第52話 真相



 シンヤ達を案内する美女。先程の2名と違い褐色色の肌に尖った耳と灰色の髪をしているダークエルフの美女

 そして、扇情的な赤い服を着ている

 


(先程からすれ違う男性は特段、彼女の姿を見ても何とも無さそうだな。慣れてるのか)



 先程からすれ違う男性騎士は特に気にした様子はなく通り過ぎていたが

 シンヤが通るときは少し視線を向けていた



(先程の手合わせで側に居た騎士だな。それ以外の人達は砦から見ていたか話しを聞いたのか……それと)



 ぱっと見は分からないが、案内するダークエルフの女性は時々シンヤの様子を見ていた

 それは普通の人には分からない程の動きだがシンヤは気付いていた



(警戒されているな。先程の戦いかさっきの話しを聞かれていたか、もしくは両方か)

 


 その後、アリュードの所に行くまでの間、何かされることはなくまた会話も特になく進んでいった



「此方でアリュード様がお待ちです」



 案内された部屋の外観は他の部屋と変わりなく少し扉が大きい位と左右に護衛の騎士が立っている

 扉についている小窓から中に声を掛けるダークエルフの女性。2、3会話をして



「どうぞ、お入りください」



 扉を開けて中に促すと護衛の騎士が 



「お待ち下さい。武器は此方でお預かりする決まりです」



 待ったを掛けてきたが中から



「あ~ 大丈夫だよ~ トールベンに勝つほどの人だからね~ 武器があっても無くても関係ないでしょ」 



「なら、拘束でもしますか?」



 あっけらかんと言うアリュードに拘束するか聞くシンヤ

 拘束と聞いてぎょっとするユイナとヒカリ



「どうせしても、すぐ外すでしょ~」



「ええ、その通りですね」



「おおぅ即答か~ と言う訳で武器の持ち込みは許可するよ。大丈夫だからね」



 アリュードが言うと少しして “分かりました” と返答して扉の左右に立つ騎士2人

 シンヤを先頭に部屋の中に入る3人。入るとダークエルフの女性も中に入り扉を閉めた

 部屋の中は派手さはないが清潔感ある質素な部屋である。

 真ん中に執務机が置いており後ろに本棚が並び執務机の横にソファーと机が置いてある

 執務机の椅子に座っているアリュードの左右にエルフと人間の美女がしな垂れかかっていた

 また、部屋へ入って直ぐ左右の壁に扉がそれぞれついてあった

 すると、左の扉から頭に猫耳が腰の下辺りに猫の尻尾がある猫の獣人美少女が顔を覗かせた

 アリュードにウインクするとすぐに引っ込む女の子



「3人とも、僕は彼等に話しがあるから少しの間、部屋で待っててね」



「分かったわ。何かあったら呼んでね」



 エルフの女性が妖しく微笑みながら言うと人間とダークエルフの女性と共に、猫獣人の女の子が居る部屋に入って行った



「それじゃソファーに座って貰える~ 喉が渇いたと思うから冷たい紅茶用意しといたよ

 紅茶の前に座って座って~」



 紅茶の前にシンヤが1人で座り反対にユイナとヒカリが座った

 アリュードが上座に座ると紅茶を見つめるユイナとヒカリに



「変な物は入ってないよ。信用ないかな~」



 笑いながら言うアリュードから視線をずらしシンヤを見る2人に対して頷くシンヤ

 シンヤが1口飲むと続いて飲む2人に“信用ないな~”と笑いながら言うアリュード



「失礼ながら、話しをする前に1つ宜しいでしょうか?」



「はいは~い何かな?」



 シンヤの質問にニマニマした笑いで聞くアリュードに



「不躾ながらその演技は何時までされるのでしょうか?」



「え~ 演技? 何のことかな~」



 シンヤに言われても変わらずニマニマした笑みで言うアリュード

 シンヤの演技の発言に驚いた表情になるヒカリと目を少し開くユイナ



「私は他の人より気配を読める。表面に見せてる性格と内面の気配が全くの真逆です

 それと立ち方の芯の部分にしっかり軸があります。

 そしてお手を見て手の甲は綺麗にしていますが、手の平を見れば分かります

 最初にお顔を拝見した時からでしたが如何でしょうか?」



 言われて頭を掻きながら下を向くアリュード。

 少しして顔を上げると先程までの笑みは完全に消えて真面目な表情になった



「流石は女神アルフィーナ様が遣わした方と言うだけありますね。

 最初から見抜かれていたとは」



 いきなり雰囲気が変わったのと女神の名前が出てきて驚くユイナとヒカリ。

 顔に表れているのはヒカリだけだが



「あのギャル擬き女神を知っているのですか? 

 それで、アリュード殿下を頼れと言ったのか」



「女神様から頼れと言われるのは光栄です。

 女神様をギャル擬きと言えるのは凄いですね。

 知っていると言うか……分かり易く言うと女神様によって転生しました

 女神様が言うには “魂の召喚” だそうです。」



 転生と言われて目を開くユイナとヒカリ。シンヤは余り分かってないように頷く



「そうそう、他の者が居ない時は俺のこと好きに呼んで下さい。喋り方も崩して貰って構いません

 それと、女神様から本名は聞かされてますが、シンヤさんでお呼びしたら良いですね。

 シンヤさんの元いた世界には転生の話しや小説は無かったのですか?」 



「シンヤで呼んで貰えたら助かるな。

 俺のいた世界には無かったが、一緒に居た勇者の世界には異世界転生や召喚される話の小説があると聞いたよ

 いきなり崩した話し方をしたけど良かったかな? アリュード殿下」



 アリュードは“大丈夫ですよ”と言って頷いた。

 いきなり崩した話し方になるシンヤとアリュードの顔を交互に見るユイナとヒカリ。

 すると、ユイナがおずおずとアリュードに手を上げる

 


「えっとすみません。転生した話しや女神様の話しをここでしても大丈夫ですか?

