗しようとして舌を嚙み切ろうとしても出来なくて震える口で答える頭領



「……パ……パールド王国……第2……王子と……ブルーナ公爵……がぁ……みゃ……ビャビャヤヤヤ……ブベァ?!」



 3人目を言おうとした所で、頭が変形して弾け飛んだ

 側に居たシンヤは一瞬で離れたので問題は無かった

 徐にポケットから縦15㎝横5㎝ほどの鉄の板を取り出した

 半分に文字が刻まれもう半分に網目状の線が引いてある



「と、言うことだが、話は聞こえていたか」



『ええ、聞こえていました。本当に電話の代わりなのは驚きましたが……話の内容の方が驚きですね

 まさかパールド王国第2王子グルンテ殿下も絡んで居たとは……』



 聞こえてくる声は少し沈んでいたが何処か納得した声色にも聞こえた



『詳しくは戻られてからにしましょう。所でこの魔導具は量産出来ませんか? 非常に便利ですね』



「かつての仲間の[賢帝]が作った物だからな。多分量産は難しいと思う。

 仮に出来ても何故か召喚された俺達以外には全く一切使えなかったからこの世界に元から居る者には使えないよ」



『そうですか、それは残念です。では、また何かありましたら連絡下さい、失礼します』



 切れたので、ポケットに仕舞って空を見上げたシンヤ

 


「今回の件は中々に根が深いようだな

 それに、普通は奴隷紋の効力を打ち消して殺す事は出来ない。

 出来るのは……魔族だな。しかも……はぁ


 あのギャル擬き女神が……本当に面倒な事を丸投げで押し付けてきやがったな」



 空を見上げたまま1つ大きな溜息をつくとランドールに向け走り出したのだった


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