 外に護衛の騎士の方が2人しか居なくても聞かれたら拙いのでは?」



「ああ、それなら大丈夫ですよ。この部屋は防音、覗き防止あらゆる対策は出来ています」



「あの猫の獣人の女の子が、顔を覗かした時点で出来ていたからウインクはその合図って所かな」



 シンヤに驚きの顔を見せるアリュード



「それすらも見抜くとは、流石は伝説の[武神]ですね」



「ありがとう。ところで先程、魂の召喚と言ったけど転生と何か違うのか?」



「そうですね。女神様が言うには俺はシンヤさんと共に闘った[勇者]に近い素質を持った[勇者]でして勇者専用の【剣聖】のスキルもあります

 本来なら普通に召喚される筈が出来なかったそうです。

 女神様が言うには “あのクソハゲのせいでぇ!” と怒ってました

 まぁ俺自身は家族旅行の時に飛行機墜落で皆と一緒に亡くなりました。

 それで、何らかの理由で死産する筈のアリュードに転生しました

 尤も女神様が言うには神の力で行うのを召喚と言うそうで、俺の場合は魂の召喚になった訳です

 ちょっと長くなりましたね。ごめんなさい」



 アリュードの話しを聞いて考えるシンヤ



「そんな事はないよ。辛い事を話してくれてありがとう

 しかし【剣聖】スキル持ち[勇者]が居るなら本当に魔王が復活するのか? あの時倒せて無かった? いや確かに倒したはず……どう言う事だ」



「あの、アリュード殿下……私は[学者]なのですが女神様から何か聞いていますか?」



 考えに集中しているシンヤをチラッと見てから思い切って学者と言うユイナ。

 するとアリュードは驚いて



「ユイナさんが学者?! 聞きました! [学者]の素質を持った人を探して必要なスキルを覚えて貰うように言われました

 何でも[勇者]と言えど人の体なので負担が掛かり過ぎないように[学者]の力を借りて身に付けて下さいとの事です

 その本は本来なら帝城にあるのですが、砦に移るときに持って来ました。それ以外の本もありますよ!」



 思わず机に手をついて身を乗り出してユイナに近くアリュード。

 いきなりの事に思いっ切り仰け反ったユイナに



「あっ、ごめんなさい。つい嬉しくて……驚きますよね」



「あっ……その……此方こそごめんなさい、避けてしまいました」



 申し訳ない顔になり謝るアリュードと無表情のまま若干 顔が強張りながら謝るユイナ



「あのーちょっと聞きたいんですけど、ある理由で死産するって何かあったんですか?」



「……その理由は分かっていません。女神様も視れなかったそうですが、ほぼ間違いなく現帝王辺りが絡んでいます」



 確信を持った言い方に思わず顔を見合わすユイナとヒカリ。



「そうですね。話しておいた方が良いでしょう。

 1000年以上続く勇者と代々帝王の血を引くのは俺の母上です。

 現帝王は元公爵家の次男でした。所謂、政略結婚ですね

 何故なら勇者が男だった事から代々帝王になれるのは男だけ。結果、母上が正妃となりました

 そして何故か死産すると言われていた実際はそうですが、ならずに俺が生まれました

 でも、それからおかしな事が起こりました。」



 紅茶を1口飲んで一息入れたアリュード

 なるべく伝わり安い様に考えて



「それまで、病気1つしたことない母上が突然体調を崩し始めました

 その時、現帝王がいきなり側妃を娶りました

 侯爵家長女で、エレアナの母親です。娶った時には既にエレアナはお腹の中にいました

 それで、俺が10歳の時母上は亡くなりました

 母上の死を不審に思った者達が居たのですが、その者達に帝王は弾圧を始めました

 時に不正をでっち上げ爵位を取り上げて潰したり投獄したりなど暴挙に出たのです

 そして、俺の命が危なくなりトールベンの協力でこの砦に逃げることが出来ました

 トールベンは俺を守るために帝国近衛騎士団長だったのを俺の直属の騎士団長になってくれました

 帝国の【英雄】でもあり国民の信頼も厚いトールベンを、帝王も無碍に扱えなくて厄介払いもあったと思います。

 現に母上に忠誠を誓っている騎士達は来てくれて貴族達は鳴りを潜めて密かに援助してくれています

 今、帝王の廻りにはイエスマンが固まっています

 その後は、気付いたら側妃は正妃になり帝王継承権は俺から無くなりエレアナの旦那が持つ様になりました。

 それで、俺自身は女好きの駄目皇子を演じていました。以上ですね」



 ここで、カップに残っていた紅茶を飲み干したアリュード

 ヒカリが何かに気付いたようで



「あの……もしかして嫁いだ侯爵家の長女って……」



「ご想像通りジャルドを追放したシクリーニ侯爵家の長女メローニアです」



 やっぱりかーの顔になるヒカリ。ユイナは生唾を飲み込んでいた。

 そしてシンヤはアリュードの話しを聞いて再度考えていたのだった


 


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